ただいま、戻って参りました。 その二
「お
戸口にいる私に気付いた
私を〝おとうさん〟と呼ぶのは、旋が全力で甘えたい時だ。私も、迎え入れるために両腕を広げる。
しかし、善いのか? 世界の誰かと共闘しているはずなのでは。
私の思惑など消し飛ばすように、旋の
兄弟の中では、旋が真っ先に飛び付いて来る。その様子は遊び足りない猟犬の子のようだが、血統書付きの優美な猫にも想える。
ゲーネファーラの
善かった。私も入浴後の上、
「ただいま、旋」
芳香に包まれた旋の髪を手で
いつまでも抱き付いて来るから〝おしまい〟も込めて、梳いた手を旋の肩に乗せ引き離す。
この時の次男坊は、とても不服そうだ。私が意地悪をしている気分になる。
それはそうと。服装は、どうかな。
淡い茶色の
学生やリュリオン人なら仕方ないが、古式ゆかしいゲーネファーラ邸で身を置く以上、シャツ一枚で過ごす事など許し
最近では簡略化も進み、上流階級でもシャツ一枚でまかり通るようだが、
私だけが気になるのかもしれない。タイに
言い出せば尽きないが、細かい事を言っても煙たがられるだけだからな。
ん?
濃い青の
気付いて欲しそうに、水色の視線を私に注いでいる。耐えて待つ豆柴のような三男坊。
「ただいま、律」
私がマヌレヴェーエを誘うように両腕を広げると、律は遠慮がちに近寄る。が、割りと
「ロゼル、お帰りなさい。無事に帰って来てくれて、本当に嬉しい」
旋も含め相応の姿に後退させて中等科へ通わせているが、律の強い希望で
心配性の律の態度も判らなくはないが、もう少し信用してくれないだろうか。
「無事は、いつも通りだろう? そこまで不安に感じる必要など」
「ロゼルが死んだら、俺も死ぬ」
何を言っちゃってるの、この子!
いけない。
違う違う違う。何故、そんな話しになるんだ。普段から表層意志領域で考えていそうな事だが、声に出す律でなはい。
もしや、ヒトで言う所の心理面も後退するのか? 以前、九央で過ごした頃、律を幼児姿に改変した事があるが、かなり感情的な言動だった。
これは興味深いが、それはそれとして。
「ほら、次は
律の、
「俺は結構です。お帰りなさいませ、お師匠様」
「ただいま、廻」
仕方ないから、この場で挨拶を伝える。
この長男坊の姿。指示があるまで待機を貫き、自発的に任じられた役割を果たす、大型の軍用犬のロットワイラーみたいだ。
アーレイン=グロリネスの場合と大違いだな廻は。迷わず飛び付くだろうに。
少し寂しいぞ。廻の髪にも触れたかったのに。黒髪とは言うが、ヒトの場合はとても濃い茶色に相当する。正確には黒ではない。
廻や律は、自然界の生物にもあるような黒と言える。当然だが、旋も触れ心地も抜群だ。
近頃は、
とは言うものの本来、狙っているのは
しかしなぁ。都長のように、勢いで触れられる相手ではないんだよな。
あの手合いが、最も対応に苦慮する。既に手の内にあるとは言え、籠絡までには時間を要するだろう。
在純青一郎は
在純青一郎が最も信頼を置き
それだけではない。在純青一郎は間違いなく、リュリオンで最も強大な
私も、
平穏は、それぞれにあって当然だ。
定住して育み、
我々は、その
日々の日常が、どれ程に尊いのか。与えられた役割を、真面目に一生懸命果たしてくれるからこそ、起こり得る奇跡だと言う事を理解しようともしない連中がいる。
連中は、火種を撒き散らし安全圏内で見物している。ならば私が、刈り取って連中に突き返すだけだ。
私の背後にあるものを、
いつもいつも私に不快な
そうだとしても、私には
私は、
「ロゼル、怖い顔をしないでおくれ。私にも、お帰りの挨拶をさせてくれないかね」
実は気付いておりました、伯爵。考え事をしている最中にあって、ずっと両手を広げて待機していらした事を。
「失礼致しました、伯爵。ただいま、戻って参りました」
変わらずの位置で、帰還の報告をする部下と想われても仕方がない一礼を捧げる。
一礼を解き、再び伯爵を視界に入れると、老練の美しい御尊顔が泣きそうになっていらしたので、吹き出しそうになった。
そこまで? そこまでの価値、私にはないと想うのだが。う~む。
伯爵も気になっていたが、もっと気になる物がある。
聞き覚えのある声で、悲鳴が聞こえる。今まさに、負傷し
これ、プリムに酷似していると感じるのは、私だけか?
「あ~、気付いた?
「あら、
私の視線に気付いた旋が、
伯爵と廻が、歴史的価値がある調度品と一体化しようと試みる気配がする。
律が、回線を引き抜き
「ねぇ、隊長さん。報告義務を果たしてくださらないかしら」
よりによって、私を御指名!? 振り返りたくない。これ、確実に無事では済まされないだろう?
不退転。ここで、適用されないようにするためには、誰に祈るべきなのだろうか。
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