第二節 一蓮托生の三人。




 在校生の代表に先導され、新入生は組分けされた教室へ収まって行く。


 節目に学力考査はあるが、自動的に進級するため初等科からの付き合いで互いに見知った顔ばかり。気分的にも、新しい学舎との認識も低く、年令も手伝い移動時も教室でも賑やかなものだった。


「フンッ。進級したと言うのに、下らん奴らだ。もっと心身共に、引き締める気はないのか」


 席割り表は、正面の黒板に留められている。確認後、その通りに着席していた生徒が、失望を込めたように鼻の先で言葉を飛ばす。


「……そう言うな、昂ノ介コウノスケ。見た面々ばかりだし、多少の馴れ合いは仕方ない」


 一呼吸を置き、言葉を表す癖がある少年がたしなめる。それでも、いつもの事と受け止める様子で、席の右側に静かに立つ。


「確かにそうだけど、チラホラ新規入学の人もいるみたい。ほら、新入生代表の彼とか」


 同じく、組と席順の確認を済ませ、見た目そのままに物腰の柔らかい生徒が、視線で目標を差す。


 言われた二人は反射的に、その視線を追う。


 窓硝子越しに廊下を見れば、噂の新入生代表が数名の同級生に囲まれ、何やら会話を弾ませている姿が映る。

 若干、女子生徒が多いのは、噂の新入生代表の容姿によるものだろう。初対面の相手に対してそつなく会話を重ねる様子に、三人は少なからず感心するように眺めていた。


「新入生代表とは、つまり主席で進級考査を通ったのか。槙結澄マユズミ蓮蔵ハスクラだと思っていたのだが」


 昂ノ介が、見た目を裏切らず堅い言葉で感想を述べる。


「だね。それにしても、もうあんなに打ち解けているなんて、見た感じと違って、人懐ひとなつっこいんだね。俺も、彼と話しをしてみたいな」


 物腰も、髪質も柔らかい少年が憧憬どうけいを思わせる念を黒い瞳にのせる。


「……行けば良い。まだ担任も来ないだろう」


「そうだぞ。俺達に気兼ねをするな。青一郎セイイチロウ


 名を呼ばれた物腰が柔らかい印象を持つ少年は、少しだけ思案する仕草を見せた。


「ん~。今は大丈夫かな。新学期は、始まったばかりだし。これから先、彼と話す機会は十分あるよ」


「……そうか」


 言いつつ、新入生代表が通り過ぎ、見えなくなった窓の方に、黒い瞳を向ける青一郎だった。

 その様子に、静かに立つ生徒は、涼しげな目元に違和感を覚えるような色を差す。


「入学式早々だが、準備はして来たのか?」


 二人の変化に気付かない昂ノ介は、構わず問い掛けた。


「え? あ、庭球の? もちろんだよ。行事が済んだら、いつも通り〝リメンザ〟に行こう」


 物思いから引き戻された青一郎が、一転して答える。


「……〝リメンザ〟も大切だが、ここの庭球部に入る気はないのか」


「正気か? 礼衣レイ。先人達の誇りを、等閑なおざりにしている軟弱な庭球部に何の用がある。で、お前達も心底うんざりしたはずだろう」


「まぁ、そうだったね。うん」


 言葉の前に、空白を置く癖がある少年、礼衣レイは勢いに閉口する。続いて、青一郎も相槌を打つ。


「あんなもの、ただの烏合の衆うごうのしゅうだ。敬意を払う気も起きん」


 青一郎は、一歩譲って話しをする傾向にあるが、先程から増して歯切れが悪く、上の空が濃い。

 礼衣レイが、気を遣うべく言葉を繋げようとした時だった。


「あ、先生が来たみたい」


 目敏めざとい青一郎の指摘で、血統も、住む場所も近い彼らは、いったん解散となった。





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