第116話番外編 腐王女転生記⑨

 

ずっと、ずっと怖かった。

ずっと、淋しかった、苦しかった。


自分の運命に絶望していた。

何度自分の運命を呪ったのか分からない。

知らなければ、まだ耐えられたかもしれない。

ほんの少しの希望を、最期まで持っていられただろうから。

けれど、私は知ってしまった。

この物語の結末を。

惨めな自分の最期を。


王子様は来ない。

私は、ユーリアはヒロイン主人公じゃないから。

私はただの脇役。

だから、誰も私を選んだりはしない。

誰も私を助けてはくれない。


運命は決まっている。

逃れられない。

私は自分の運命を、受け入れなくてはならない。

受け入れるほかない。


だけど、だけど私は────






それでも、私は助けてくれる誰かを待っていた───








◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆






抜かれた刃は、輝く白銀。

持ち主の髪色とあいまって、その美しさを際立たせている。

白銀の剣に施されている青い宝石が、外の光を反射してキラリと光った。

公爵家が用意したものだから、もしかしたら魔石かもしれない。

今日のリュート君は、この日の為に用意した白と青を基調とした礼服を身に纏っている。

……私とお揃いの。


そういう訳じゃないのは分かっているけど……ほんのちょっと、結婚式みたい、かも。


私はリュート君が差し出した白銀の剣を受け取った。

余計な事を考えている場合ではない。

今はリュート君の叙任式なのだから。

緊張し過ぎて、思考がおかしな方向に行きがちだ。


「我、ユーリア・ライト・ユグドラシアの名において汝を我が騎士へと任命します」


剣の柄を握り、リュート君の肩へと刃を向けた。

練習した通り。

今のところ、順調に進んでいる。


「此れより汝は我が剣、我が盾」


あの後私はお父様から、リュート君とジュナンの事が勝負をした事を聞かされた。

私の為にされた事だから、主として知っておくべきだと。


聞いた時、嬉しかった。

そして、ほんの少し申し訳なく思った。


私は孤独で惨めな最期が嫌なだけだった。

ゲームに無関係であろうリュート君の手に、私は自分勝手にもすがり付いたのだ。

そんなエゴで、私が貴方を無理矢理巻き込んだ。


それでも、リュート君は優しい。

渋々といった形だったのに、リュート君はちゃんと私を守ってくれた。


だから、私も────


最期・・の時まで誇りを持ち、この国を護る希望となりなさい」


私も貴方に誓うよ、リュート君。


私は真っ直ぐにリュート君を見据えた。

手に握った白銀の剣を、リュート君の正面へと向ける。


「我、リュート・ウェルザックは騎士として主をこの身に代えても護り──」


貴方は私を救ってくれた。

最後まで側に居ると約束してくれた。

だから、もういいの。

それで、私は救われた。

もう、怖くない。

だから、死ぬのはもう怖くない。


「その敵の尽くを討ち滅ぼす事を──」


私は誓う、リュート君を必ず守る事を。

私が貴方を守る光になる。


ユーリア・ライト・ユグドラシアには逃れられない運命がある。

いずれ来る災厄の日から、ユーリアはその生まれや生まれ持った力故に決して逃れられない。

王族で魔眼持ちである以上、国の外へは逃れられない。

そして、災厄を消し去る魔法を持つのはユーリアだけだ。


私は全てを消し去る光を貴方に捧げる。

他の誰でもない、貴方に。

顔も知らない誰かの為でも、お父様達の為じゃない。

絶望の淵に居た私を救ってくれた、優しい貴方の為に。

いずれ来る災厄の日から、私がリュート君を守ってみせる。


「女神アテナリア様とユーリア・ライト・ユグドラシア様に誓います」


──たとえ、それがこの命が完全に消える事になったとしても。


リュート君は口上を述べると、私が差し出した剣に口付けをした。

これで、誓約は成った。

リュート君は正式に私の騎士になったのだ。


「…………ありがとう、リュート君」


私は周囲に聞こえぬ程、小さな声で呟いた。


私の誓いをリュート君も、誰も知らないけれど。

それでもこの時、私の誓いもまた成ったのであった。


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