第79話14話 お仕事
リオナ達と兄様の顔合わせがあった日の翌日、王様からの依頼である近くの大都市へとゲートで試験的に繋ぐことになった。
昨日の兄様との顔合わせは……結果的に上手くいったと言えるだろう……一応。
少なくとも、ギスギスした雰囲気にはならないだろう。
うん、贅沢は言わない。
それで満足しておこう。
「リュート様、準備が整いました」
俺が昨日の事を思い出していると、若い兵士であるベックが俺に声をかけた。
「はい、今行きます」
俺は席を立ち、ベックの後ろに続いていく。
今日は国が用意した魔導具である扉に、空間魔法を施すのが俺の仕事だ。
国家的なプロジェクトなので、リオナやスールはまだ試用期間ということで今日は連れてきていない。
なので、今日は父様の部下であるベックが、俺の身の回りの警護や世話を担ってくれている。
前回と違い、今回は座標調整の補助は魔導具が行ってくれる。
魔法の使用も多少慣れてきた事もあって、今日の仕事は俺にとって比較的楽な仕事だ。
恐らく午前中で全て終わるだろう。
「急だけどユーリに会いに行こうかな……」
勿論、先触れは出すが約束の事やリオナの事もある。
出来れば早めに会わせてあげたいし、ユーリが楽しみにしていた魔導具作成も教えてあげたい。
「どうかなさいましたか?」
俺の独り言に反応して、ベックが俺に問い掛ける。
「いえ、教会の方に後で、手紙を届けてもらえないかと思いまして……」
「畏まりました。至急手配いたします」
「ありがとうございます」
俺が感謝の意を込めて微笑むと、ベックは頬を赤く染めて視線をそらした。
「と、当然です。仕事ですので……」
この建物は王都の端にある屋敷を、改造して建てた施設だ。
急遽用意したものだが、廊下や入り口の扉を大きくとっているので、荷物の搬入がしやすい仕組みになっている。
「此方です」
広間の扉が、開けられる。
部屋に一足踏み入れると、周囲から視線が集まる。
主に、好奇心や尊敬の類いみたいだ。
周囲にチラリと視線をやると、初めて見る顔が多い。
ここにいるのは、学者や研究者が大半だ。
俺が魔眼持ちで珍しい属性の適正を持っているので、物珍しいのだろう。
まあ、一部此方を探るような視線を向けている者もいるが……
「では、始めましょうか」
俺は笑顔を作って、開始を告げた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「素晴らしいです! このようなことが魔法で可能だなんて!!」
「えぇ、他国にはないこの技術……きっとこの国は、大陸一の大国になりますね」
魔導具が正常に起動していることが確認されると、周囲から感嘆の声が上がった。
「お疲れ様です、リュート様。お茶を用意しありますので、移動しましょう」
そんな中、ベックが俺を労るように声をかけた。
見掛けは幼い子供とはいえ、魔眼持ちである俺を年相応に接する彼は優しいのだろう。
「はい、ありがとうございます」
俺は彼に続いて部屋を出た。
「ふぅー」
紅茶を飲んで、一息つく。
2度目とはいえ、思っていたより緊張していたみたいだ。
「教会への手紙、届けてくれましたか?」
俺はカップをテーブルに戻すと、ベックに声をかけた。
「はい、既に。すぐに返事をいただけたようで、預かっていますがご覧になられますか?」
「はい、お願いします」
ベックは俺の声に頷くと、懐から手紙を取り出して俺に渡した。
もう返事まであるのか……少し急かしてしまったかな?
俺は封を切って貰った手紙を受け取った。
手紙を開くと、どうやら午後からなら空いているようだ。
「……ちょうど良かったかな」
「?」
ベックは首を傾げた。
そして、そのまま俺の次の言葉を待った。
「今日この後、教会へ寄ってもいいですか? 友人に少し用があるんですけど」
「はい。リュート様が教会のユーリ・クレイシス様と仲がよろしいのは、ヴィンセント様より伺っています。教会への訪問であれば、問題ないかと思います」
俺のお願いにベックはすぐに頷いた。
父様も教会への訪問は自前に許可していたようだ。
「ありがとうございます。では、そのようにお願いしますね」
「はい、承りました」
その後魔導具に不具合が無いことが確認されたので、俺は予定通り午前中に仕事を終わらせる事が出来た。
俺も最後に確認した後、教会へ向かう馬車に乗ったのであった。
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