第五十二節 背に負うは、朽ちぬ誇り。 その二
桃色の春の兆しから、全国制覇への波を立てる色に交代した、
装いも新たに整列して見せるのは、いつぞや見掛けた和装姿の男性に対してだ。
当時は遠目に加え、対応していた
記憶を
「皆、善く似合ってるって」
例の大伯父様とやらの隣には士紅が立っている。リュリオンの言葉を
当の大伯父こと
今も話しを交わしているが、静かに揉める雰囲気が立つ。
「大伯父が、皆が在籍する限り修繕や補正を手掛けてくださいます。違和感があれば遠慮せず、監督か私に伝えて欲しい。との事です」
「何と言うお心遣い。素晴らしい逸品を維持してくださるとは、心より御礼申し上げます。背負う蒼海学院の誇りを糧として必ずや精進し、全国を制します」
「礼には及ばないので、皆は気にせず善く励み、心から庭球を存分に楽しむように。その先に在る全国を制した姿を心待ちにしている。そうです」
「有難う御座います!」
実際は士紅の言葉に対してではあったが、残る七人は声を揃え礼を述べた。
彤十琅は、七人の少年達を正面に見据えたまま。身長差も考慮せず、語る位置を合わせもせずに士紅に何事かを語り掛け続けた。
一切の
「大伯父は、このまま見学させて
「ええ、もちろんですとも。どうぞ、ごゆっくりなさってください。さあ皆さん、練習場へ向かいましょう~」
深歳の「ごゆっくりなさってください。」の後に、量も豊富な藍白の頭が上下した事を、一同は見逃さなかった。
やはり、この大伯父はリュリオンの言葉を正しく把握すると、一同は確信したらしい。
仲間が指示に散る中、確認を押すように
「ねぇ、
「その通りなんだ。リュリオンの言の葉の響きは好きじゃないから、
「へぇ」
具体的な理由に、青一郎は短く返事をするだけしか出来ないようだ。
そこで彤十琅が、士紅にしか伝わらない音量で動きを見せる。
「あぁ、
「え?」
御礼と共に、仲間を追うつもりだった青一郎の気配を止めた士紅は、彤十琅の呟きを伝える。
姓と名を、告げて欲しいと。
「
「
「そ、そうなの? では、失礼します。試合着、本当に
青一郎が、部活動に合流するために御礼と共に辞そうとした。
その時、不意に強く風が吹き抜ける。
その空気の圧は、重く垂れる彤十琅の前髪を
若紫色の異郷の
青一郎は、思わず目を見張ってしまう。大伯父と呼ぶには、若すぎる風貌だったからだ。
空の海は広大で、
最先端の、アンチエイジングの
今の青一郎には、その答えを導き出せないのは当然と言える。
「考えても無駄だ。ほら、行くぞ。無様な姿を全国大会で見せる気か?」
「それは嫌だな」
今度こそ、御礼を彤十琅に向ける事が叶い、青一郎は仲間が待つ練習へと改めて踏み出した。
青一郎の背を見送る彤十琅が、何事かを士紅に語り掛ける。
「はい。
士紅の言葉に空間が応えたのか、
先に在るのは、刈り取られる救いか、
士紅の
少なくとも士紅にとっては、救い主だった。
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