第100話07話 リュート君、キレる


「えぇ、ユーリア・ライト・ユグドラシア王女殿下……いえ、須藤 由奈、貴方にです」


「……え? な、何故それを?」


俺の言葉にユーリア王女、もとい須藤 由奈はあからさまな動揺を見せた。


やはり……そうか、そうなのか。


最初、王女を見極めてから話そうと思ったが、その必要はなさそうだ。

あの腐女子王女は、ある意味では有害だが人格的には無害だ。

ただ腐っているだけだ。

此方が転生者だとバラしたとしても、問題はないだろう。


「それは前世で貴方のことを、知っているからですよ」


「え? え?? ということは、まさか貴方も転生者!? しかも私を知っているって……依ちゃん!!」


須藤 由奈は混乱した頭で、何故か俺を為永 依子と勘違いをして抱き付こうとしてきた。

確かに俺の中身が彼女であったのなら、感動の再会であっただろう。


「違います」


俺は伸ばされた腕をヒラリとかわし、為永 依子ではないと否定した。


「え? じゃあ、貴方は誰なの?」


「僕は高校の時、その為永 依子と同じクラスだった瀬永 龍斗です」


須藤 由奈の問いかけに、特に隠す必要もないので本名を教えた。

特に話した事はなかったので、俺の事は知らないだろうが。


「瀬永……龍斗君? あの神童で有名だった?」


「まぁ、そうですね。……僕の事知ってたんですね。貴方はあまり他人には、興味ないと思っていました」


須藤 由奈はある意味で、マイペース、唯我独尊だった。

自分の興味ない事に対して、とことん意識を割かないタイプだ。

だからこそ、高校時代の昼休み周囲の視線を無視して、散々好き勝手出来ていたのだが。


「いや、流石の私でも知ってるよ! 凄く有名だったし!!」


「そうですか、それはよかったです」


須藤 由奈は頬を紅潮させて、拳を胸の前まで上げた。

そんな彼女を俺は適当に流した。

ゲーム情報シナリオは知りたいが、前世の思出話には興味がない。


「そう言えば、何で私だって分かったの? 元々私が転生者だって分かってたから、急に会いに来たんだよね? 今まで何の接点もなかったし……」


「貴方が転生者ある可能性は、高いとは思っていましたよ。個人を特定出来たのは、その独り言です……言っている事は、高校時代と大差ないですから」


本当にあの頃と悪い意味で変わっていない。


「あー、なるほど」


俺が説明すると、須藤 由奈はポンッと手を合わせて納得の表情を見せて。


「でも、よく覚えてたねー。流石は天才児!」


彼女はニコニコとそう続けた。


「……貴方には散々迷惑を掛けられましたので」


そんな彼女の態度にイラッときたので、つい文句を言ってしまった。

あの頃を考えれば、つい文句の1つも言いたくなる。


「え? そんな事……あったっけ??」


しかし俺の嫌味に、須藤 由奈はまるで身に覚えがないと首を傾げる。

嘘や知らない振りではなく、本心からそう思っているようだ。


「あ?」


見に覚えがないだと?

散々、不愉快な話を聞かせておいて?


「瀬永君?」


俺がいきなりの押し黙ったのを不振に思ったのか、須藤 由奈がどうしたのかと問いかけてきた。


抑えろ……どんなに迷惑をかけられた腐ってるやつでも、相手は王女。

王女、王女だ…………。


そう、相手は王女だ。

半殺しにしてしまうのはまずい。


本当、王女じゃなきゃ思いっきり殴るのに……一発、一発だけでも殴りたい。

いや、駄目だ……殴るのも問題になる。

一旦、冷静になろう。

そうでないと、本当に実行に移してしまいそうだ。


俺は頭を冷やすために、須藤 由奈から距離をとろうと窓際に移動した。

カーテンは閉めきられており、窓から光は一切漏れない。

それが、この部屋の陰鬱さを更に助長していた。


折角の部屋が台無しだな。

家具事態は最高級のものばかりなのに……。


気付いたのは偶然だった。

ふと何気なく窓際にあるテーブルに目を向けると、上には乱雑にペンや沢山の紙束達が乗せられていたのだ。


……ん?

何だこれ?


何となく中身が気になり、ペラペラとページを捲る。


この際、勝手に見ても問題はないだろう。

相手はオープンな迷惑腐女子だし……怨み辛みが山程ある。


俺は別に腐女子を非難している訳ではない。

個人の趣味にまで、口出しをする権利は俺にはない。

だが、苦手な奴に強制的に聞かせるのは違うと思う。

TPOは大事だ。


「あ、それは!」


須藤 由奈の慌てた声が聞こえたが、その時既に遅かった。

俺は、ガッツリ見てしまっていた。















────攻略対象者達の自作BL漫画を。





「…………………………………………………………」


「あのね、この世界ではBL漫画ってないから、私が布教しようと思って! 流行ると思うんだよね!! 隠れ貴腐人とか、絶対居るはずだし!」


須藤 由奈もとい、腐王女は俺の表情が見えないのか楽しそうにそう語り始めた。


「…………ふ、ふざけんじゃねぇ!!」


俺はあまりの事に思わず叫ぶ。


「ど、どうしたの!?」


俺の突然の奇行とも取れる行動に、腐王女が驚きの声を上げた。

その顔は俺が何故キレてるのか、全く理解しているようには見えない。


「どうしたの?、じゃねぇ!! この腐れ王女が!! お前、そもそも傷心で閉じこもってるんじゃねぇのか? あぁん? それが、何で創作活動に走ってんだ! 王様と王妃様の気遣いを返せっ!!」


そして、俺の気遣いも返せ。


俺は礼儀だとか、不敬だとか、全く気にせずに怒りに任せて叫んだのであった。

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