第十四節 御曹子達の、お気に入り。 その一




「部活がないと、どうも落ち着かんの~」


 いている席に座る千丸ユキマルが、窓の外を見ながら。その黒い目に映るのは、中庭を挟んだ本館六階層の特別教室棟だ。


 参考までに。屋根は、今時にしては珍しい天然スレート製。青黒色が示す所は、粘板岩から成る事を表している。

 壁は、海岸地層の特徴から切り出された石灰岩が、表層を飾っていた。


 また中庭を挟んだ西側には、四年生から六年生の同じく、六階層教室棟。要するに、蒼海ソウカイ学院中等科の校舎は正面が南側を向き、上空から見ると〝山〟のような形になっている。


「……身体を休めるのも、競技者として重要な事だぞ」


 窓を背にする礼衣レイが、右斜め前方に位置する千丸に忠告する。


「そりゃ、そうかもしれないけどさぁ~」


 教壇に腰掛け、都長ツナガ頬杖ほおづえで小さな顔を支えながら、やんわりと不満を込める。


 放課後は庭球部活動。そんな日常が定着しつつあった。この日は、冬場とあって冷えはするが、陽も射す良い天気の放課後。


 一年五組の教室。窓際、最前列の昂ノ介コウノスケの席周辺に、いつもの八名は集まる。


 誰が決めた訳でもなく、何かあると真ん中の数字の組に、自然と集まり出していた。他愛もない会話で間をたせながら、部活動が休みの日を、どう使おうかと腹の内で探り合っているようだった。


 気付けば。会話の輪から、いつの間にか外れ、ケータイで通話中の士紅シグレの姿がある。

 校則では、自己責任の上で持ち込みは可能だ。授業中以外なら使用可能だが、会った日から士紅のケータイ姿は目立っていた。

 使用中は皆から背を向けている場合が多い。見えていたとして、その不動の表情から内容は読めず、それ以前に判別不可の異郷の言葉。


 数カ国の言葉を操る彼らの耳には、三種類以上の言語を繰る様子が分かるようになっていた。

 本音は気になっていたのだが、生まれ育ちによる性質が邪魔をして、気軽に通話内容を聞く事は出来ないらしい。


 そのうち、士紅の通話が済んだ。気が強そうな濃い眉を軽く上に一つ動かし、ケータイを畳む。

 珍しい仕草に隙を見出みいだした蓮蔵ハスクラは、士紅に話しを切り出す。


丹布ニフ君」


「ん?」


「おっと、まだ電話を仕舞しまわないでください。よろしければ、電話番号を教えてもらえませんか?」


 蓮蔵の話しの内容に、興味を示したメディンサリと都長が飛び付いた。


「オレも、丹布の番号知りてぇな」


「やった~、教えてくれんの?」


「待ってくれ。教えてやりたいが、特殊な仕様になっているから無理だ。こちら側からは誰にでも繋がるが、大元で着信指定が掛けられている。皆に番号を教えても、私には繋がらない」


 丁重に断りを入れる士紅の様子に、礼衣が話しを振った。


「……要するに、お前は普通のケータイは持っていないのだな?」


「う~ん。そう言う事になるのかな」


「あ、じゃあさ、これから丹布君のケータイを皆で買いに行こうよ。俺も、そろそろ新しいケータイと交換しようと思っていたんだ」


 青一郎セイイチロウの顔に、晴れやかな笑顔が咲かせながら提案する。


「それイイじゃん! 丹布、今、学生証と身分証明は持ってんだろ」


「あぁ、大丈夫だ」


 新しい興味の対象に、メディンサリが目の色を変える。


「決まりじゃ。行くぞ」


 目的が決まり、千丸は立ち上がった。


「……ならば、セツト駅構内のモールはどうだ? 各企業の直営店が、一つの店舗に収り品揃えが充実しているし、現地解散にも適している」


「そうだな。異論はない」


 礼衣が話しをまとめると、自席に着く昂ノ介が、肯定こうていの言葉を述べる。


「よ~っし! では出発~!」


 都長の元気な誘導の合図により、一同は荷物を手に取った。それぞれが借りていた椅子を戻し、会話を途切れさせる事なく移動を開始した。





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