二の幕 雌伏と雄飛
第二十節 思いに臨む、若き声。 その一
「それで、昨日は家に帰れたの?」
曇天の割りに、明るい放課後の屋外練習場。仮入部員の内、五名は
その一員でもある
「話したなぁ。
「む、済まん。
同じく、声が届く場所で作業をしていた
その様子を、安全圏から眺めていた
「でもさ~、隙がない
「その事を、身内が本気で心配して、危うく病院に収容されそうになった」
「……人の脳にも、方角や位置を測る部位があるからな。それを心配されたのだろう」
空のカゴを持って来た
持って生まれた気質なのか、年令不相応に得た知識を披露しても、押し付ける響きや、
「心配してくださるのは嬉しいが、度が過ぎる事が度々あった」
士紅の語尾には、小さく溜め息が添えられた。不服ではなく、心配される事に遠慮しているような響きにも聞き取れる。
「じゃあ、毎日大変だね」
「身内とは、仕事の都合で普段から分散して暮らしている。顔を合わせる機会も少ないよ」
「そっか~。やっぱ、寂しいって思う?」
慕ってくれる弟が、一人離れてルブーレンの寄宿舎に入っている事を都長は思い浮かべている様子だった。いつもの陽気な表情に、陰りが差している。
そんな都長が士紅に顔を向けた。量が多い前髪の隙間から見える、
すると士紅は、整い過ぎる口元を
「ないよ。今は、血の繋がりはないが、家族同然の付き合いがある面々と暮らしている。元よりモルヤンには、
「そ、そっか~」
幼く見える都長の表情が、照れ笑いに変わる。
「こう見えて、私は
「丹布君!」
突然、青一郎が鋭く士紅の名を呼ぶ。いつぞやの千丸に、
青一郎の声に反応した士紅が
意図的に士紅へと放たれた一球を、拾いに向かう都長の背に、上級生の腹も気持ちも入らない、おどけた謝罪が投げられた。
「悪いなァ、一年ちゃん」
「仲良しごっこしてると、どこから球が飛んで来るか分かんねーぞ!」
「狙って打ったのは、見え見えなんだよ」
「はーン!? 何だと、この一年が!」
「どこかの誰かサンのせいで、今年の新入部員は、お前らしかいねーんだからなァ! キリキリ動けってンだよ!!」
改める事なく、上級生部員は
その危険な遊びに対し、素早く昂ノ介と士紅が動く。
上級生の
そんな心無い部員達の言動を
「……この分では屋内班も、いらぬ干渉を受けている事だろう」
涼しげな目元に、礼衣が言葉と共に懸念を差し入れる。
「
現場にいる仲間の性分を知っている都長が、礼衣に答える。
「そう、だよね」
取り越し苦労であって欲しいと願っているのか、自身に言い聞かせる具合で、青一郎が
「……あの昂ノ介が、黙って事に当たっているのだから、多少は見習って欲しいものだ」
礼衣の声は、付き合いも長い親友の一人を差し示す。
そんな三人の視線は、誰ともなく
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