第110話番外編 腐王女転生記③

 

「──とりあえず、今覚えているだけでもゲームの情報を話せ」


次の日、リュート君はまた私の元へと訪れた。

怒っていたから、暫くは来ないと思っていたのに。

リュート君は嫌そうな顔をしているが、私は友達が遊びに来たみたいで何だかわくわくした。


「……リュート君、何だか1日で私の扱いが大分ぞんざいに。私、王女なのに……」


まぁ、砕けた態度も実は嬉しかったりするんだけれど。


リュート君と話していると、自分が王女だと言うことを忘れてしまう。

もうちょっと丁寧に扱って欲しい気持ちはあるが、変にへりくだるよりずっと良いのだ。


「はー……ほら、一応手土産も持ってきてやったから、これ食べながらでいいからとにかく話せ」


まるで我が儘な奴だなとばかりに、白い袋を押し付けられた。


「そう言う事じゃないと思うんだけど……」


丁寧にって、そう言う事じゃない。

それに私も前世の事を考慮すれば、精神年齢は低くない。

こんな手土産に釣られたりなんか────


「わぁっ、これもしかしてチョコチーズケーキっ!!?」


箱を開けるとチョコレートケーキらしきものが見えた。

ほんのり鼻に香る酸味はチーズっぽい。

中に入っていたのは、チョコレートチーズケーキだった。

前世での私の好物の1つであった。

チョコの甘さの中にあるチーズの不思議な酸味にはまって、学生時代は飽きずに毎日のように食べていた。

だが、ユーリアとして生まれてからは食べた事がなかった。

今までそれどころじゃなかったので、王女がケーキが好きなんていう噂もないだろう。

メジャーなケーキという訳でもないのに、何故これをリュート君は選んだのだろうか。

そんな私の疑問はリュート君によってすぐに明かされた。


「……確か教室で、そんな事を聞いた気がしたから……母様も気に入っていたし」


別にお前だけの為ではないと、リュート君は続けた。


「リュート君、ありがとうっ!!」


嬉しい、嬉しい。

嬉しい!


多分、私の事を意識していたとかそう言う事じゃないんだろうけど。

リュート君は学年トップの成績で、記憶力もよかったから。

耳に挟んだ事を覚えていただけ。

それでも、私自身の為だけの贈り物を貰ったのは初めてでそれがとても嬉しかった。


「まぁ、所詮素人の作ったものだし、王宮の料理人には及ばないだろうけどな」


え?

え、それってもしかして──


ぼそりとリュート君呟いた言葉に、私は目を瞬かせた。

ケーキ屋さんで売っているような、美味しそうなケーキ。

とても素人が作ったように見えない。

そんなの驚くに決まっている。


「もしかして……これリュート君の手作り、なの?」


どこまでハイスペックなのか。

私よりも断然女子力が高い。

私は微妙にショックを受けた。


「一応……別に無理に食べなくてもいいから」


少し照れ臭そうにリュート君はそう答えた。


「食べるよっ! 絶対、食べるっ!! 寧ろ、私が全部食べるからっ!!」


貰った箱ごと取られまいと抱え込んだ。

リュート君が私の為に自ら作ってくれたケーキ。

例え不味かったとしても食べ過ぎでお腹を壊そうとも、残さず全部私が食べたい。

今まで生きてきた中で、一番嬉しい贈り物だ。


「……太るぞ? 腐ってる上に、唯一に等しい美点の容姿まで無くなったら本当に救えないぞ?」


「何それ、ひどくないっ!?」


文句を言いつつも、顔がにやけるのが止まらない。

まだ会って間もないが、何となくリュート君の事が分かってきた。


リュート君は所謂ツンデレというやつなのだっ!


「いたっ! 何で、チョップしたのっ!?」


とん、と軽く手が振り下ろされた。

顔を上げるとリュート君が呆れた目で私を見ていた。


「いや、何か嫌な感じしたから」


もう1つ、リュート君の事で分かった事がある。


リュート君はすぐ手が出る!

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