第77話12話 我が家はブラック企業?

 

「随分、賑やかだね」


「兄様! もう予定はよろしいんですか?」


丁度昼御飯を食べ終わり、食後のお茶を飲んでいたところに兄様がやって来た。

予定はもう済んだのだろうか。


「うん。もう済んだよ」


そう言って、兄様は俺の隣の席に座った。

俺の隣は兄様の定位置になりつつある。


「レイ君はご飯もう食べたの?」


食べていなかったら用意して貰うけれど、母様は言った。


「えぇ、食べてきました」


兄様は微笑んで言った。


「……それで、彼等がリューの新しい従者達かな? リュー、紹介してくれる?」


兄様はスールとリオナに視線を移し、俺に言った。

どこか値踏みするような視線だ。


「はい。カラン伯爵家の五男、スール・カラン7歳とメイソン子爵家の三女、リオナ・メイソン8歳です。スール君、リオナさん、此方は僕の兄のレイアス・ウェルザックです」


俺は双方に、紹介をする。


「お初に御目にかかります。スール・カランと申します。よろしくお願いいたします」


「同じく、リオナ・メイソンです。よろしくお願いいたします」


2人は席を立ち、兄様へ頭を下げて挨拶をする。


「そう、カランにメイソンね……」


2人に向けられる視線に、俺まで緊張する。

スール達は兄様にとって合格か、否か。

俺には予想がつかない。


「ダメよレイ君! そんな難しい顔しちゃっ! スール君やリオナちゃんはいい子なんだから、仲良くしなくちゃっ!!」


スール達の事を気に入った母様が、兄様を咎める。


「すみませんカミラさん。君達もすまないね」


すると、兄様はすぐに何時もの微笑みを浮かべて、母様達に謝った。

心なしか部屋の温度まで上がった気がする。


確かに母様の気持ちも分からなくはないが、兄様の態度も分からなくはない。

あまり全面的に信用するのもまだ時期尚早だろう。

調査結果は問題なかったので、気にしすぎるのもあれなのだが…………


「ただ――」


兄様はスール達に目線を向け、笑みを浮かべる。

スールやリオナは普段耐性がないのか、少し頬を染めた。


「リューに悪影響を及ぼすなら、容赦なく切るからね?」


そして、最上級の笑みでそう言い切った。

今日も兄様は通常運転だ。


く、黒い!!

黒いオーラが滲みでてるっ!?

2人をそんなにビビらせないで兄様っ!


スールの下手くそな愛想笑いとは比べようもなく、兄様の笑みは完璧で美しい。

あまり感情を表に出さないタイプの2人が、思わず頬を染めるほどに……

が、最後のは眼が全く笑ってない。

その黒いオーラに、気付いたのだろう。

先程まで頬を赤く染めてたのが一転、顔を青くして震えている。

彼等は普通の子供だ。

あの威圧感には、耐えられない。

つまり、超ビビっていた。


「レーイーくーん?」


2人が怖じ気づいているのに気付いたのか、母様が兄様に声をかけた。


「仲良くって言ったでしょう! 言った側から、2人を怖がらせてどうするの!?」


「……すみません。でも言っておかないと、ね?」


兄様は肩を竦める。

反省はしていないようだ。


「……もうっ! レイ君ったら!! 2人も気にしちゃダメよ? 辞めさせたりなんかしないから!」


兄様の反省皆無な態度に、母様は諦めて2人のフォローをした。


まぁ、よっぽどの事をやらかさない限り俺もクビにする積もりはない。

シュトロベルンを避けるとなると、新しい人なんて中々見つからないだろうしね。


「「あ、ありがとうございます!」」


場の雰囲気に負けて、スールもリオナもたじたじだ。

そんな彼等を見ていて、俺はふと思った。


“そもそも彼等はウェルザックに、馴染むことが出来るのだろうか?”


何せこの家は濃い。

攻略対象者や悪役令嬢がいるのだ。

特に悪役令嬢(リリス)。

リオナは顔が整っているので、会ったら絡んで嫌がらせをするかもしれない。

この先、注意が必要になるのは確実だろう。

そんな最悪な環境に比べ、2人は優秀だが普通の子供だ。

この家での生活は、将来的に苦痛になるかもしれない。

何せ命の危険だってバリバリある上に、性格がくそ悪い悪役令嬢に、ブラコン腹黒な乙ゲー攻略対象者の三重苦だ。

当然の事だろう。

もし俺の立場だったら、いくら大貴族の家でも仕えたくない。


……前世だったら、家って結構なブラック企業だよな。

命の危険はある上に、パワハラまであるし。


俺は彼等が辞めないでくれることを切に願うのであった。

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