第104話11話 戦いの幕開け

 

「……ひ、ヒドイ」


俺が手を外すと、腐王女は頭を押さえながら涙目で此方を睨んできた。

うっすらと赤い痕が白い肌に残っている。

これは後で治癒魔法をかける証拠隠滅をする必要があるかもしれない。


「腐王女殿下の方が余程ヒドイと思います。頭の方が」


俺は気にもとめず逆に非難した。

ヒドイとは心外だ。

腐王女だけには言われたくない。

寧ろ、この程度で済ませたのだから、実に寛大というものだろう。


「ふ、不敬罪で訴えてやる~!!」


「両陛下からの信頼は僕の方があついと思いますよ?」


そちらがその気なら、此方にも考えがある。

徹底抗戦だ。


法廷でも何でもやってやるよ!(←迷走中)


「リュート、ユーリア、話は終わりましたか?」


コンコンとドアがノックされると、王妃さまの声が部屋の外から聞こえた。

どうやら、いつの間にか時間が経っていたようだ。

声からは読み取れないが、何時までも出てこない俺達の様子が心配になったのだろう。


チッ、もうそんなに時間がたったのか……もう一発くらいお見舞いしたかったな。


俺は心の中で悪態をついた。


「では、腐王女殿下行きましょうか? (悪役令嬢?転生ものにしてやるよ!)」


俺は腐王女に手を差し出す。

ついでに回復魔法をかけておいた。


「うぅ~(絶対、攻略対象者達による総受けにしてやr、いた、イタタっ)暴力反対!!」


腐王女がしぶしぶ俺の手をとった瞬間、また良からぬ妄想をしているのが分かったので握る手の力を強めた。


……全然懲りないな、腐王女。

これは俺が早まったのかな?


この先、コレの近くにいないといけないと思うと、先が思いやられる。


「……随分仲良くなったようですね?」


そうこうしているうちに、王妃様が部屋に入ってきた。

俺達を見て王妃様は目を瞬かせたが、すぐに元の無表情へと戻った。

どうやら王妃様には手を繋ぐ俺達を見て、不本意ながら仲良くしているように見えたようだ。

俺達の仲が良いなんて、有り得ないことを言われた。


「えぇ、王女殿下も外に出ることを了承してくださいました」


不本意ではあるが否定するのもアレなので、とっとと腐王女を部屋から引っ張り出す事にする。


「ユーリア……本当によいのですか?」


王妃様は俺が言った事に部屋に入って来た以上に目を丸くして驚き、腐王女に確認を取った。

腐王女の今までを考えると、そう簡単にはいかないと思っていたのだろう。

俺も此処に来るまでは、1度の接触で外へ連れ出せるなんて思ってもいなかった。

それほど、王女の心の傷は深いのだと思っていた。

実際は、引き込もって布教活動に時間を費やしていただけだったのだが。


……本当に王様や王妃様が不憫だ、王様なんて特に思い悩んでいたようなのに。


時に真実とは残酷なものだ。


「……はい、フィーリア様」


腐王女も多少罪悪感が生まれたのか、此方を一瞬苦々しい顔で見詰めた後頷いた。


「! そうですか。では、行きましょう。ギルベルド様も心配されておいでです」


王妃様は腐王女の返事に一瞬嬉しそうに微笑むと、部屋を出るように促された。


「「はい」」


俺達は返事をすると、王妃様を先頭に続いてついていく。


「……絶対、約束守ってよリュート君。私も命懸けだからね」


付いて行く中、腐王女が俺にこそこそと最終確認を取ってきた。


「勿論ですよ……多分 (ボソッ)」


正直、やる気は全く起きないのだが俺はこくりと頷いた。


「ちょっと! 多分って!! ……そっちがそう来るなら私にも考えがあるんだからね!」


「はいはい」


やれるもんならやってみろ。

倍返しにしてやるから。


「もぅ! 本当にやってやるんだから!」


頬を膨らませている腐王女を無視して、王妃様の後に続いた。




──この時の判断が後に俺を窮地に追い込む事になるとは、この時点では全く考えていなかった。









◆◆◆◆◆◆◆◆








「! ユーリアっ!? 部屋から出て大丈夫なのか?」


先程の部屋に戻ると、王妃様の後ろにいた腐王女を見て王様は声を荒げて驚いた。


「はい、お父様。今までご迷惑をかけてしまい、申し訳ございません」


「いや、俺こそすまない。お前には随分負担をかけてしまった」


王様はそう言うと、腐王女を抱き締めた。


ここだけ見ると、実に感動的な光景だ。

これで王女が腐ってなければ、尚の事良かったのに。


「お父様……ぐ腐腐、おじ様受けもありかもぐ腐っ! (ボソッ)」


…………腐王女が余計なことを呟かなきゃ、もっとよかったのに。


色んな意味で台無しだ。


……もう、やだ帰りたい……これからコレの面倒を見なきゃいけないのか。


俺の精神のHPはもう0に近い。


「リュート、ありがとう! お前に任せてよかった」


王様は腐王女が腐った妄想を垂れ流してる事など知りもせず、俺に笑いかけて頭を撫でてくれた。


……何か、罪悪感が。


腐王女は連れ出さない方がよかったかもしれない。

もし真実を知ってしまったらと思うと、王様が本当に可哀想でならない。


「イエ、ボクハナニモシテマセン」


罪悪感からか、俺の返事も棒読みになってしまった。


「謙遜するな。俺達には出来なかった事だ。本当に感謝している……やっぱり、ユーリアと婚約しないか? お前ならピッタリだと思うんだが「絶対に嫌です! それだけは勘弁してください!!」」


王様がとてつもなく不穏な事を言い出したので、叫ぶようにして拒絶する。


それだけは絶対に有り得ない。


数日前の俺ならいざ知らず、王女の正体を知った今、その提案には絶対に頷くわけにはいかない。


「うーん、少しも可能性はないのか? ユーリアは親の俺が言うのは何だが、中々の美少女だぞ?」


「未来永劫そのような可能性はありません」


確かに顔は整っているが、中身が腐っている。

中身が丸ごと変わらない限り、不可能なのだ。


「そ、そうか……残念だな」


俺の気迫が伝わったのか、王様がやや引き気味ながらも納得してくれた。


「……お父様、私からリュート君の事でお願いがあるのです」


ここまで事の成り行きを見守っていた腐王女が口を開いた。


「どうしたユーリア? 言ってみろ」


「私もリュート君との婚姻は、全く考えていません。しかし、私が外に出るに辺り、警護はあった方がよいと思うのです。それも強いお方のが」


「……そうだな。シュトロベルンの事もあるし、誰かつけた方が良いな。誰か──」


いい奴はいたか? そう続けようとした王様の発言を遮り、腐王女は口を開いた。


「はい。ですから、私はリュート君を私の騎士にしたいのです!!」


そう告げた腐王女の言葉は、俺を嵌めてゲームに巻き込む為の策略であったのだった。

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