第115話番外編 腐王女転生記⑧
「──……では、此方から行かせて貰いますね。“アイス・ランス”」
手始めに、使ったのは氷属性の魔法。
兄様の得意な魔法。
どちらかと言うと、俺が得意なのは炎属性と雷属性だが、室内で使う分には此方の方が都合が良い。
まして、俺は別にジュナンを殺すつもりはない。
こういう時、全属性を持っているというのはつくづく便利だと思う。
「っ、“シールド”!!」
俺の放った氷の槍を、ジュナンは直前で魔法を使用して防いだ。
中々良い反応だ。
「発動までが早いっ……流石は魔眼持ちという事ですか。でも、私とて──“ファイアー・ランス”っ」
「“シールド”」
ジュナンから放たれた炎の槍を、俺は無属性面魔法のシールドで難なく防いだ。
火属性がジュナンの持つ適性のようだ。
魔法の発動スピード、魔法の威力……どちらも大したレベルではないな。
兄様の魔法はもっと早かったし、威力も高かった。
「あれを簡単に防ぐのかよ……」
周囲で見物していた誰かが、ぼそりと呟いたのが聞こえた。
……大した事がない、は言い過ぎたのかもしれない。
俺の周りが規格外なだけで、一般的に見ればジュナンの力量は十分に高いようだ。
「……では、次はこれならどうですか? “アイス・ランス”」
青い光を纏った魔法陣が俺の前に再び浮かび上がる。
その数は10。
魔法の多重展開、鍛えたかいもあり魔法の腕も上がったものだ。
「っっ"、“シールド”っくッッ!!」
1発目は防ぎきれた。
2発目でシールドにヒビが入って、3発目でシールドは木っ端微塵に砕けた。
けれど、氷の槍は止まらない。
再びシールドを使う時間がないと悟ったジュナンは、俺の魔法をかわすため右へと跳んだ。
やはり……そうか。
瞬間、ジュナンの居た場所には氷の槍が降り注ぐ。
「……勝負、つきましたね。僕の勝ちです。約束、守って下さいね」
氷の槍が降り注いだ後、そこに残るのは土くれだけだった。
それは俺の勝利を意味する。
「そんなっ、私はまだっ……こんなのは認められないっ!!」
数秒、呆然としていたジュナンだが、状況を理解すると俺を睨み付けながら叫んだ。
もう少し、力の差を理解出来るようにすべきだったかな……。
ならば納得するまで付き合うかと、再び魔法を使おうとした。
その時────
「いい加減にしろっ、ジュナン・ディルムトっっ!!!」
訓練場に、男の怒声が響いた。
「っ、隊長……ですがっ」
「言い訳はいらない。相手との実力差も分からないのか? それに、この試合でお前が王女殿下の騎士として、不適格なのはよく分かった。どうして、避けた? お前の後ろにいらっしゃるのが、本物の王女殿下であったらどうするつもりであったのだ?」
どうやら、声の主はジュナンの上司であったようだ。
厳しい眼差しで、隊長と呼ばれた男はジュナンを射ぬいた。
この男の言うことは最もだ。
土人形を護るルールにしたのは、騎士の役割として護衛の任務があるからだ。
それをジュナンは放棄した。
……本当に、ユリアが嫌がる理由が分かる。
「そ、それはっ、……ですが……」
「もういい……リュート・ウェルザック殿、本日はこのような場所までご足労頂き、ありがとうございました。この愚か者の再教育は、どうか我々にお任せ下さい。2度と、王女殿下や貴方には近付かせないように致します」
隊長と呼ばれた男はジュナンを一瞥すると、俺に向き直って頭を下げた。
「貴方がそう仰るのであれば、僕にこれ以上言う事はありません」
これで、ユリアも安心出来るだろう。
隊長と呼ばれた男の顔を見るかぎり、きちんと再教育は行ってくれそうだ。
俺も目的は果たしたので、これ以上どうこうするつもりはない。
俺は会釈をすると、少し冷え冷えとしてしまった訓練場を後にしたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます