三の幕 華の雲
第三十七節 質素だった士紅が、贅沢に成らざるを得なかった〝造り手〟の存在。 その一
本日の放課後は、抜けるような晴天。気温の上昇は本格的な春の陽気を満たし始める、四月の入口。
若い声が、抑え切れない期待と結果への積み重ねを、惜しまない努力と決意を込めたように響き渡る。
「この程度で顎を上げるとは何事だ!」
「だ~あ! 上等だっ。もう
「良い心掛けだ」
「
「はい!」
新生した、
コート周辺に並ぶ、春の草木が花を開こうと、今よ今かと
「なあ、
顧問・監督の
最北の
話題に出ていた風呂敷。
昨日、メディンサリは居残り課題を渡された。鞄に入る余裕もなく裸で持ち歩いていた所、士紅が風呂敷を
無論。御礼と共に、朝一番で返却は済んでいる。
「実はよ。母が、あの風呂敷を気に入っちゃって。是非とも聞いて欲しいって頼まれちまってさ」
素振りの数が飛ぶ事を怖れてか、士紅は沈黙したままだった。
「でさ、手に入りにくいなら、紹介して欲しいとも、言われて、その」
無言で素振りを続行させる士紅に、徐々に罪悪感が
「わ、悪ぃ。数えてるよな。また後にするぜ」
メディンサリは状況を考え反省したらしく、一旦退こうとした。
そこで、士紅は突然。右掌の内側で遠心力を利用し、
再び、
士紅なりの処理運動のようだが、演舞に見える辺りは、華麗な所作の成せる技と言える。
「お気に召されたのなら譲るよ。あれ、一枚しかないから」
「一点物かよ。そんなの
士紅は、また黙ってしまった。
「もしかしたら、規定か何かで口止めされてんのか? 風合いから、あの風呂敷は〝
メディンサリが
そもそも、
公正な競争かと思われるが、それらの許可・範囲指定・分配は、
そのような、仕組みも維持管理の方法も独占される、
正式には、公式経済圏第三等級指定・ゼランシダル。
それは、
輪を掛けるのが
好待遇とも言える、安全保障の観点においても尋常ではなく周囲からも特別視されていた。
「あ~、済まん。気ぃ悪くした?」
人に囲まれて生きているメディンサリですら、士紅が普段から何を考えているのか掴み辛いらしい。表情が読めない事から、先に謝ってしまおうと、まず気遣いを立てたようだ。
「気を悪くするのは、メディンサリの方だと想う」
「は?」
「これさ。皆と同じ、学校指定の体育着に見えるだろう?」
「あ? あぁ」
士紅は
どこの学校でも見られる事だが、学年ごとに色が振り分けられ、この蒼海学院中等科も例外ではない。
二四二八年度の、新入生に割り振られた色は、
女子生徒には受けが良いが、男子生徒にとっては流行色で桃色系統が来ない限り、ハズレと言えた。
古来より、桃は生命力と魔除けの代名詞。ここ、リュリオンでは春の訪れの兆しを報せる善き象徴だ。
しかし、六千年以上続いたとは言え前期〝ヤトモロ時代〟の風習を押し付けられても、現代を生きる男子中学生にとっては、複雑な気分にさせられる者は多い。
「違うんだ。遠縁の大伯父が仕立ててくれた、立派な校則違反の体育着」
「へぇ~、仕立てって、はぁ!? 何で? そんな手の込んだ事すんの!? どっからどう見ても、オレらと同じ、桃色体育着じゃねぇか!」
「〝お前の身に触れる物は、総て私が造り上げる〟。ある意味、常軌を逸した方だよ。学生服から鞄から何もかも総て、私の周囲は大伯父の手による物で
確かに、その〝遠縁の大伯父〟と言う
「身に触れる物って、まさか、そのラケットも?」
士紅は、大きく一つ
「道理で、見かけない配色してると思ったよ。黒・白・赤の配色。お手製って事は、他に特徴とかあんのか?」
「そうだな。あぁ、丁度善い所に。柊扇、これ持ってみろよ」
都長を叩き伏せ、涼しい顔でコートから戻って来た、新副部長・
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