第98話05話 王女様の諸事情

 

俺達のせい……?

どういう事だ??

転生者だからじゃないのか?


俺の頭は疑問符で一杯になった。


「お前が現れるまでは、特にシュトロベルンの力が強かったのは知っているだろう?」


「えぇ。国一番の力を持ち、一時期は王の政治にすら口を出していたとか」


王様の問い掛けに、俺は相槌を打った。


「だが、王家より強い権力など許すわけにはいかない」


「そうですね、そんな事が続けば国が滅びます」


当たり前だ。

それを許すことは、下克上を許すことに等しい。

誰が自分より下の相手に、忠義を尽くすというのか。


「王家の……ユーリアが受け継いだ固有魔法は、王家の力を示す為に一番効果的なものだったんだ」


「まさか……」


ここで俺は漸く王様の言ったことの意味を理解した。


「3年前……隣国と争いになった時に、ユーリアに魔法を使わせた。結果、戦はすぐに終結した。圧倒的な力の前に隣国が白旗をあげたのだ。国内の権力争いもも落ち着きをみせた。当時はシュトロベルンが王位に付いた方がいいと、貴族達の間で陰ながら囁かれる事もあった程だ。そう言った意味では、ユーリアの存在は王家の威信を回復させるには十分だった。……けれど、その後ユーリアは外に出なくなってしまった。……今では家族でさえ、面会を拒絶する程にな」


王様は悔いるように言った。

過去に幼い子の力に縋った自分を、責めているのだろう。


俺も王としてその行動を間違っているとは思わない。

だが、親としては失格なのだろう。

当時6歳の少女に背負わせるにしては、その業は深すぎる。

犠牲者は少なくない。

ゲームでは耐えられたようだが、前世を日本で暮らしていたとしたら、人の生殺与奪に関することなど免疫はない筈だ。


「……そんな事があったんですね」


俺は昨日父様が良い顔をしなかったのは、王女様のその問題行動故かと思っていた。

だが、本当の理由は王女への負い目があったからなのだろう。


「だからお前には悪いが、その願いは叶えられない」


「いえ、そう言った事情なら仕方ありません。此方こそ、無理を言ってしまい申し訳ありません」


王様はすまなそうに言ったが、此方が無理を言ったのだ。

そう言った理由があるのだし、尚更仕方がない。


接触は……無理そうだな。

ここは、リスクをおかしてでも手紙で連絡を入れてみるしかない、か。


「王様──」


代わりにお手紙を届けて貰えますか? と頼もうとした時だった。


「話は聞かせてもらいました」


「フィーリアっ!?」


突如、部屋に王妃様が乱入して来たのだ。

突然の乱入者に、王様は驚いて席から立ち上がった。


フィーリア・ルイリ・ユグドラシア、この国の王妃様で国一番の才女。

俺もノックもなしに入ってきた王妃様に、驚きを隠せずその姿を思わず凝視してしまう。


今の話を……聞いてたのか?

……俺、ちょっと王妃様って苦手なんだよね。


例の約束もあるからか、会うと嫌な予感をヒシヒシと感じる。

唯でさえ苦手意識があるのに、王妃様は俺と王女と婚約させようとしていたと聞く。


1年前の黒歴史写真も……王妃様に贈ったみたいだし。


黒歴史を握られている上、その内王妃様も加わって着せ替え人形にされそうだ。


早く成長したい……背が伸びて男らしくなれば、流石に女装何てさせられないだろうから。


それは今の俺にとって切実な望みであった。


「フィーリア、幾らなんでも盗み聞きとは趣味が悪いんじゃないか? それにノックもせずに勝手に入るとは「お黙りください」……」


王様が、王妃様の非礼に抗議をした。

が、尻に敷かれているのですぐに反撃を食らう。


正論なのに……王様、ちょっと憐れ。


王様はため息をつくと、王妃様の次の言葉を待った。


「ノックをしないのは貴方も同じでしょう? それに盗み聞きとは心外です。そもそもギルベルト様が、私に黙ってリュートとお会いするのがいけないのですから。……ですが、お蔭でよい話が聞けました」


王妃様は王様の今までの行動を逆に咎めると、最後にほんの少し微笑んだ。

嫌な感じの笑みだ。


「は? お前まさか……」


「えぇ、そのまさかです。リュート、付いてきなさい。今からユーリアの元へ行きますよ」


そして王様が戸惑いを見せる中、王妃様はそう俺にそう言ったのであった。

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