第十五節 御曹子達の、お気に入り。 その二




 東南に首都圏・ホゼカ。北西に旧王都・フセナ。大目に見ると、地理的にセツトは両都市部に挟まれた位置にある。


 古来から鐵道てつどう、陸路、海路、空路の要所を押さえる場所だ。それは今も変わらず、人や物資、文化を交差させ、多くの利益を生み出し続ける。


 ここ、セツト中央駅。主に鐵道導線としての役割を果たしていた。物流、通勤、観光としての利用客の足は年中絶えず、迎え入れては送り出す。

 母親のような懐深さを念頭に置き、セツト駅職員、駐在店舗は稼働する。


 機械化が進み、便利な世の中と言えども、利用するのは、あくまでも人に関わるもの。同じ人が介するのは当然だ。


 大規模な、公共導線上にやって来た一行いっこう。構内の大商業施設の行き交う人々や、煩音はんおんとまでは行かない、生きている者が発する、多種多様な音に囲まれながら、携帯電話直営店の一角へ辿り着いた。


 各社、垣根をなくし、利用者の用途に合わせた機種並びを前提に、商品が陳列されている。

 目にも鮮やかな携帯電話は、主張はあっても、見えやすく手に取りやすいよう計算し配置されている辺り、商業視点の高さが伺えた。


 お客様は大切だが、開放感があり無防備に見えて、そこは当然、高度な防犯装置が張り巡らされているのは、言うまでもない。

 客や商品を縫うように、一行は店内を興味深く見て回る。


「へぇ。オレ、久々に来たんだけど、色々と出てるモンだな」


 雰囲気を損なわない程度の店内放送にまぎれ、発言するメディンサリが空色の瞳を迷わせていた。


「だよね~。見てると、俺も換えたくなって来たな~」


 商品と同じ位置に目線を合わせている都長ツナガが、同調しながらつぶやいた。


「あ、じゃあ、皆でお揃いにしない?」


 青一郎セイイチロウの提案に、都長とメディンサリは飛び付いた。昂ノ介コウノスケ千丸ユキマルは苦い顔を浮かべ、返答にきゅうしている。


 礼衣レイ満更まんざらでもなさそうで、蓮蔵ハスクラにケータイを見立ててもらおうと提案する。


 この手の電子機器に詳しい事もあるが、もう一つ具体的な理由もある。

 指名を受け少々ためらいつつ、困っている仲間を見過ごす事も出来ない様子で、蓮蔵は説明を始めた。


 機能や性能耐久性に各社に大差はなく、料金形態も表面上損得が見て取れるが、余程偏った使い方をしない限りは、差額もないとの事に、青一郎が感心した声を立てる。


 目的を絞ると、料金設定も決めやすい。何より、、お財布にも優しいとの一言に、お得・節約が大好きな千丸の眠気眼ねむけまなこに興味が宿る。


 蓮蔵は、適当な機種を手に取り、慣れた手付きで主流の平面型ケータイを操作する。


 持っているのは画面の発色が良く、文字も見えやすい物で、電信文面を主に使うならばと、文字変換の簡易さ、文字の細部の処理の美しさを例に取った。


 一通り軽く説明を終えると、蓮蔵独自の視点を付け加えた。

 それは、本体の耐久性。保証期間の長さ。修繕しゅうぜんの迅速さ。在庫部品の保管期間。最後に、飽きの来ない仕様。以上を、考慮した上ですすめたのは。


「シーエイド=リンツェ社製品です」


「はははっ。結局、マコトの家の会社やないか」


 茶化すように千丸は言うが、どこか至極当然の信頼を表していた。


「確かに妥当だよ。グラーエン系列は、客の嗜好を先取りする傾向にあり、交換部品の在庫は、ほぼ持たない。言わば、使で利益を上げる。この手の商品だな」


 士紅シグレが、説明に割って入って来た。


 グラーエン系列。主に、西の大陸・ルブーレン。リュリオン首都圏・ホゼカに根ざす、外圏域の巨大企業集団の一つに挙げられる。


 《人界ジンカイ》の空の海。発生する主要経済圏が加盟する、公式経済圏機構コウシキケイザイケンキコウ。その中にあって、揺るぎなき覇権・グラーエン財団。とも称されるが、事情通に言わせると〝我が強い、羊達の番人〟なのだそうだ。


「ええ。その通りです」


「本体の形状も色も多種多様。本体料金も安く、着せ替え感覚で持つなら、グラーエン系列だ。しかし、地元を応援したいなら、グランツァーク系列だ」


 饒舌じょうぜつに、士紅は上位企業の名を出した。


 グランツァーク系列。リュリオン第三の都市圏・セツト。その人工海浜区画・シユニを拠点とする、グラーエンと同じく、外圏域の巨大企業集団の一つ。

 公式経済圏機構コウシキケイザイケンキコウでの二つ名は、不滅の堅陣・グランツァーク。はたから眺めた、有識者の言葉を借りると〝従順な、狼達の仲介人〟との事だ。


 ルブーレン、リュリオン、リーツ=テイカを代表する経済活動国家をようする、辺境の経済圏・モルヤン。


 およそ、二〇〇〇年前。リーツ=テイカを含めた、三つ巴の世界大戦で疲弊していたモルヤンを公式経済圏コウシキケイザイケンに参入させたのが、グラーエン財団と、グランツァーク財団だった。


「シーエイド=リンツェ社の、このケータイは?」


 蓮蔵の言葉を継いだ士紅は、その途中で白い手を伸ばし、とあるケータイを取った。


「重さも程善く、文字も見えやすい。簡素な形だが洗練されている。何より、蒼海ソウカイの校旗の色だ」


「……ふむ。悪くない」


 満足した様子で、礼衣が静かに賛同する。


「俺は、その色が気に入った」


 電子機器には、あまり興味もなく、与えられる物に満足も不満も言わない昂ノ介が、進んで好みを表した。


「店員さん、こちらお願いします。新規一名、機種変更七名です」


 容姿と言葉の悪さが合っていないメディンサリも、この時は丁寧になる。付近にいる店員が適切な速度で間を詰め、子供相手だろうと丁重に応対した。


 その接客態度は、過不足のない礼作法と口調で示され、速やかに彼らの人数に合わせた契約手続きの場へ案内した。


 順次、契約の書面が届けられ、店員と対面様式の席に着く。手の空いている者は、軽く店員と会話をして間を取り持つ。


 差し障りのない会話だが、彼らの処世術の高さに腹の内で感心していたらしい店員達は、後程、彼らの学生証を照合した際に納得する事になる。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る