ただいま、戻って参りました。 その三
現場に入れば、単独行動を任される。後方支援は、
背に
しかし、現在。
私は、孤立無援を味わっている。
伯爵と
私を案内してくれたテレーズ、プリムに付いていた使用人は、
寝るためだけに帰宅し、自室にいる私に逃げ場はなかった。
「エレアノール=ロゼル=ロートレーグ。どんな教育をなさっているのかしら」
どう、しよう。怖い。物凄く怖い。
その前に、
「基本的な所は、アーレイン=グロリネスだし、私は戦闘訓練を」
「今。この、リュリオンにおいて。最大の権力によって、
「その、私です」
「ですわよね?」
威圧が凄いな本当に。
「ロゼルの御役目が、どれ程に過酷で尊いのか。
また説教か。何故なんだよ、本当に。
私は立場も名前も体格も違うのに、これ程までに
この時ばかりは、ヒトの身の上ではない事に感謝する。こんな状況下など耐えられない。血色を失い、触れ伏して震え、穴と言う穴を解放する事になるだろう。
顔色も変えず、表情に動揺も浮かべない。四肢を不動にし、無礼のない程度を保ち
「引き続き、警護対象に当てて下さる恩情は心から感謝しています。
ビュスコー=ジット
善いな、女性は。朝も夜も、夏も冬も服飾は輝いている。羨ましい。私が履いても到底似合わない。
「ロゼル? 聞いていらっしゃるの?」
「はい、
落ち着こう。集中しろ、私。
そうだ、祈ろう。この場を切り抜けるためには、祈るしかない!
曲がりなりにも私は、
加護は満載だ。見放される訳がない。
問題は、どちらに願おうか。
うん、セゼン神にしよう。
「教育現場は、変わり始めたばかりだと聞きます。そうは言いましても、一朝一夕で激変するはずがありません。日々、積み重ねと
来た、着信だ!
陽の主たるセゼンの御神よ、魂からの親愛と感謝を捧げます。祈りの所作を添えられませんが、どうか赦し
「プリム、済まない。着信が入ったから出ても善いかな」
プリムは無言で、イブニンググローブに包まれた綺麗な手をを差し出し、了承の仕草で伝える。
嬉々とした雰囲気を抑圧するのは大変だが、平静をよそおう事には慣れている。
二つ折り状態の
これ以上、プリムを刺激する勇気も気力も残っていないのに。対応など出来る訳がない。
祈る相手を間違えたのか!? 何だよこれ、罰か。罰でも受けている最中なのか?
そうか、考えてみれば、モルヤンには
「あら、いかがなさったの? ロゼルへの
「相手を確認したから大丈夫だよ。
言いながら、私は
「遠慮なんて、なさらないで。さあ、掛け直して下さいな」
普段なら
もしも私がヒトの子ならば、寿命が縮む程の微笑みを浮かべないで欲しい。
千年前の
「もしかして、長官様かしら」
魔女、
「
表層を読まないでくれよ。
「判ったから、もう勘弁してくれ。普段ですら、シグナと話しをしていると殺気立つのに。
「あら、まるで
距離が空いていると、匂わない薔薇の芳香が強くなる。女性の中では、背が高いプリム。ヒールも手伝い、顔の位置も詰まる。
努力を重ねた、女性らしい線、弾力を持つ四肢を寄せて来た。
「姫君、言動が合っていないぞ」
「
上質なイブニンググローブに包まれた腕が、私の首や背に回される。耐えられるかな。変な声が出そう。
「
結局、仲良しだと想うんだよな。
などと考えてながら、私はプリムから少し顔を反らす。貴夫人に対して無礼千万だが、何かの
ジルに刺されるのは御免だ。プリムも、私の動きを特に非難しない。
「
「狙うって、気持ち悪いな」
「
確かに、欲望に
〝姿なき沈黙の市場・マルーレード商団〟のように、向こう側の住民でありながらこちら側の世界を
気付いた頃には、ヒトの子の手に余る
我々は抵抗するため、何度も
背後を支え切れない可能性に、呑まれそうになった事もある。
その時、私の左側で支えてくれたのは――
「ロゼル?」
「ん?」
「気を悪くなさって?」
考え事、読まれたかな。
「らしくない顔になっていましたわよ」
下品な顔になっていたわよ。
プリムは遠回しに、そう言っている。育ちが善いと、相手を非難する直接的な表現をしないものだ。予想外のプリムの一言に、私は反らした顔の位置を元に戻す。
絶妙な間合いで、プリムの唇も魅惑的な肢体も離れていた。
「冗談よ。とても
そう言われると、見透かされた羞恥で顔が火照る。私には血も涙もないが、赤面だけはする。
これも、初恋の君に調教されたせいだ。
「誰を思い浮かべたのかしら。白状してもらいますわよ」
言いながら、プリムは白を基調としたシシュトーブ王朝中期の特徴を持つ椅子に、見る者を引き寄せる腰を下ろした。
「それと、お小言はまだ終わってなくてよ」
罪なき
八住兄弟が持ち込んだダイニング一式が
諦めるしかない。判断した私は、
「
プリムの素直な礼を受け、私は向かい側の席に着く。
「
長い夜になりそうだ。
プリムは声に、私は喉の奥で発した言葉は、ほぼ同時。英傑を生み出した、古い血統の主を表すような荘厳な空間にはやがて、積もる話しが尽きる事なく私達を繋いでくれる。
一室を
【
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