第114話番外編 腐王女転生記⑦
「貴方は……」
目的の人物、ジュナン・ディルムトは俺の姿を認めると、目を大きく見開いた。
「先程もお会いしましたね、あの時は名乗りもせずに申し訳ございません。僕はリュート・ウェルザックと申します。陛下の命によりユーリア・ライト・ユグドラシア殿下の騎士をしております」
まだ王様に任じられただけで、正式な叙任式はまだ行われていない。
だが、牽制を込めて俺はジュナンに改めてそう名乗った。
王様直々に任じられた事の意味を、よく理解して貰わなければ困る。
目の前の青年は騎士と呼ぶにはあまりに未熟だ。
「っ、姫様の御身は国の宝です。貴方は魔眼持ちとは言え、まだあまりに幼いっ。いくら魔法が優れているとはいえ、この任命は明らかにおかしいっ!!」
どうやら未熟どころではなかったらしい。
声こそ大きくはないものの、あからさまな怒りを俺にぶつけてきた。
……確かに俺
おかしいって、子供か。
自分の発言が不敬罪にあたるって、理解しているのだろうか。
一回り以上年下のスールやリオナの方が、ずっと優秀だ。
ちらりと周囲に目を向けると、ジュナンの先輩にあたるであろう騎士達が頭を抱えていた。
自分で言うのは何だが、俺の容姿は良く目立つ。
この訓練場に足を踏み入れた時点で、彼等の注目を集めていたのだろう。
当然、俺達で交わされる会話も。
彼等はジュナンの発言がまずいものだと言うことをよく理解しているのだ。
ここまで言われた以上、此方も遠慮なく行かせて貰う。
「……色々言いたい事はありますが、それは彼等が僕の代わりに言ってくれる事でしょう。僕は面倒な事は嫌いなので、シンプルにいきましょう。僕と勝負をしましょう。もし、此処で僕を完膚なきまでに叩きのめせたのなら、陛下も騎士の任命の件考え直されるかも知れませんよ? その代わり、僕が勝ったら殿下や僕達に2度と関わらないで下さい。あぁ、心配しなくとも、勿論固有魔法は使わないですよ? 一瞬で終わってしまいますから」
負けるつもりは毛頭無い。
だが、ユリアが見たら、勝手な事をと怒られそうだ。
あの様子を見るに、もしジュナンが騎士になる案が再び浮上したらのなら、
「なっ、騎士を嘗めないで下さい! ……いいでしょう、その勝負お受け致します。その代わり、私が勝ったのなら姫様の騎士の座は辞退してください!」
だから、陛下の任命だと先程から言っているのだが。
陛下の命令を俺らがどうこう出来る訳がない。
流石の俺もこれにはひきつった笑みしか浮かばない。
子供どころではない。
お花畑ヒロイン同様に、頭に花が咲いている。
後ろの騎士達には同情するが、その辺の再教育を俺がするつもりは当然ない。
彼等には是非とも再教育を頑張って貰いたい。
「……では、ルールを決めましょうか。……そうですね、普通にやってしまったら怪我をさせてしまうでしょうから。“クレイ・ドール”……先にこの人形を壊されたら負け、という事にしましょう。護衛、という意味でも殿下の騎士として、どちらが相応しいのかはっきりするのでは?」
俺の詠唱と共に現れたのは2つの土人形。
丁度、ユリアと同じ大きさ位に生成した。
「いいでしょう。騎士を侮った事、後悔させて差し上げます!」
そう言って、ジュナンは剣を構えた。
……侮っているのは、
もはや場内は訓練どころではなくなった。
周囲に居た騎士達も邪魔にならないよう訓練を中断し、俺達と距離を取った。
俺は彼等に目配せで、邪魔した事を謝罪した。
彼等にとって、俺とジュナンのいさかいなんて迷惑でしかないだろうから。
「それでは、始めましょうか」
そうして、俺達の対決は始まったのであった。
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