第2話 残念でした
唇をふさがれては呪文は紡げない。
ゲームの世界だったから、誰もこれまでしなかった方法だったのだ。
言葉にならない叫び声が彼から上がるが気にしない。
もうすぐ発動するよ~と言わんばかりに輝きを増していた私を中心に現れていた魔法陣は呪文の続きを術者が言えなくなったので輝きを失いそして、消えた。
魔法はキャンセルされてもMPは消費される。
あれほどの大魔法何回もぶっぱなせるはずはないだろう。
「残念だったわね。金髪君、いやユリウス君」
魔法の発動が止まったことで私はドヤっと彼をみた。
杖で思いっきりぼこられると思ったのに。
彼は唇を抑え、茫然としている。
アレ?思っていた反応と違う。
「あの?アレ……どうかしました?」
それどころかだ、彼は突然泣き出したのだ。
図体はでかいのにそれはもう大粒の涙を流して。
泣かした!
泣かしてしまった。
口をおさえ時折嗚咽まで聞こえる。
本当のガチ泣きのほう。
そこまで泣かれると無機質な時と違い流石に罪悪感が出てくる。
「なんか、ごめん。あのさ取り敢えずコレが夢ならいいんだけど。そうじゃないならもとの世界に戻してもらえない?」
「謝罪が軽すぎる!」
いや、イケメンだしキスの一つや二つ経験は有るだろうし。
私を明らかに吹っ飛ばそうとしてたくらいだからやり返されたのがキスだけでよかったじゃないかと思う。
NPCは死ねば蘇れないのだから。
「君は自分が何をしたのかわかってないだろ!」
鼓膜が割れるかと思うほどの声量だった。
「キスの一つや二つでガタガタしないでよ、大人でしょう!」
思いっきりセクハラだし、通り魔的な案件だけれども。
ユリウスは私の襟元を掴み、殺す殺す殺すと物騒なことをいいながら揺さぶった。
その時扉が開かれ、彼しかいないはずの部屋には
沢山の騎士が現れたのだ。
何?なに?何事よ。
「先程の魔方陣は何だ!」
なるほど、この部屋に収まりきらないほどの魔法陣だった。
部屋の外がどうなっていたかわからないけれど、これほどの人数がきたということはかなり広い範囲で魔法陣が確認できたのかもしれない。
本気で私をこの世界から抹消しようとしてきてた。というか、私どうなってるの、パソコンの中に引きずり込まれたくらいだ、本当にこの世界で命を落とすレベルのだったのかもしれない危ない危ない。
「問題ない、今はそんな気分ではないさがれ」
ユリウスは騎士にそういって帰るよう促す。
「そんなわけにはいきません。途中で消失しましたが、大きさからして、未確認の大魔法を使おうとされていたことは明白」
冷静に切り返される。
私、未確認の大魔法でぶっとばされる寸前だったのか。
「問題ないのだ。説明なら後日するからとにかく今日はほっておいてくれ」
悲鳴に近い叫びだった。
同じことを淡々とずっと言い続けていたユリウスの様子に騎士もたじたじで後日と念押しして去っていった。
騎士が去るとユリウスはヘタリと地面に座り込んだ。
「あの、ユリウスさん?」
返事はない屍のようだである。
ユリウスがリアクションしないから、とりあえず、ステータス見れるかやってみた。
すると目の前に現れた。
おぉ、よかった。
あっ、道具もキャラクターが持ってたのそのまま持ってる。
装備品はと確認して私は固まった。
ただ一点を除いてはいつも通りだった。
しかし、私の左手には装備した覚えのない指輪がある。
左手を見てみるとはめた覚えのない指輪が薬指にしっかりとはまっている。
何コレ?
取ろうと試みるがはずれない。
装備画面を開き詳細を見る。
『結婚指輪』
私は自分の目を疑った、しかし何度見てもそこにはしっかりと『結婚指輪』と記入されている。
もう一度指輪にタッチしてさらに詳細な情報を開く。
『結婚指輪』
神の前で永遠の愛を誓ったものに贈られる。
内側にはユリウスと刻まれている。
※この装備は外すことができません。
地面で項垂れているユリウスの指を見てみると左手には完全に私と対になるだろう指輪がしっかりとはまっていらっしゃる。
えっ?どういうこと?なんじゃこりゃぁぁああ。
私はこの日ゲームのなかに夫ができた。
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