第78話13話 リオナの妹
「まぁ、理不尽にクビにするなんて事はないから、安心しなよ」
兄様は空気を変えるように微笑んだ。
全く信用ならない笑みだ。
理不尽にはないけど、万が一にでも兄様に喧嘩売ったら倍返しじゃすまなそうだ。
それこそクビじゃ済まなそう……。
兄様のブラコン具合が本当に心配だ。
「はははっ……スール君もリオナさんも兄様はちょっと……いやかなりブラコンなだけなんで、あまり気にしないでください」
兄様が鞭として厳しくいくなら、俺と母様は飴でフォローしていこう。
俺は心の中で決意した。
彼等が辞めて、次に来るのが変な奴とかだったらもっと困る。
彼等は見たところ、普通の人だ。
これを逃す手はない。
「な、仲がとてもよろしいのですね」
スールが笑みをひきつらせながら言った。
うん、普通に引くよな。
気持ちは分かるよ。
俺も他人がこんな事を急に言ったら、引くもん。
「えぇ、きょ「リューは天使だからね」……兄様」
俺が兄弟だから、と当たり障りなく言おうとしたら兄様に遮られた。
そしてまたも、何時もの残念発言。
しかも、最近それにちょっと慣れてきている自分が怖い。
「羨ましいです。家は兄弟で、あまり話したりとかしないので……リオナさんもそう思いますよね?」
スールは少ししどろもどろしながら、リオナにパスする。
本心からそう思っているかは微妙な所だ。
「はい、私も姉達とはあまり仲が良くないので、羨ましいです」
リオナは、それに冷静に返した。
リオナは愛想はあまりないが、その分年齢より落ち着いているみたいだ。
もう先程のショックから、立ち直ったように見える。
「でも君は確か、異父姉妹の妹とは仲がいいだろう?」
兄様はふいに、リオナに質問をぶつけた。
「……えぇ。病弱な子ですが、仲はいい方だと思います」
急に話題を振られたリオナは一瞬眼を見開くも、すぐに何時もの無表情で淡々と答える。
リオナの妹……
それは父様に、見せて貰った調査書にも載っていた。
リオナはメイソン子爵が、屋敷に働く侍女との間に作った子だ。
そして、それを知った正妻により、リオナ達母子を屋敷から追い出したらしい。
その後リオナの母は、別の男と所帯を持ち妹が生まれたと報告書には記されていた。
そして気になっていたユーリとの接点だが、数年前の事故だ。
この時、リオナの母と妹が馬車にひかれる事故にあっている。
母親は事故で即死してしまったようだが、妹は偶々その近くにいたユーリによって治療を行われたのだ。
母親の事は残念だが、妹がユーリの治療を受けれたのは不幸中の幸いだろう。
通常、ユーリは教会で守られていて一般人では到底会えないし、治療なんてもっての外だ。
それが偶々ユーリが側にいた事で、この国で1番の治療を受けられたのだ。
リオナの妹は今も五体満足で暮らしているらしい。
ユーリの魔法でなくてはこうはいかないかっただろう。
恐らく死んでいたはずだ。
だからこそ、ユーリを命の恩人だとリオナは言ったのだ。
「妹か……きっとリオナちゃんに似てとても可愛い子ねっ! 今度家に連れて来るといいわ! 幾つなの?」
母様が楽しそうに、リオナに問いかけた。
事故の後、リオナは義理の父親と3人で暮らしていたが、その翌年父親は病気で亡くなっている。
保護者が死んだことで、渋々メイソン子爵が妹共々引き取って育てていると報告書に記されていた。
……あまり、いい扱いをされていないようだが。
可哀想ではあるが、貴族社会ではよくあることだ。
実の子だけでなく、妹まで引き取っただけで随分マシだろう。
「リュート様と同じ6歳ですが……妹は貴族の血を引いていないので、とてもじゃありませんが公爵家にお連れ出来るような教養もありません……」
リオナは少し困ったような顔で、首を振った。
メイソン子爵の実子ならともかく、自分の血を引いてない子供を公爵家が優遇するのは子爵本人としても気に入らないに違いないから。
現に最初侍女には、リオナの姉達を勧められたとお祖母様から聞いた。
それをお祖母様が、無理を言ってリオナを指名したそうだ。
姉達だったら俺や兄様に色目を使うことは確実だったようなので、お祖母様の見る眼は確かなのだろう。
流石魔窟を、長年生き抜いてきただけある。
そういう環境なので、これ以上波風を立てるとリオナ達のメイソンの家での待遇が悪くなるかもしれない。
リオナもそれが分かっているからこそ、遠回しに断っているのだろう。
それにもし仮に許されたとしても、止めた方がいい。
俺と友好関係があると周りに知られれば、俺への人質として誘拐される可能性も高くなる。
「そう……残念だわ。またいつか機会があったら、いらっしゃいね?」
母様もリオナの空気でそれを感じ取ったのか、それ以上は言わなかった。
ユーリの事もあるから、いつか上手いこと本人に会わせてあげれたらいいんだけど。
ユーリも直接本人に言われた方が、嬉しいに違いない。
いざとなったら俺の空間魔法で、他に分からないようにして会わせる事は出来るかな?
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