第101話08話 腐王女殿下は語る

 

「ご、ごめんなさい!!」


須藤 由奈はもとい腐王女は、俺の怒りに圧倒されるやいなや、速攻で土下座をして謝ってきた。

迷いなど微塵もないない、美しい土下座であった。


腰、低っ!

王女がそれでいいのだろうか?


そして俺はその予想外の光景に、少しだけ冷静さを取り戻していた。。

俺の方が年下とはいえ、客観的には幼い王女に土下座させているという図だ。

ここでもし王妃様が戻って来たら、とんでもない誤解を生む事は間違いない。


「……とりあえず、立ってください。王女に土下座させた何て、外聞が悪すぎる」


「う、うん」


俺は出来るだけ穏やかな声でそう呼び掛けたが、腐王女はまだ警戒しており恐る恐る立ち上がった。


まぁ、此方も水に流したわけではないのだから当然とも言えるけれど。

しかし、今はそれよりも────


「……まず、貴方は何でこのように引き篭もっているんです? ゲームの死亡フラグを回避するだけなら、婚約を拒否するだけでも良かった気がしますが」


言いたい文句は山程ある。

だが、生憎と時間がない。

王妃様が戻って来る前にするべき事をしなければ。


「あぁ……うん、婚約ね。でも、それだけじゃ私の死亡フラグって折れないんだよね。ヒロインの登場は要因の1つではあるけれど、それだけが理由じゃないから……」


「それだけじゃない?」


俺は首を傾げる。


……以前聞いた話だと、ヒロインと兄様の為に死んでしまうみたいな感じだったけど……他にも理由があるのか?


「瀬良君、いや、今はリュート君でいいのかな?」


「えぇ、呼び捨てでも構いませんよ。一応、貴方の方が身分が上ですので。一応」


非常に不本意だが、この腐王女はこの国の大事な王女だ。

敬う気持ちは全くと言っていいほどないが、身分は俺よりも上である。


「一応って……まぁ、いいか。それでリュート君は、私が病弱って言うのは知ってるよね?」


「えぇ」


前世や今世でも、王女は病弱であると聞かされている。


「ゲームで明かされてた真実なんだけど……ユーリアはね、固有魔法を使う度に命を削られていくの。だから、ゲームでユーリアが死んだのは、無理して力を使ったから。それまでに何回も使用して、只でさえ体がボロボロの状態だったのにね」


しかし、彼女から語られたのは、そんな予想外の真実だった。


「……じゃあ、貴方が引き篭もっているのは魔法を使わなくてもいいように?」


外に出れば周囲から力を使うように言われ続けるだろうし、悪い噂を立てさせて誰も自分に期待しないようにしたのか。

ここまで断固拒否の姿勢を見せれば、強引に事を運ぶのも難しそうだ。


……同人活動の為じゃなかったんだな。


それなのに頭ごなしにキレて、少し悪いことをしたかもしれない。

勿論、自分の身内を売った事や、父様と兄様達が汚された事を許すつもりは毛頭ないけれど。


「うん、そう。ゲームのユーリアは、王家の威信を保つ為に魔法を使い続けてたからね……まぁ、私も王族として生まれたからね、覚悟がない訳じゃないの。前世日本で育ったけど、此方の価値観が身に付かなかった訳じゃないから。もし、他国と大規模な戦争が起きて私の力が必要になるなら、魔法を使う覚悟はある。それが私の寿命を縮めることになっても。……でも、私じゃなくてもいいなら、出来れば使いたくない。まして、威信を保つ為だけなんて………それに、誰だって長生きしたいでしょう?」


王女はポツポツとそう語った。

その顔は先程までとは違い、実に真剣な表情をしている。


誰だって進んで命を削りたくはない。

まして、自分でなくともいいのならなおのことだ。

先程王妃様達が言っていたように、ユグドラシアには魔眼持ちが多くいる。

王女が態々出なくても、現状他の魔眼持ち達だけでも対応できる。

寧ろ、非常時には使う覚悟があるだけ、年齢を考えれば十分立派だろう。


「そうですね……しかし、それでは貴方は一生こうやって、閉じ籠っているつもりなんですか?」


ここにいれば、衣食住や安全は保証される。

王族の柵に縛られることもない。

けれどその代わり、一生この部屋からは出ることは出来ない。


「………………それは、どうしようもないよ。それに布教活動なら、ここでも出来るし……たまに外に出たくはなるけどね」


王女は諦めたように言った。


……本当は、外に出たいのかもしれない。

なら────


「では、僕と契約しませんか? ユーリア王女殿下」


「契約?」


俺の唐突な提案に王女はコテンと首を傾げる。


「はい。もし貴方が出陣を望まれても、僕が代わりに戦います。僕の固有魔法はまだ完全に覚醒はしていませんが……固有魔法が使えなくても村や町の1つや2つ殲滅するくらいわけないですから」


「え、えぇ!? 何そのスペック!? リュート君ってチートキャラなの!!?」


「まぁ、そんなとこですね」


俺は既に各属性の上級魔法を使える上、魔力が桁違いに多い。

相手側が魔眼持ちを引っ張り出して来ない限り、俺の負ける確率は限りなく低い。

だから王家の威信の為の力の行使なら、王女の代わりも十分に果たせる。


「その代わり──」


だが、勿論タダでそんな事をするつもりはない。

少なからず俺も危険をおかす事になるのだ。

母様達に余計な心配をかけてしまう分、きっちり対価は貰う。


「王女の知識ゲームシナリオを僕にお与えください」


僕は兄様直伝の笑顔で、そう言って笑いかけたのであった。

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