第103話10話 腐れ王女の腐った妄想
「…………はぁー、私今大事な何かを失っちゃった気がするよ」
王女は酷く疲れた顔で溜め息を溢した。
先程までの元気は何処にいったのやら。
「気のせいですよ」
俺はニコリと笑った。
だって、互いにメリットがあるクリーンな取り引きだもん。
皆幸せだもの。
「……そうだ。さっきは聞かなかったけど、リュート君って、あのウェルザックなの? てことは、ヴインセント様の子供で、レイアス様の義弟?」
王女はそれ以上何か言うのを諦め、話題を変えてきた。
ゲームを知っている者からすると気になる所なのだろう。
「はい。ついでに不本意ながら、悪役令嬢リリス・ウェルザックの義弟でもあります」
「マジでっ!? リリスが姉って……うわぁー」
俺が更に情報を付け足してやると、王女がガチで憐れみの目を向けてきた。
リリスの事は覚えているようだ。
前世散々煮え湯を飲まされたので、その性格の悪さは覚えているらしい。
「安心してください。ユーリア王女殿下も今日から此方側ですから。一応、スペックの高い美少女(笑)設定なんですから、きっとお会いすればすぐに妬まれることでしょう」
今までは他に擦り付ける奴がいなかったが、これからは存分に盾になって貰うとしよう。
……勿論約束通り、命に関わるようなのは俺がちゃんと助けるよ?
「いやーぁっっ!! これ以上変なフラグ立てたくないよっ!! それに(笑)は余計だよ!」
王女は絶叫しながらも、俺にそう文句を言ってきた。
元気が戻ってきたようだ。
「失礼しました。美少女(腐)でしたね」
自分で言ったのだが、(腐)だと腐女子って言うよりは、何かゾンビみたいな響きだ。
「…………うぅ、私王女なのに」
シクシクと王女は泣き真似をしながらも、俺を恨ましげな眼で見やる。
「言われたくなければ、殿下も此方の世界では自重なさってくださいね? 王女が腐ってるなんて、とてもじゃないけど笑えませんから」
前世の発言を此方でもやったら、国の恥でしかない。
結婚相手も、まともなのはまず近寄ってこない。
自分の将来を真面目に考えるのであれば避けるべきだ。
「外に出れるのはいいけど……憂鬱だなぁ。攻略対象者には、ヤンデレもいるのに」
「……ヤンデレって、ユーリの事ですよね? それなら大丈夫ですよ。一応、そのフラグはボキッと折ってますから」
「え? どういうこと?」
俺は安心させる為に、これまでの事を話した。
◆□◆□説明中□◆□◆
「お、うぉおー!!?! キタコレ! キタ━(゜∀゜)━!(゜∀゜ 三 ゜∀゜)」
そして、俺の話を聞き終えた王女は唐突に叫びだした。
「煩いですよ! 外に聞こえます!」
俺は叫ぶ王女を慌てて止めた。
「これが叫ばずにいられるか! だって、リュート君それ攻略しちゃってない?? ヒロインのポジ完全に喰ってるでしょ!?」
俺の制止をものともせず、王女の興奮は止まらない。
「いや、ヤンデレフラグ折っただけだし、ポジションまでは喰ってないし!! 友情だからっ!」
仲はいいが、あくまで友人の範囲内だ。
セーフだ、セーフ!!
しかし、俺の動揺とは関係なしに、王女の話はここでは終わらなかった。
「ふふフフ腐腐腐腐っ!! まさか、悪役令嬢の乙ゲー転生ものだと思ってたけど、BL小説によくある“お、俺がいつの間にかヒロインのポジに!?”なパターンだったとはっ!! 」
「…………………」
「腐腐腐っ! ありがとう神様!! これは私に、是非間近で生BLを観察しろって言う神様からの啓示ね! ぐ腐腐腐っ!! 最高だわ! 美少年の総────ぎゃっ!!? い、いひゃい゛っ!!」
「…………………………」
腐王女がまた腐ったあり得ない
──
「王女殿下……引き篭もり過ぎて頭おかしくなったんですか? あぁ、前世からでしたね。…………でも悪役令嬢転生ものですか……とても良い案ですね。殿下がお望みなら、再現して差し上げましょうか?」
俺は今自分で自覚出来る程のドス黒いオーラを纏って、腐王女に捲し立てて言った。
王女相手に、不敬だなんて知るか。
絶対、絞める。
「いっしゅ、しゅみません!! いひゃひゃぃ゛はじゅしてください!!」
メリメリと食い込む俺の指に、王女が悲鳴を上げる。
……暫く、このままでもいいかな?
……うん、許されると思うんだ。
すぐに俺の指から力が抜ける事はなかったのであった。
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