第71話06話 侍女と従者

 

結局、俺はお祖父様と風呂に入り、お祖母様と共に眠ることになった。


仕方がない、あの後1時間近く争いやっと2人が納得し合ったのだ……勝手に。

俺の意思に関係なく。

今更嫌だとは、流石に言えなかった。


日本人って押しに弱いから……。

まあ、今回だけ。

今回だけの家族サービスだ。

次は魔法を使ってでも、逃げさせてもらう!


そんなこんなで次の日、お祖母様が仰った通りに人が訪ねてきた。

やって来た馬車は2台、例の従者と侍女のものだろう。

俺達は応接間で、客人を待った。


「スール・カラン様、リオナ・メイソン様いらっしゃいました」


コンコンコンッと、ノックの音が聞こえるとセルバさんの声が聞こえた。


「入れ」


父様が入室を促した。


「「失礼します」」


父様の許可とともに扉が開き、外から2人の幼い少年少女が入ってきた。

2人とも、俺の1、2歳上くらいの年だろうか。

俺よりも少し背が高い。


「初めまして私はカラン伯爵家の五男、スール・カランと申します。年は7歳になります。よろしくお願いいたします」


そう挨拶した少年は、赤みがかった金髪にライムイエローの瞳。

貼り付けたような笑顔を浮かべていた。

攻略対象者である兄様達には劣るが、中々の美少年だった。


「初めまして私はメイソン子爵家の三女、リオナ・メイソンと申します。年は8歳になります。よろしくお願いいたします」


次に挨拶した少女は、チョコレート色の肩より少し下に伸びた髪に薄紅色の瞳。

先程の少年とは対称的に無表情だ。

此方も美少女であった。


「私はウェルザック公爵家当主、ヴィンセント・ウェルザックだ。今日は息子の為に来てくれて感謝する。リュート、挨拶を」


父様に促され、俺も挨拶をする。


「初めまして僕はリュート・ウェルザック、仲良くしてくれると嬉しいです!」


俺は最上級の愛想笑いを2人に向けた。

初対面の印象が良いに越したことはない。


「スール君にリオナちゃんね! リュー君と仲良くしてくれたら嬉しいな!」


「「はい」」


母様は俺に新たな友達が出来ることが嬉しいみたいで、2人をキラキラとした瞳で見詰めた。


「カミラ喜んでいるところ悪いが、彼らはまだ仮採用だ。君達もこれから一ヶ月は試用期間とさせて貰うから、そのつもりで頼む」


父様に言われ、頷いた母様は少ししょんぼりしていた。

2人は最初から予想していたのか、特に気にした様子はなく頷いた。


対称的な2人だな。

スールは始終ニコニコしているが、リオナは表情1つ動かさない。

……いや、ある意味では似ているのかもしれない。

スールのアレ・・は、明らかな愛想笑いだ。


母様の希望通り仲良く出来るかな?

もう既に一抹の不安を感じるんだが……俺友人は前世含めて少なかった……。


今更どうやって友人を作ればいいかなんて分からない。


「ヴィンセント様、折角ですし子供だけで遊ばせてみたらどうですか?」


母様が父様に提案した。

公爵である父様の前では2人の素は見えないだろう。


「……そうだな。リュートが打ち解けられなかったら、そもそも意味がない。リュート、庭を2人に案内してあげなさい」


「はい。スール君、リオナさん案内しますね」


父様に頼まれて、俺は席を立った。


「「はい、お願いいたします」」


俺は2人を連れて、庭に移動した。

離れの庭とはいえ、


「お2人は何故この仕事を引き受けたんですか?」


子供だけになって俺はとりあえず、2人に動機の方を聞いてみた。

人柄を知る手掛かりになるだろう。


「私は伯爵家と言っても五男ですので、将来家は継げませんし既に次補佐する人間もいます。ですので優秀な方の補佐をしたいと考えたのです。リュート様は大変優秀だとお聞きました」


ニコニコしながら、スールは答える。


確かに動機としては通っているが、愛想笑いが嘘臭い。


兄様も愛想笑いをよく浮かべるが、非常に上手いからな……


親しい間柄じゃないと、まず見破れない。

逆にスールは分かり易すぎる。

これでは大半の人には分かってしまうのだろう。


「……リオナさんは何故ですか?」


俺は次にリオナに話を振った。


「父に命じられましたので」


リオナは相変わらず表情筋1つ動かさずにそう言った。


「そうですか……」


……これも妥当な理由である。


貴族の子息にとって家長の言うことは絶対だ。

何より、俺は公爵家の血を引く魔眼持ち。

縁を持ちたいと、考える家も少なく無いだろう。

現に断っているが縁談の話も来ていると父様から聞いている。


「はい」


貴族の子息として妥当な理由だ。

だが、少々正直過ぎる。

貴族社会を生きるなら、もう少し繕うことを覚えた方がいいだろう。


素直なのは、美点とも言えるんだけどね……。


俺は2人を見て正直レベルがあまり高くないと思ったが、この年ではこれが普通なのかもしれない。

……俺の周囲はハイスペック、壊れ性能のチート攻略対象者だらけだ。

そのせいでチェックが辛くなってしまっている。

比較対象である俺や彼等攻略対象者が異常なだけで、2人は年相応なのだろう。

むしろ年齢よりは、落ち着いているかもしれない。


スールは下手だが、空気を読んで一応愛想笑いもしているくらいだしな……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る