第72話07話 理想は脱乙ゲー?

 

「そうだ、リュート様の固有魔法は一体何なんですか? ウェルザック公爵家に伝わるものは聞いていますが、もう1つの固有魔法が何であるのかはお聞きしていないんですよね」


俺が考えに耽っていると、スールが話を振ってきた。


「さぁ? まだ開眼していないので、分からないです」


俺はにこりと笑いながら、スールに嘘をついた。

本当はもう何であるかは分かっている。

先日発現したのだから。

だが、スールのことはまだ信用できない。

人となりが分かって正式に雇うことになってからでも、明かすのは遅くはないだろう。


「……そうなんですか。いえ、この国の数少ない魔眼持ちに興味がありましたので」


スールは少し残念そうな顔をしたが、すぐに先程の愛想笑いを浮かべた。


「確かに10人しか居ませんもんね……まぁ、その内の半数近くはシュトロベルンが占めていますが」


シュトロベルンには、今4人程いた筈だ。

そして、現在この国全体では10人しかいない。

数字だけでみるのであれば、約4割がシュトルベルンの一族だ。

只でさえ魔眼持ちはその数を減らしているというのに、恐るべき人数である。

今は俺がいることで、国政や軍事面で父様と王様の発言力は増しているが、以前までは軍事力の半分をシュトロベルンが担っていたと言っても過言ではない。

だから今でも、完全にシュトロベルンの牙城は崩せないのだ。

シュトルベルンを排除すれば、国が大きく揺らぐ。

この国の根深い問題だ。


「えぇ、家はシュトロベルン公爵家とは関わりがないですし、間近で初めて拝見しました」


「ユーリ・クレイシスとも会ったことはないんですか?」


ユーリは教会の顔として、よく社交会などにも連れていかれているらしい。

話したことはないのだろうか。


「えぇ、僕は5番目ですし、年齢的にも夜会にはあまり参加しないので……」


スールは俺の疑問にそう答えた。


やはり5番目ともなると、肩身が狭いのかもしれない。

貴族では1人目は後継ぎ、2人目として補佐やスペアがいれば男は十分と言われている。

それ以上に産まれる子供は女児の方が喜ばれる。

女児なら、他の貴族との縁戚を作る為にいても困らないからだ。

男児は継がせる領地がなければ、自分で職を見つけなければならない。

スールも将来を見越して、家に来ているようだった。


「リオナさんは……会ったことありますか?」


俺は先程から黙っているリオナに話題をふってみた。

恐らくスール同様に面識はないだろうが。


「……ユーリ・クレイシス様には1度だけあります」


するとリオナは一瞬だが表情を変えた。

少し笑ったように見えた。

今日、初めて見せた表情の変化だ。


「へぇ、いつ会ったんですか? 僕、ユーリとは仲が良くてよく遊ぶんですよ!」


思わぬ事実だ。

リオナのこの様子では、ただ挨拶を交わしただけの関係ではないだろう。

どういう関係なのか、気になるところだ。


「2年程前に少しだけ。……ただあの方は私の事など覚えてないと思いますよ」


2年……てことは、ユーリが5歳の時かな?


「ユーリとは何処で会ったんですか?」


俺は更に質問を重ねた。


「王都で……私にとってあの方は恩人なんですよ」


そう言ったリオナの表情はやはり優しげで、ユーリに対して恩があるのは本当なんだろう。


「恩人、ですか」


「えぇ、妹の為に固有魔法を使っていただいたんです」


妹……?


俺は以前読んだ貴族名鑑を頭の中で思い浮かべるが、メイソン子爵家には娘は3人しかいなかった。

リオナに妹はいない筈だが。


「固有魔法……ユーリのあれは独特ですよね?」


俺は少しかまをかけることにした。

一般には幻獣を召喚する位にしか知られていない。

ユーリのユニコーンは、ユーリの精神に由来して大変可愛らしい見た目だ。

見たことがなければ、予想だにしない外見だろう。

嘘をついているのならすぐに分かる。


「えぇ。でもぬいぐるみみたいで、可愛いらしかったです」


リオナはハッキリとそう言った。

つまり、妹をユーリが治療したのは事実ということだ。


「次に家に来た時にでも、直接お礼を言ったらどうですか? 本人も喜ぶと思いますよ。それにきっとユーリは覚えていると思います」


俺はリオナにそう提案した。

ユーリはきっとリオナ達の事を覚えている。

人見知りは激しいが、根はとても優しい子だ。


「そう、……ですね。機会があったら、是非お願いします」


リオナはぎこちなく頷いた。


「えぇ、今度家に来た時にでも是非」


「ありがとうございます」


リオナはほんの少しだが、俺に笑みを向けた。

少しは俺に心を開いてくれたみたいでよかった。


「リュート様はまだ貴族となって日が経ってないのに、交遊関係が広いのですね。教会関係者とも交友があるなんて……」


スールが感心したように言った。


「まぁ……確かに、大分偏りはありますが……。ユーリは同じ魔眼持ちとのことで、陛下から紹介されたんですよ。それ以来仲良くしています」


確かにある意味で、広いのかも知れない。


王子から、教会の魔眼持ちまで……全部攻略対象者達だけど。

そう言った意味でも2人は初めて乙ゲーに関係ない、貴重な人物と言えるだろう。


……是非とも仲良くして貰おう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る