第102話09話 交渉決裂?


「その代わり、王女の知識ゲームシナリオを僕にお与えください」


俺は王女にそう提案した。


この提案はお互いにWINWINな取り引きだ。

王女は外に出れる上寿命を削らなくて済む。

俺もゲームのシナリオや回避すべきイベントなどを、自前に知ることが出来る。

俺のゲーム知識は又聞きで、それさえも途中で何時も席を立っていた為不完全だ。

もっと詳細な情報が欲しい。


「ご、ごめんなさい! そ、それは無理かも!!」


しかし、俺の提案に対する王女の答えは拒絶の言葉だった。


「何故ですか? 外に出たくないんですか?」


俺はまさか断られるとは思わず理由を尋ねた。

王女にデメリットがあるとは思えない。


「私ね、記憶が最初からあった訳じゃないの。……初めて他国相手に私の魔法を使った時に、前世の事を思い出したの。この世界が前世でやった乙ゲーで、自分が死にキャラだって。……でも、全部思い出せた訳じゃないの」


「でも、攻略対象対象者の名前が……」


そんな筈はない。

先程不可抗力で見せられた漫画には、確かに攻略対象者の名前が全て揃っていた。


「名前はね……でも全てのシナリオまでは、その、詳しく思い出せなかったの……あんなに好きだったのに」


王女はしみじみとそう言った。


な、嘘だろ!?


「じゃあ、ヒロインの名前は!?」


俺は未だ信じられずに、王女に詰め寄った。

それだけは覚えていて欲しい。


「い、今時の乙ゲーは主人公の名前が変更できるから……」


王女は明後日の方向を見て答えた。


まさか?


「じゃあ、ヒロインの出身や容姿は!??」


俺は更に王女に詰め寄り、壁まで追い込んだ。

所謂壁ドンとも言える状況だが、生憎俺の心境はそれどころではなかった。


まさか、まさか、まさか???


「もとは平民だったのは覚えてるけど……容姿は……ほら、今時の乙ゲーってスチルのヒロインの姿は、ONOFF機能で消せるから……」


私、OFFに設定していたんだよね、と王女はまた俺とは目を合わせずにそう答えた。


「……つまり?」


「ヒロインの事は、あんま覚えてません(・ω<)テヘペロ


王女は舌を出して、ウィンクをかました。

その顔に俺の苛つきは更に募った。


「つ、」


「つ?」


「使えねぇっ!!!」


俺は叫んだ。


あんだけ人様の迷惑も考えずに語ってたのに、肝心な部分を忘れてるとか!

使えないにも程がある!!

ヒロインの名前すら分からないなんて!


「使えないってヒドイ! それに覚えてないって言っても、直接会えばある程度思い出したりするもんっ!!」


王女は不名誉だとばかりに、頬を膨らませてブー垂れた。


「……思い出す?」


「うん! お兄様達の√も最初は忘れてたんだけど、直接顔を会わせたら全部じゃないけど思い出せた部分もあるの。だから、ヒロインや他のキャラも顔を見たら思い出せると思うっ!」


王女は必死に言い募った。

使えない扱いは、余程不本意だったようだ。


「つまり、今は一部のキャラのシナリオは思い出せるけど、接触のないキャラのシナリオは分からない。だが、会えば部分的には思い出す、といことだね?」


俺は確認を取った。


それなら……


「そうそう! だから、使えない訳じゃないのよ。といっても、攻略対象者への接触は危険だから、会うつもりはないけどね」


王女は胸をはってそう宣言した。


「それなら、良かった。早々に接触可能な攻略対象者に会いに行きましょう!」


俺は王女の宣言を丸っきり無視して、ニコッと笑顔でそう告げた。

王女がいくら嫌がろうが、会わせない訳にはいかない。


「え、えぇ!? 私の話聞いてた!? 嫌だよ! 攻略対象者には、ヤンデレもいるんだし、何があるか分かったもんじゃないよ!!」


王女は首を横にブンブン振って接触を拒絶する。

ヤンデレとはユーリの事を言っているのだろう。

俺がシナリオを変えた為、ヤンデレには恐らくならないだろうが。


「え? 何か言った? 聞こえないな」


しかし、嫌がる王女を前に、俺は笑みを崩さずにその拒絶の一切を無視した。


よかった、よかった。

これで多少欠けるもののシナリオ自体は手に入る。

それにユーリは、穏やかで優しいから大丈夫だ。


「いや、だから「僕も勿論約束は守るよ……まさか、嫌だなんて言わないよね?(ニコッ)」………………………………………はい」


そして、王女は俺の説得に快く頷いてくれた。

これで何も問題ないだろう。

何せ、お互いにWINWINでクリーンな取り引きなのだから。

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