第5話 ミルの理由
1.
重い。重いよ、ミルさん。
翔一は夢うつつの中で、制限された自らの知覚だけを頼りに、心の中で叫んでいた。
ベッドの上の翔一に、掛け布団の何十倍もの重みがかかっているのだ。それがヒトガタの女性であることは、手足が生えている感触と、えもいわれぬ柔らかいボデーであることが物語っている。
こんなことをしてくる知り合いは、ミルしかいない。
いや違う、知り合いでこんなにふくよかなのは、顔を見知っている程度の女性職員を除けば、ミルしかいないのだ。
もぞもぞ。
(右側は細身……イリューシュ……なわけないよな)
そんなことで、上がミルだという確信が揺らぎ、翔一はついに目を開け、唖然とせざるをえなかった。
彼の上に乗っていたのは、予想どおりのナイスバディ。いかにも『あ、起きた』という顔をしたあと、艶やかな笑みをこぼしたその顔に、全く見覚えが無い。
右に目を向ければ、ボーイッシュな女性。男が10センチの間近にいるというのに、どことなくうっとりした眼で翔一を見つめて微笑んでいる。
反対側にもう1人。上の女性と同じくナイスバディだが、こちらはより色気ムンムンのお姉さん。下着と見まがう布地面積の服を身に着け、それだけで意識が胸の谷間に吸い込まれそうになる。そして左右の2人とも、やっぱり面識は無い。
つい2週間前の翔一なら、三者三様のほのかなフレグランスが香る女性たちに、喜んで声をかけただろう。だが、今はもう無理である。
なぜなら、髪が赤いというだけでなく、そっくりなのだ、皆。
「……えーと、ミルさんのご家族ですね」
「あら、いい声」「ほんと、子宮に響いちゃう」「意外だね」
声もよく似ている。返答になってないが。
「翔一さん?」
と上の女性が呼びかけてきた。素直に返答すると、3人そろってさらににじり寄ってきた。両横の2人など、布団の中にスルスルとすべりこんでくるではないか。
「あなたのこと、もっと知りたいの」「私も」「ボクも」
じっ、と見つめられる。その瞳がどことなく虹色の光を帯びだした。
こんな美人3人に密着されて、見つめられて、囁かれる。
悪くない。というか、こんな経験、もう二度とないだろう。
でも、
「あの、申しわけないんですが」
「なぁに?」
「腹が減ったんで、どいてもらえませんか?」
「……あれ?」
まさに鼻の先がくっつきそうなほど顔を近寄せた上の女性が、不審そうな声を上げた。が、退く素振りも見せない。
もう一度同じことを言おうとしたら、それより早く右に顔をぐいっと向けさせられた。
「今度はボクを見て」
一生懸命に、上の子と同じ虹色の眼を凝らす彼女への返答は、腹の虫が鳴く音だった。
「……魅了が効かない?!」
「当たり前だ。魅了やチャントが通用しないからこそ、彼が選ばれたのだ」
突然寝室の戸を開けて聞こえてきた声は、明日田のものだった。女性の1人が慌てて翔一の上から降りたのは、たぶんそのままの姿勢だと明日田に尻が向いてるからだな、と邪推する。
続いて耳に飛び込んできた声は、うわずった、そして憤慨したものだった。
「姉さんたち……! な、なにしに来たんですか!」
ああ、やっぱり。3人組はミルの姉妹だった。その内の1人、長女と思しき色香の女性が口を開いた。ちなみに彼女とボーイッシュは布団に入り込んだままである。
「プロジェクトに選ばれたヒトがどんな男の人か、味見しに来たのよ」
あけすけな言動に、ミルとイリューシュ、津美零まで赤面――なんで津美零までここにいるんだ?
ミルが歯軋りをして、姉たちに詰め寄る。
「帰ってください」
「なんで? いいでしょ別に。プロジェクトに支障をきたさない範囲で
「そうそう」
と次女っぽい女性も乱れ髪を指で梳きながら、とんでもないことを口走った。
「あんた不能なんだから、こんないい男の側にいたって意味ないじゃん?」
「わ……わたしは、そんなんじゃ……」
ミルの眼にたちまち涙が溜まり、玄関に向かって走り出した。
その後ろ姿を見て翔一はためらわず、ベッドから飛び降りると追いかける。
部屋に残された者が呆然とする中、明日田の低く抑えた声が響いた。
「帰れ」
「あ、あの……」
抗弁を試みようとした姉妹は、明日田の眼圧に怯え帰って行った。
後ろ姿を追いかけること3分ほど、ミルはようやく川の堤防で止まってくれた。お互いに息を整え、顔を見合わせてほっとする。
そのあと、ミルはくるりと翔一に背を向けた。散りかけの桜並木をゆっくりと歩きながら、ようやく落ち着いた声が、ためらいがちながらも聞こえる。
「わたし……ダメな女なんです……」
「ダメって、どんな?」
「……男の人の裸とか、その、エッチな話とか」
そう言われて、ふと思い至る。ミルは撃破した顕獣人から欲望の塊を回収するとき、おっかなびっくりだった。てっきり危険物ゆえと思っていたが、
「そっか……顕獣人の中の人、みんな素っ裸だもんな……」
翔一のつぶやきにミルは見返って、はにかんで笑った。元に直ってまた歩き始めた彼女に並ぶ。
「だから……このプロジェクトに参加したんです。学校も辞めちゃったし……」
「学校って、高校とか大学とか?」
「いえ、サキュバスの養成校です」
(そんな学校があるんだ……魔界すげぇな)
そして、思いついたことを訊いてみた。サキュバス養成校と言うからには、女子高ならではのアレコレがあるのかと。
「ええ、まあ……」
(虐められて不登校になったのか……)
それはミルの曇った表情から、たやすく読み取ることができた。
ヒトの専門学校と違って、彼女たちは種族としてそこに通うのが当然なのだろう。そんな中に、不適格者が馴染めるはずもないと思う。
「お姉さんたちにも、やっぱり?」
「ええ、サキュバス失格だ、不能だって……でもわたし、どうしてもできなくて……まして不特定多数の男の人となんて……」
慰めるべき言葉が見つからず、しばらく黙って歩いた。春の用水は午後の日差しを浴びて、きらめきながら翔一たちの傍を通り過ぎていく。まるで素知らぬ顔が一番だと囁くかのように。
だが、そうはいかない。翔一は別の話題に転じた。
「このプロジェクトが終わったら、どうするの?」
それは意外な質問だったようだ。うつむいてしばらく考え込んでいたが、照れるような笑い顔を見せた。
「ごめんなさい。何も考えてませんでした。魔界から……あの環境から逃げ出すことだけしか考えてなくって」
「そっか……」
またしばらく黙って、桜並木の下を歩く。時折川面を通り抜ける風になびく髪を押さえる仕草なんて色っぽいんだが、
(もったいないというか、なんというか……)
その時、タイムリミットを告げる音が鳴った。翔一の腹が、またしても。
眼を見張り、続いて吹き出すミル。ツボに入ったらしく、身体を折り曲げて笑っている。
「ご、ごめんなさい……帰りましょう。お昼、いっぱい作りますから」
「いや、それはありがたいんだけどさ」
「?」
「キミら、勤務中じゃないの? まだ」
2.
そして部屋に独り残った翔一が満腹になった瞬間、顕獣人出現の連絡が入った。
「こんなことなら、やっぱ残っといてもらえばよかったな」
誰に聞かせるでもない愚痴をつぶやきながら、シャワーを手早く浴びて着替える。
少しだけ準備体操をしてみる。まだ身体のところどころが痛いけど、動けないわけじゃない。
そういえば、
「
無いんだろうなたぶん。
そんなことをあれこれ考えながら自転車で現場に到着。規制線をくぐって、警官に案内してもらう。
風に乗って、野次馬の話し声が聞こえてきた。
「なんだあいつ?」
「私服の刑事かな」
そっか、ジャージだからか。この格好はまずいな。
そう記憶に刻みながら歩くと、いたのはあの顕獣人だった。昨日とは違って器物損壊に精を出している。わめいている言葉も相まって、いわゆる『イキってる』感バリバリだ。
ミルたちはまだ来ていないようだ。でも、不思議と逃げたり隠れたりする気になれない。
「そうだよな……」
つぶやきが聞こえたのか、顕獣人が翔一を見つけた。
「テ、テメェキノウノ! ショーコリモナクデテキヤガッテ!」
「分かるぜ。俺も昔、そんな感じだったからな」
ちらりと後ろを振り返る。野次馬からはかなり離れてしまったから、ここで変身しても大丈夫だな。
盛大な音がした。向き直るまでもなく、顕獣人が転んだのだ。自分が破壊した物の破片につまづいて。
「そうそう、すぐにドジ踏んでペシャンコにされて。ヘコむよな」
でもよ。翔一は嗤った。
「だからって、選んだ道が
ミルたちが向こうから来た。立ち上がる顕獣人越しに声をかける。
「どっちがやるんだ?」
ミルが黙って手を挙げた。彼女の顔にも、以前とは違う強い意志が感じられる。呪文が唱えられて翔一の身体は向こうへ引っ張られ、殴りかかってきた顕獣人に肩透かしを食らわせる結果になった。
「よし。片付けましょう」
顕獣人を殴り飛ばす。反撃は翔一の骨装甲を繰り出してガードしつつ、返しの一撃を食らわせる。
「翔一さん?」
「なに?」
「もしかして、怒ってます?」
翔一はうなずこうとして顔が動かないことに気付き、代わりに指の骨でサムズアップをした。
「ああ、今度はキッチリ決めようぜ」
「はい! でも……」
「大丈夫。策は考えてあるから」
「ふふ、じゃあ、お任せします」
またへたりこんでブツブツつぶやいている顕獣人に向かって、必殺技を発動!
駆け寄って突き出す拳を見て、顕獣人がまた吠える!
「マタバンカイシテヤルヨォォォ!」
だがその挽回の一撃はまたも肩透かし、いや、骨透かしに終わった。
翔一がミルの拳に先んじて繰り出した骨の拳に反応して、顕獣人はそれを強打したのだ。
アッパーに吹き飛ばされて、飛び散る骨。驚きに眼を見張る顕獣人の顔面を、ミルの拳が打ち抜いた!
喜びたいところだが、骨装甲を痛打された痛みのほうが勝る。くぐもった声を思わず上げてしまうと、
「大丈夫ですか?」
心配そうなミルの声に、何かの飛来音が被さる。見ればなんと、飛び散った骨が飛んで来たのだ。もとの場所に開いたスリットに次々と吸い込まれていくのを眺めて、
「なんつーご都合システムだよ」
思わずツッコミを入れてしまった。
ま、それはそれとして、
「イリューシュ、塊取ってきてくれ」
「お断りだ。なんでこのわたしが、あんな醜いものの側に行かねばならないんだ」
こいつもかよ。ま、可愛い赤面に免じて、代わってやるぜ。
変身を解除して翔一が取りに行ったのであった。
3.
翌日の夕方、翔一は居酒屋にいた。前に所属していた課の歓送迎会だ。
親睦会の会長である課長のあいさつに続いて、異動した職員が階級順にあいさつをする。翔一は4人目だった。
型どおりのあいさつをして終わる。目の前に料理が並んでいる状態で、こじゃれたトークや、声涙共に下る大演説をぶつ必要はまったく無いのだから。
それでもしゃべりたい人はいるもので、異動してきた職員も含めてたっぷり10分はかかってしまった。
乾杯をして、ひとしきり飲み食いをしたら、ビール瓶とコップ片手にあいさつ回りだ。この課の職員には、入職から3年間、いろいろと世話になった。それに、またどこかで同じ課になる可能性だってある。だからここは型どおりではなく、心底からお礼のあいさつをして回るつもりだった。
だが、最初のほうでいきなりつまづいた。課長補佐がニヤニヤと言いたれたのだ。
「いやあ、丸目崎君は運がいい」
「そうですか?」
「かわいい子がいるんだろ?」
「ああ、菱さんですか」
さっくり首を振られて、なんとなくむかつく。
「ちゃうちゃう、臨時職員の女の子! かわいいんだって?」
そっちか。あの2人はどちらかと言うと美人の類だと思うが、この手のオッサンにとって『見目麗しい若い子』は一様に『かわいい子』である。
黙ってうなずくと、写真を見せろと言い、撮ってないというと、不思議そうな顔をされた。
「あれか? 君は、ホモか?」
「毎日会えるのに、写真を撮る必要無いっすよ」
おまけに身体も密着できるし。
というか写真なんか撮ったら、
(イリューシュは斬りかかってくるだろうな)
その後もダラダラと続く課長補佐の埒もない愚痴に付き合ってしまった。適当なところで切り上げようとした時、オッサンがぼそっとつぶやいた一言を、翔一の耳が拾う。
「なんで副市長はあんな課にこだわるんだろうな……」
それ以上は聞けず、翔一は別の職員の前へと移ったのだった。
「マルくん酒臭い」
「申しわけございません」
昨夜は3次会まで行って、午前様だったのだ。二日酔いで休もうかとも思ったが、今日は休めない仕事がある。
「西崎さんが絡んできてさ、もう参ったよ」
「ああ、あの人、酒癖悪いんだってね」
そんな会話をしていると、ミルたちが来た。あいさつの声もウキウキしているように聞こえるが、翔一にとっては返礼も苦行である。
「ふーん、カンソウゲイカイというのか」
「そんなになるまで飲まされるなんて、大変ですね」
「いや、半分は自分から飲んだんだけどね……」
へばって机に突っ伏している翔一の横で、津美零が手を叩いた。
「そういえば、この課もやらないのかな?」
「課長次第じゃないのか? ……って、課長は?」
重い頭を動かして見れば、課長は席にいた。だが、様子がおかしい。きちんと背筋を伸ばして、前を見ている。ただそれだけ。顔には何の表情も浮かんでおらず、もちろんこちらの会話に反応も見せないのだ。
気分が悪くて覚えていないが、登庁のあいさつをした時も返事が返ってこなかった気がする。
津美零が課長の所まで行き、すぐに引き返してきた。
「どうだった?」
「……息はしてる」
「いやあの、課長さんは――」
ミルが上げた声に、父親の声が被った。
「カチョサンは生きてマス」
「いや、それは見れば分かるんですが」
ヴィッサリオが明日田と一緒に部屋に入ってきた。明日田が後を受けて説明してくれたところによると、課長はプロジェクトの説明を聞いたが受け入れを拒否したため、操っているとのことだった。
その時、始業のチャイムが鳴った。同時に課長の椅子も、音高く。
スタスタと脇目も振らず部屋を出て行く課長を、呆然と見送る。
「チャイムが鳴り終わると同時に散歩に行くようにしてあります」
「あの、業務怠慢ってことになっちゃうんですけど……」
津美零のおずおずとした指摘は、明日田のクールな返答でもって応えられた。
「大丈夫です。代わりはいくらでもいますから」
(笑うところ……なのか?)
説明を受けた課長が『島流しされてのんびりできると思ってたのに』と頭を抱えたので、夢をかなえてやったのだ。そう説明されても、ちっとも納得できない公務員2人であった。
4.
今日の休めない仕事。それは、午前10時から始まった。
場所は市の南西部にある商店街。そこのメインストリートを使っての映画撮影の警備――正確には警備の手伝い――だった。
観光課の職員とともに持ち場について2時間、なんとか生き延びて、翔一はスタッフ休憩所に戻ってきた。
入ってすぐ大きな溜息をついたのを見たミルが、心配そうに近づいてくる。
「大丈夫ですか? とりあえず、お茶どうぞ」
「ありがと……あのさ」
お弁当ももらってテントの端のほうに座りながら、声を潜める。
「はい?」
「あの俳優さん……もしかして、魔族?」
「あ、分かるんですか?」
なんとなくだが、ヒトとどこか違う気がしたのだ。どこがというのはうまく言えないのだが。
津美零が入ってきて、こちらをすぐににらんだ。ミルからお茶と弁当を受け取って、
「なに話してたの?」
(そんな大声で訊かれても……)
他課の職員もいるこの場で、声高にできる話題じゃない。口ごもる翔一をにらむ津美零の眼がますます厳しくなった時、ミルからやっと助け舟が出た。
「主役の俳優さん、カッコよかったねって話してたんですよ」
「……それをヒソヒソ話で?」
津美零はいったいなんでこんなにキリキリしてるんだろう?
だが、ミルはあくまで冷静だった。
「イリューシュさんが帰ってこないから、2人でこっそり見に行こうかって」
「イリューシュちゃん? あれ?」
観光課の職員の1人が声を上げた。ここに一緒に帰ってきたはずなのにと言う。
「そういや、なんか行きの車中で妙に興奮してたけど、まさか……」
「そう、そのまさかです」
いぶかしむ津美零に、ミルは意味ありげな笑みを見せたのだった。
3人でしばらく探して、イリューシュを見つけた。ロケ隊のバスの近くに生えている樹の下で。
樹の陰からそっと顔を出して、落胆したように肩を落とす。またしばらくしてから同じことを繰り返す。その姿はどう見ても、
「出待ちのファンだな……」
「ふーん、ああいうのがタイプなんだ」
「あはは、いやまあ、いま魔界でトップクラスのイケメン俳優さんですから」
ああ見えて、存外ミーハーなんだな。そうコメントしたら、津美零がクスクス笑い出した。
「お姫様って、俳優とか好きだよね。昔っから」
「王子様もな」
そこまで会話して、イリューシュに気付かれた。
「お、お、お前ら……」
「ほら、出てきたぞ」
ロケバスのドアが開いたのだ。
ばっと振り向いて樹の幹に取り付いた青髪の彼方に、例のイケメン俳優が見えた。スタッフと談笑しながらどこかへ歩いていく。と、こちらに気付いたのか彼が振り向いて、にこっと笑った。
すぐに元の向きに直って去っていくその後ろ姿を見送るイリューシュは、
「おおお輝いてるな……」
「こんな姿、初めて見ました」
「爽やかイケメンだったね」
「そっちかよ」
津美零も女の子なんだな。そのことを再確認したお昼のひと時だった。
午後は場所をちょっと移動して、ロケ現場の周辺警備。尋ねてきた野次馬に、教えられたとおりに情報を流す。
ロケに来ているのは魔界のテレビ局。つまり彼らが撮影した映像は、この世界では流れない。だから、『外国のテレビ局がロケに来ている』のだ。
「そっか。どおりで話してる言葉が意味分からないはずだよ」
みんなそう言って去っていく。
俺もほんの数週間前まで、あちら側にいたんだな。そう思うとなんとなくむずがゆい。
それにしても、
(俺たちはともかく、観光課の人たちはそれで納得してるのか?)
やがて、撮影が終了した。交通規制などの道具を片付けて、あとは職場に戻るだけだ。
でも、イリューシュがいない。電話にも出ない。
仕方がないので、観光課の職員には先に上がってもらって、みんなで手分けして捜索することにした。
ぼやきつつ探すうち、目指す彼女を見つけた。だが、同時にとんでもない状況に遭遇してしまったのだ。
ロケバスからちょっと離れた場所でイリューシュと相対しているのは、例のイケメン俳優だった。魔界語でなにやら話しているが、雲行きが怪しい。
イリューシュの目には、涙が溜まっていた。せつなげで懸命な彼女を手ではらって、俳優はさっさと車上の人となる。
すぐにドアが閉まり、動き出すロケバス。イリューシュは2,3歩後を追ったが、その場に立ちすくみ、うなだれてしまった。
(重いなおい……)
翔一は声をかける気にはなれず、そっとその場を離れた。
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