第六十六節 公と、私と。士紅の場合。 その三
商社のような
「やあ、ゴメンゴメン。待たせちゃって」
早過ぎる準決勝・決勝戦の終了時間。
交通渋滞に巻き込まれた日重の事情が合ってしまい、少々彼らは取材待ちを体験していた。
二度目の顔合わせだが、初見での印象、何よりも顧問・監督の
軽い質疑応答と、賑やかな記念撮影が済んだ頃合。
「残念ながら付け入る隙がないね。不自然なくらい」
「……妙な言い方ですね」
「数年前からたまに感じるんだが、だまし絵を見せられている感じ。確かに上手くて強いんだ。でも、ちゃんとしているのが至極数名。それと、気を付けて欲しい選手が一名。四年生の、フレンヴェイリ=ハーネヴェリア。ついに〝壊し屋〟の通り名が付いてしまった、パワープレイヤーだ」
日重は、肩掛け鞄から紙の束を引き出し、
寄って集まる、視界に入った対象。証明写真だと言うのに、顎を上げて
目を合わせる相手を小馬鹿にする表情をしているが、メディンサリとは、また異なる方面の貴族然とした顔立ちだった。
顔写真の正体を知る深歳は、厄介者を見るような形に眉を
「彼は、連堂中等部に流れ着いた訳ですか。ご想像の通り問題がある生徒ですが、家名もあって下にも置けない。何とか、体面だけは保ちたいんでしょうね。公立ではありますが、ゲーネファーラの
「社交界でも有名ですけどね。この人」
「は~ぁ。確かにのぅ」
既に、大人社会に引きずられるメディンサリと
それを
その中にあって。
そんな士紅が視界の
「
「待ってくれ」
「どうした」
「この流れ、もしかして説教が始まるのか?」
つい近い時間に味わったばかりの気配に、士紅は拒絶反応を起こした。
「そのつもりだ。お前の事情に立ち入るつもりはないが、同級生に、サボっていて何故に注意をしないのか問われる事がある。既成事実のため、厳重注意を掛けなければならない」
「真面目過ぎるだろう。そんな必要は」
「そこだ」
「ど、どこだよ」
「こちらは、至って真面目に丹布と向き合っているつもりだ。先程の話し通り、言いたくない事も多々あるだろう。その中で、学校生活とは」
士紅は、何とか
結果は、
士紅は早々に、戦わず、抗わず、諦めたようだ。
士紅は整い過ぎる
「おかしい。何故に私は、立場も名前も体格も違うのに、これ程までに
そこでは、やはり気取られる事のない
士紅は、ヒトの子ではない。
世界の
とは言え、その存在が伏せられているのかと問われるなら、〝
ヒトの子でありながら領分を超越し、士紅達の存在に触れ得る者もいる。
〝
例えば、
例えば、
士紅は、優しくも凄惨な常識によって、堅固に護られた箱庭の内に存在する。相手を都合だけで厳選し、見合う情報と言う名の割り符を与え、あるいは提示し続ける。
〝
それは、蜘蛛の糸よりも細く、
士紅が負う、事情の総てを把握する存在は〝沈め続ける彼女〟と〝掲げ続ける彼〟のみ。
〝彼女〟と〝彼〟より他に、士紅の正体を
それを士紅は、
「っふふふ」
一つ、喉に息を留め小さく笑う癖がある、士紅の息が立つ。
「何が
説教中、黙していた士紅が、小さく笑う様を
「
「また、そうやって話しを折ろうとするな! 丹布、そもそも、お前はだな!」
分かりやすい昂ノ介の照れ隠しと同時に、説教が再開した。端整な容貌に、表情が
それは、場面に反して微笑ましい時間と空間を共有する、
初夏を迎えつつある陽光は、
彼らが
それはまるで、
【 次回・幕引きの挨拶 】
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