第106話13話 三重苦で辛い
「いた、いたたたっ! ちょっと、痛いっ!! 死ぬ死ぬー!!!」
王女が痛みに悶絶しながら、叫び声をあげる。
俺が腐王女に、アイアンクローをかまし続けているからだ。
「君、何言っちゃってくれてんの? 分かってんの? 俺、お前のせいでゲームに巻き込まれる事になってんぞこの野郎!!」
王女は痛みに悶絶しているが、此方はそれどころではない。
家族や友人の死亡フラグはバキバキに折りたいが、俺はヒロイン自体には全く興味がない。
寧ろ、婚約者がいる男に近づいたり、トラブルを持ち込むようなヒロインとは関わりたくなかった。
そんな女は俺の趣味じゃない。
それなのにこの腐王女のせいで、強制的に巻き込まれる事になってしまった。
「イテテっ!? もっ、ギブギブ! 降参です!! 降参降参っっ!!」
腐王女が俺の腕をタップした。
その顔は限界を訴えている。
「それにどうせ通うなら、兄様かユーリ達と同じ学年がよかった……」
せめて仲の良い知り合いがいたのなら気は楽だった。
俺は手を離すことなく、不平不満を言い続けた。
まだまだ元気そうだし、続けても大丈夫だろう。
それに、まだ俺の怒りは治まらない。
「し、下の学年だと、ヒロインと同じがくね…ぅ…………」
すると、先程までジタバタと暴れていた腐王女が静かになった。
あ、やば……やり過ぎたかな?
俺は慌てて手を離した。
「……“ヒール”」
ぐったりとしている腐王女に魔法をかけた。
すると、みるみる腐王女の顔色はよくなる。
これバレたら……間違いなく不敬罪にとられるだろうな。
その為の魔法、完全なる証拠隠滅である。
本当に魔法は便利だ。
「う……? 今一瞬、三途の川が見えた気が……」
腐王女は目をゆっくりと見開くと、責めるような眼差しを俺に向けた。
「……気のせいだ」
俺は目を逸らした。
軽く掴んだけだから、死にかける筈がない。
「……むぅ、そんな怒んなくてもいいじゃん……だって、一緒に学園に行きたかったんだもん」
腐王女は拗ねたような声で、ぶつぶつ呟いた。
「……一緒にって。お前正気か? 俺はお前を利用しようとしてるんだけど?」
俺が腐王女に関わったのは、ゲームのシナリオ目当てだ。
そんな俺と一緒にいたいとか…………もしかして、M?
うわー………、引きこもりで腐女子でドMの三重苦とか…………辛っ!
「で、でもでも、初めてのお友達だし! 私の趣味を知っても、避けたりはしないし!」
「……軽蔑はしてるけどね?」
腐王女は嬉しそうに言ったのに対し、俺は引き気味に答える。
趣味に関しては全力で嫌がっている。
………やっぱり、Mなのかも。
避けるどころか、俺は王女に手をあげてしまっている。
「それでも、嬉しかったの!」
「…………そう」
俺は今、君との関係を見直す必要が出てきたよ。
三重苦は本当に救えない。
「うん!」
腐王女は満面の笑みで頷いた。
何がそんなに嬉しいのか。
……まぁ、長い間独りで部屋に籠りきりだったみたいだし、ちょっと病んでるのかも知れないな。
「はぁー……まぁ、過ぎたことはしょうがないか。それなりに付き合ってあげるよ、腐王じょ、いやユーリア様?」
俺は溜め息をつくと、諦めの境地で現状を受け入れることにした。
腐王女に死亡フラグがあるのは事実であるのだし、前世のよしみで回避に手を貸してやるとしよう。
中心地である学園が、一番危険になるだろうから。
「何か不名誉なあだ名がつけられてるし……まぁ、それは置いとくとして、私の事はユリアって呼んで!! その方が友達っぽいし!」
「え? 嫌だよ」
あだ名なんて呼んだら、益々婚約話が進められそうではないか。
「いいじゃん減るもんじゃないし!」
「いや、減るし。俺の人生の幸福度指数が、確実に下がる」
腐王女がしぶとく食い下がるも、俺はキッパリと拒否する。
「そこまで!? ……じゃあ、じゃあじゃあ2人だけの時は? ちょっとくらい譲ってくれてもいいんじゃないかな?」
何がそこまで腐王女を動かすのか、全く諦める様子のない王女にまた溜め息が溢れる。
…………まぁ、いっか。
……それくらいなら。
「分かったよ、ユリア……ほら、これでいいんだろ?」
「うん! これからよろしくねリュート君!!」
腐王女ことユリアは、俺の渋々の了承に満足気微笑んだ。
……俺は、これから先の事が不安でならないよ。
そしてその予感通り、俺はこの三重苦の王女にこの先えらい迷惑をかけられることになるのであった。
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