魔王
うわ、マジかこいつ。こんな所で何やってんだ?
「おーい、大丈夫か?」
俺が倒れている女の子に話しかけた。
隣ではハクとルナが変なもの、という目で見ている。
そしてその女の子は体をズルズルと這いより近ずいてきた。
ギュルルルル
こんな音を立てながら。
「お、お腹空いた」
そう言い残し動きが止まった。
そして俺は仕方が無いので女の子を担ぎに宿に入った。
カランカラン。
「いらっしゃ……い。ひ、人族だ!!なんでこの宿は隠蔽して見えなくしているのに!嫌だ!奴隷になりたくない!」
元気よく出てきた獣人の女の子は俺たちが人族だと分かり焦り顔を真っ青にした。
周りでは元々この、宿に泊まって酒を飲んでいる異種族の人達がいてその人達も同じような反応をしていた。
「わ、忘れてた。だ、大丈夫だ。俺は何もしない。本当だ。だから落ち着いてくれ」
俺はちょっと焦りながら言った。
「ほ、本当ですか?」
「あぁ、本当だ。それにこいつを見ろ」
俺は少し涙を流している女の子や宿に泊まっている客に見えるようにルナに嵌めていた【隠蔽の指輪】を外し元の姿にした。
その姿を見て周りは驚いていた。
「大丈夫だ、俺の仲間は獣人族だ。だが大切にしている」
「わ、わかりました。ではあなたを信用します」
こんなに慌てていた中奥ではジュージューと音が聞こえた。
恐らく料理を作っているのだろう。
「四名だ、ベットは二つあればいい」
「わかりました。では銀貨二枚です」
「いつまでもお泊まりになりますか?」
「ひとまず、一週間だな」
「わかりました」
なるほど、一人銅貨五枚か。高いのか安いのかよくわからん。
それにしても、やはりまだ言葉と瞳の奥から恐怖を感じているとわかる。当たり前か。
そんなことを考えながら俺は銀貨二枚を差し出した。
「ありがとうございます、それではご飯は朝と夜の7時に用意します。冒険に行く際に別料金を出せばお昼ご飯も作りますので」
「わかった、俺の名前は神夜だ。よろしく」
「私はミーヤと言います。ではこの鍵の番号が書かれてる部屋でお休みください」
俺は渡された鍵の番号を見た。201と書かれていたのでその部屋に向かった。
部屋を見つけて中に入った。
担いでいる女の子をベットに寝かせた。
ハクとルナはベットの上をぴょんぴょん飛んで遊んでいる。
俺は少し微笑みながらその姿を見ていた。
コンコン、とドアを叩く音が聞こえた。
「シンヤさん、もうすぐご飯ですよ」
「わかった、すぐ行くよミーヤ」
そう返事をしタタタタという足音が去りベットで寝ている女の子を起こそうとした時。
キラン!
と、女の子の目が光った。すると
「ご飯ーー!」
そう叫びながら部屋を出ていった。
それを見て俺もハクもルナも苦笑いしながら部屋を出た。
「んー、美味しいぞ、これもこれもどれも美味しいぞ!」
その女の子は次から次へと料理を口に放り込み頼んでは食べ、頼んでは食べを繰り返していた。
「お、お主たちか我をここに運んできたのは!」
「あ、ああそうだが」
「ありがとうだぞ、ちょうどお腹がすいていたのだ!」
「そ、そうか。それよりその料理代はお前がちゃんと払えよ」
「なっ、なんだと」
女の子は体に雷が落ちたように驚いた表情を見せた。
「って、当たり前だろ!」
「え?お主たちが払ってくれるんじゃろ?」
よく見るとこの女の子も可愛い、その姿で首を傾げるのは反則だ。
「今回だけだぞ」
「ありがとうなのじゃー」
その女の子は俺に飛び付いてきた。なので俺は優しく受け止めた。
だが何故か後から二つの冷たい視線が来た。
そして俺たちは机に置かれた豪華なご飯を食べ部屋に戻った。
「なぁ、そう言えばお前って誰だ?」
「そうじゃな、恩人には自己紹介をしておこう。我の名はミルフィーユ・ルーミル、三代目の魔王じゃ!」
このロリ巨乳の美少女、ミルフィーユ・ルーミルは腰に手を当て大きく育った胸を張り自分を魔王と名乗った。
一応【鑑定】
【名前】ミルフィーユ・ルーミル
【種族】魔族
【性別】女【年齢】164
【レベル】328
【称号】三代目魔王 歴史を知るもの
【HP】375124
【MP】342184
【攻撃力】542134
【魔攻力】784646
【防御力】454623
【魔防力】453497
【俊敏力】534542
固有スキル:|冥府の門(タルタロス)
スキル
身体強化 魔力消費量軽減(大) 魔力上昇(大) 体術Lv9 剣術Lv8
魔法
火魔法Lv10 雷魔法Lv9 複合魔法Lv8 暗黒魔法Lv10
うわ、マジかよこいつ。本当に魔王じゃねぇか。
「お主たちには、特別にミルフィーユと呼んでくれてもいいぞ」
「そ、そうか。なぁ、ミルフィーユ」
「なんじゃ」
「俺、一応勇者で人族なんだけど」
「・・・・・ハ?」
ミルフィーユは口を大きく開け目を見開き何とも魔王とは思えない間抜けな顔をしている。
「な、何を言っているんじゃ。そんな冗談は我にさ通じんぞ」
唇を振るわれ声音からは少し恐怖を感じたと分かる。
「いや、ほんと」
「マジ」
「マジ」
「「・・・・・」」
俺たちは見つめ合いながらほんの数分間、静寂が続いた。そしてその静寂はすぐに消え去った。
「嫌じゃ嫌じゃ!殺さないで!殺さないで!まだまだ美味しいもの食べたい、食べたいのだー!」
なんと魔王は涙を目尻に溜め込み手足を振るい床に転がり駄々をこね始めたのだ。
「おーい、おーい」
「嫌じゃ嫌じゃ!嫌ったら嫌なのじゃーー!」
「おーい!」
「黙るのじゃ黙るのじゃ!絶対に嫌なのじゃ!」
「だから、おい!」
俺は駄々をこね暴れまくっている魔王様の肩を掴みこちらに顔を向かせた。
「な、なんじゃ!」
「確かに俺は勇者だ」
「やっぱり殺されるぅぅぅぅぅうう!!」
「だからちゃんと話を聞けって!確かに俺は勇者だがお前を殺さない。絶対に殺さない!」
「ほ、本当なのか」
「あぁ、本当だ。それでお前、魔王なのになんでこんなところにいるんだ?人族と魔族の中で確か戦争が起きてるんだろ?」
魔王と聞いてその疑問がすぐに浮かんだ。魔族と人族は出会ったら必ずと言っていいほど殺し合っている。なのにこいつは魔王でありながらも人族の街でご飯を食べ宿に止まっている。だから聞いたのだ。
「確かに、戦争は起きている。だが我らは何もしておらぬ。人族の奴らがいきなり我ら魔族を攻撃したのが始まりなのだ!」
「それはどういうことだ?」
「これから話すのは、魔王から魔王へと言い伝えられてきた話なのじゃ。エルフ族も獣人族もドワーフ族も精霊族も同じように言い伝えられている」
ミルフィーユはそう切り出すと歴代から言い伝えられてきた事を話し始めた。
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