第三十一節 嗚呼、我らが青春の交換日誌。
首都圏・ホゼカに轟く伝統学園との往復は、
無事、セツトの
「うんうんうん! まさか、時間内にダブルスを二試合、シングルスを三試合消化出来た上、予想通りとは言え圧勝圧勝! 皆さん、お疲れ様でした!」
「お疲れ様でした!」
高低はあれど、八種の
「本当に、君達は良い子ですね。きちんと挨拶を返してくれます」
「そ、そんな。人としての基本ですよ~」
飾らず
そんな彼らに目元を
「ふふふ。さて、皆さん。空いている席に着いて。今から配る用紙に、学年・出席番号・氏名等々を記入してくださいね」
絶対王者・
そんな彼らは、適当な空き教室を押さえ会合を開いている。深歳が、用紙と筆記具を置いた席に着いた彼らは、程なく書き始めた。
「書きながらで良いので聞いてください。明日から、皆さんに部活動日誌を付けて
長机が並ぶ一室で、適当に着席していた
「日直簿、みたいな物ですか」
「そんな感じです。メディンサリ君」
受け答えた深歳は、そのまま説明を続けた。今となっては珍しい黒の厚紙に挟まれ、事務紐の蝶結びで留めらた綴じ込み帳を開きつつ、深歳が指で差す位置を、時折顔を上げて彼らは確認する。
記入内容は途中までは平凡だった。
当番名、部活開始時の天候・気温・湿度・気圧、当日の練習予定内容と、実行した内容。
下の空欄は当日の感想、気になる点、各人への要望、質問、明日の予定、待ち合わせの打診、好きな事を書くようにと締め
「途中から、話しが怪しい方向に行きましたね。書けました」
士紅が指摘しながら立ち上がり、用紙を深歳に手渡す。
「そんな事はありません。何よりも大切です。皆で青春の悩みを分かち合う、素晴らしき書物となるのですから!」
「青春!!」
何故か、都長とメディンサリの、黒と空色の瞳が輝きを増した。ほぼ同時に顔を上げ、仲良く同じ反応を示す。
「あ、女子がやっている交換日記みたいで楽しそう。俺、一度やってみたかったんだよ」
モルヤンにも張り巡らされる、電子情報回線網〝トーチ〟。それを介したケータイや
人気の地上波番組の影響も手伝い、筆記具による交換日記が、女子中高生の間を取り持っていた。
「……相手は女子ではないぞ。青一郎」
昔から、たまに突拍子もない事を提言する青一郎を、やんわりと
気付かないのか、わざとなのか。この時の青一郎は、日頃の遠慮を封じて話しを進める。
「別に関係ないじゃない。何より、日々の練習過程を俺達で記録して行くのは、有意義な事だと思うんだけど。皆はどうかな」
「良いと思います。色々と活用の余地もありますし、私は賛成です」
「うむ。俺も特に問題を感じないので賛成だ」
「記録ってのは、情報収集には良い資料になるしなぁ。うん、賛成だぜ」
「これも鍛錬の内だもんな~。異議なし」
青一郎の提案に、
「ん? 何の
「俺達が順番で、部活動日誌を付けるかどうかだよ」
「おぉ、そんくらいの事ならやるぞ」
記載に集中していた
「礼衣と丹布君は?」
残る二名に返事を、青一郎は
相手が礼衣と士紅ではなければ、妙な勘違いさえ起こしかねない。
「……異論はない」
「反対する理由もないしな。
結論が揃った所で、深歳も嬉しそうに締めに入る。
「では、朝一番くらいに日誌を私の所へ提出して下さい。で、放課後の部活動が始まるまでに、当番の方にお渡ししますので記入を、お願いしますね」
「はい」
慣れたのか、八名の新入部員は言葉も張りも揃え、深歳へ返事をする。
「うん、良い返事です。そんな良い子の君達に明日、吉報をお伝えするので楽しみにしておいてください」
その吉報の内容は、八名がそれぞれ予測はしていたが、誰も口には出さなかった。特に〝現場〟を目撃した、青一郎、昂ノ介、礼衣は
吉報を果たすためには、例え深歳が経歴や実績を突きつけようと、
無言の彼らが抱えた腹の内容を察したのか、深歳は締まりのない笑顔で言葉を加えた。
「何ですか? その顔は。未来を見据える
表情は至って
「面倒な事は、大人に任せなさい。それが、大人である私の役割です」
八名は、その言葉に明日を預ける事にした。これ以上重ねる会話も、探り合いも必要ないと区切りを付けたらしい。預けるに足る人物だと信頼し認めた、何よりの証明と言えた。
若人が出来る事は、その互いの信義に応えるだけなのだと。
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