第70話05話 祖父母は孫バカ?

 

「見つけたって、勝手な事をなさらないでください母上。適当に選んで、万が一シュトロベルンの息のかかったものだったらどうするんですか?」


お祖母の突然な報告に対して、父様が拒否の意を示した。


「勿論、問題ないわ! 侍女の子はメイソン子爵家の三女であるし、侍従の子はカラン伯爵家の五男。家柄も問題ないし、シュトロベルン公爵との繋がりもないわ!」


お祖母様は胸を張って答えた。

余程自信があるらしい。


「それはもっと時間をかけて精査しないと……」


父様はもっと慎重に調べた方がいいと納得しない。

当然だろう。

幾らなんでも急過ぎるし、この間の件もあるから用心に越したことない。


「そんな事を言っていたら、何時までも決まりませんわっ! 試用期間として採用して、間近で見て判断すればいいことだわ」


そう言われると、お祖母様の言っている事にも一理ある。


「こいつの言った通りだぞ、ヴィンセント。公爵家で誰もつけないのも、外聞が悪い。それにシュトロベルンは顔が広い。繋がりのない家なんて、そう多くないだろ? 結局、実際見ないと分からん。シュトロベルンに近い家でも反感を持っている奴もいるし、逆に繋がりがなくとも繋がりを作ろうとしてすり寄る奴もいる」


お祖父様が父様をそう諭した。

流石長い間公爵家をまとめていただけあって、説得力を持たせるだけの貫禄がある。


「……そうですね。試用期間として採用するのもいいかも知れません。それに確かにメイソンとカランの家は、シュトロベルンと密接な関係はありませんし」


父様は渋々頷いた。


「では、決まりね! 明日の昼に顔合わせとして、ここに来る予定になっていますからね!」


お祖母様は嬉しそうに微笑んだ。

決まりと言いつつも、明日来る予定なあたり俺達に拒絶は認められていなかったようだ。


「明日? 随分急ですね」


「こういったことは、早ければ早いほどいいのよ! リュート君とは年も近いし、きっと仲良く出来るわ!」


お祖母は俺の目を見て、頭を撫でる。


年が近い、か……

まともな人だといいんだけど。

俺の周りは皆キャラが濃いからな……。


攻略対象者やゲーム関係者ばかりな俺の交遊関係だ。


「よかったねリュー君! 新しいお友達が出来て!」


俺は誘拐や暗殺の危険があるから、関わる人間は制限されている。

母様はその事を気にしているので、俺の交遊関係が広がるのが嬉しいみたいだ。

最もまだ友達になるとは決まっていないが。


「そうですね。明日が楽しみです」


俺はそう言って、母様に微笑んだ。

母様の為にも出来る限り俺からも努力しようと決めた。


「ふふっ、決まりね! じゃあわたくし達はそろそろ休みましょうか!」


そう言ってお祖母様は、突然俺を抱き上げた。


「ふぇ?」


俺は驚いて間抜けな声を出す。


「……何故リュートを抱き上げたのですか母上?」


父様が冷めた目で、尋ねた。


「今日はリュート君と一緒に休むわ! リュート君、行きましょう?」


やっぱりそう言うことか!?


俺は少し手足をバタつかせて、ささやかな拒絶の意を示した。


「母上、リュートが嫌がっています」


父様が俺の気持ちを察して、お祖母様を止める。


「嫌よ! 折角、孫とあったのだもの。もっと一緒に居たいわ!」


お祖母様は俺を抱き締める腕の力を強め、父様の言うことを断固拒否する姿勢を取った。


「母上……」


父様もお祖母様の意志が固いと見ると、俺に諦めるよう視線を送ってきた。


父様!?

もう少し粘ってみてください!!

諦めが早すぎます!


もう少しだけ頑張って欲しかった。


「ふふふっ! お風呂も一緒に入りましょうねー?」


「えぇ!?」


風呂って……俺前世足したら、30なんだけど。

流石にちょっと……


ひくひくと口元が歪む。


「おいシルヴィア、いい加減にしろ!」


お祖父様が渋い顔で、お祖母様をいさめた。


救世主登場!

お祖父様ありがとうございます!


俺はお祖父様に心の中で感謝した。


「風呂は俺が入れる! これは譲らんっ!」


そう高々に宣言した。


……はい?

え?

助けてくれるんじゃなかったの!?


突然の裏切りだった。

同性というだけマシかも知れないが、それでも抵抗は拭えない。


「嫌ですわ! わたくしが一緒に入ります!」


「一緒に寝るのは譲ってやっただろうが! そっちは俺に譲れ!」


「旦那様こそお譲りください! レディファーストですわ!」


俺が困惑していると、2人が俺を巡り争っていた。

それを父様は完全に見ないふり、母様は嬉しそうに見ている。


何か2人の争いに若干既視感が……

父様、この不毛な争いを早く止めてください!


俺は心の中でそう叫ぶ事しか出来なかった。

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