第109話番外編 腐王女転生記②
前世では多くはないが、信頼できる友人がいた。
実際に恋をしたことはなかったが、充実した毎日を過ごしていた。
なのに、何故今の私はこんな生活を送っているのか。
何故……何故、こんなにも違うの?
須藤 由奈であった時、当たり前に手にしていたものを
これじゃあ、ゲームと同じだ。
きっと、私も同じように1人惨めに死ぬんだ……。
その日は夕飯も取らずに、そのままベッドで眠りについた。
────夢を見た。
「依ちゃーん!! 聞いて聞いてっ!」
楽しそうな声を滲ませて、親友である少女に抱き付いたのはどこか馴染みのある声の少女であった。
あぁ、これは……私だ。
前世の私は、とても楽しそうに親友である為永 依子と談笑していた。
夢の中であるのに、触れた肌が温かい。
楽しそう……
前世の楽しかった記憶。
けれど、今の私にとっては過去の幸せは、差を見せつけられるようなものでもあって心がジクリと痛んだ。
……どうすれば
「昨日読んだ、同人誌がスッゴい面白くてねー。オズ様×レイアス様も鉄板だと再発見したよ!!」
前世の私は昨日読んだ同人誌の感想を、延々と楽しそうに語る。
そんなに……面白いのだろうか?
それがあれば、私は貴方になれる?
そして、そう考えたのが全ての始まりだった。
私は確かに須藤 由奈であったが、今世で既に数年間生きている。
所々記憶を受け継いだことで変化はあったが、それでも前世の趣味までは引き継いでなかった。
今までゲームのシナリオは必死に思い出そうとしても、趣味である同人誌やBLゲームには興味がなかった。
確か……池袋でアレとアレを買って…………。
限定販売のやつの為に、そうだアレを買って……徹夜で読んだんだ。
それはゲームのシナリオを思い出そうとするより、ずっと簡単な事だった。
私は思い出した内容を、スラスラとノートに書いていく。
それは今まで一番満たされ、楽しい時間であった。
そうだ、あの同人誌ではオズお兄様が、鬼畜攻めで………。
………ふふっ!
…………ふふ…フフ腐ッ!
それから、私は変わった。
今まで一日中何もせずに、ぼぉっとするだけだったのが同人活動に勤しむようになった。
前世で同人活動もしていた私には、スラスラと簡単に書くことが出来た。
こうして部屋に籠ってひたすらに創作活動に勤しむことが、ただの現実逃避だって事は分かっている。
問題は何も解決していない。
それでも、そうすることで私の心のバランスは保たれ、ネガティブに物事を考えることも少なくなったのであった。
──例え偽りだとしても、幸福な時間だった。
けれど、その箱庭は数年後、呆気なく崩れ去る事になる。
◆◆◆◆◆◆◆◆
「──えぇ、ユーリア・ライト・ユグドラシア王女殿下……いえ、須藤 由奈、貴方にです」
その瞬間は言葉を失った。
突然王妃様とやって来た美しい少年は、何故か私の前世の名前を言い当てた。
「……え? 何故それを?」
当然、いきなり真実を突きつけられた私は困惑した。
「それは前世で貴方のことを、知っているからですよ」
もしかして……
「え? え?? ということは、まさか貴方も転生者!? しかも私を知っているって……依ちゃん!!」
私はそうであって欲しいという気持ちを込めて、親友の名を読んだ。
「違います」
私の希望は淡くも消え去ってしまったが、この出会いが私の狭い世界から抜け出すきっかけであった。
私の元へと現れた少年、リュート・ウェルザックこと瀬永 龍斗君は、ちょっと怒りっぽいが面倒見が良い子であった。
私の事を、助けてくれると約束してくれた。
友達って、こんな感じなのかな?
……はじめての友達、嬉しいな。
一緒に話すのが楽しくて怒られるのが分かっていても、つい腐的な話を沢山してしまった。
ついにはアイアンクローまでされてしまったが、無視をするわけでもなく、私に気を使っておべっかを使うわけでもない。
今日会ったばかりだが、私はもっと一緒に居たいと思うようになった。
友達とはこのようなものなのかもしれない。
それに、リュート君なら……きっと、最期まで一緒に居てくれる。
守ってくれると言った彼が一緒なら、私は最期1人で死ぬ事にはならないのではないか。
だからこそ、どんな関係でもいいから一緒に居られる口実を、私は必死に探した。
婚約者はリュート君が嫌がっているし……うーん、なら専属の騎士?
……いいかも知れない。
本来騎士になる筈のジュナンは信用が出来ない。
それに、騎士だったら、一緒に学園に通えるかも!
実にいい案だと思った。
……それに、学園に行けば攻略対象者達とオイシイ展開になるかも……フフ腐っ!
そうして、私の思惑通り一緒に学園に行く事が決まったが、その後でリュート君には凄い怒られてしまった。
でも、私はニコニコと笑っていた。
今から1年後の事が、楽しみでならない。
先の事が楽しみだなんて、初めての事だ。
やっぱり、リュート君は何だかんだで優しいなぁ。
怒ってはいるが、私を見捨てるような事は決してしない。
私をヒロインの代わりにしてやるとは言っていたが、私の命に関わるようなら何だかんだ言いつつも助けに入ってくれるだろう。
私は初めての友達の存在が嬉しくて仕方がなかった。
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