第69話04話 和解?

 

「……お祖父様とお祖母様は、母様達の事を反対していたんじゃなかったんですか?」


だから、俺の事も良い感情を抱いていないと思ってた。

いまだにベタベタ触られる体についてはスルーして、先程の会話で気になった所を聞いてみた。


「昔はな……我が家も近年では、魔眼持ちが途切れてしまっておったし、カミラはあまり魔力が高い訳ではなかったからな……」


お祖父様は決まりが悪そうに、俺から視線を逸らしてそう答えた。


「えぇ、旦那様と親戚の方々は特に反対されていましたわね……でもそれは昔の事。旦那様も今は賛成していますわ」


続いてお祖母様がそう言って、母様に微笑んだ。


「何故今になって賛成に?」


母様が魔眼持ちを産んだからか?


「元々、俺は正妻として迎えることを反対していただけだ。2人の仲を反対していた訳ではない。私はシュトロベルンの様な腐った血を、ウェルザックにいれるのをよしとしているわけではないからな!」


結局、反対はしていたのではないか、と思ったが俺は何も言わなかった。

代わりに──


「シュトロベルンとの婚姻に反対だったんですか?」


この事は驚きであった。

俺はてっきり当主自らが、強引に進めたものだと思っていた。

シュトロベルンは腐っても、この国1番の大貴族なのだから。


「……違う、あれは王命だ。……前王のな。でなければシュトロベルンなど絶対に迎え入れん! だが断る正当な理由もなくてな……ヴィンセントもカミラの他に妻を迎えることを拒み、正妻がいない状況だった。国は強い魔力を持つ家同士の婚姻を推奨しているから、周りは誰もカミラとの結婚に反対していたのだ。国益の面から見ても利があるから、シュトロベルンの娘との婚姻を無理に進められたのだ」


王命、だと?


貴族同士の婚姻で使われる事なんて滅多にない。

当時の王とシュトルベルン公爵は余程癒着してい事が窺える。


お祖父様はシュトロベルンを嫌っている……そして、お祖母様、も。


2人がシュトロベルンを嫌悪しているという事に嘘は無さそうだ。

近親がシュトルベルン公爵の味方をしないであろう事が分かっただけでも有難い。


「そして、何故認めたかは……ヴィンセントの努力の結果だな。こいつは俺達に認めさせる為に、自力で宰相にまで上り詰めてみせた。認めぬ訳にはいくまい。それに今では固有魔法を受け継いだ子まで生まれたのだから、親戚連中も納得せざる得ない感じだな。もうウェルザックでは表立って反対する者はいるまい」


「そうなんですか……」


父様って凄い一途だ。


普通、何も言わずに姿を消した相手の為にそこまで出来ない。

父様の母様への想いが本物である証だ。


シュトロベルンが幅をきかせているなかで、宰相まで上り詰めるのは大変だっただろうな……


チラリと父様を見ると、少し照れているのか目をそらされた。


「しょうがないことなのよ、リュー君。魔眼持ちはその国の、国力その物。戦争になった時、魔眼持ちを多く有している国が勝つとさえ言われているもの。だからこそシュトロベルン公爵はこの国で一番力を持つの」


母様が俺の頭を優しく撫でる。


「カミラ……お前には本当に悪いと思っている。結婚を認めないどころか、シュトロベルンの女狐に命を狙われるようになってしまった。お前にもリュートにも、いらん苦労をさせることになってしまった」


お祖父様が母様に謝罪した。


「いえ、旦那様方が反対するのも当然だと思います。私は教養や魔力も、あまりないですから……」


母様は自嘲気味に微笑みながら、首を横に振った。


「いいえ、我が家に力がないばかりに苦労をかけたのは事実だもの。本当に申し訳なかったわ。これからもヴィンセントの事、よろしくお願いしますね」


お祖母様も続いて謝罪した。


「はい……私も旦那様や奥様にそう仰っていただけて、嬉しいです」


母様は目にうっすらと涙を浮かべて、微笑んだ。


「ふふっ、折角ウェルザックに正式に認められたのだから、お義母様、お義父様と呼んで欲しいわ!」


「はい……お、お義母様!」


何だかんだあったみたいだが、和解できたようでよかった。

母様もとても嬉しそうだ。

俺も母様が謝罪を受け入れるなら何も言うまい。


「……ところでヴィンセント、いつまでシュトロベルンの女狐に好き勝手させておくつもりだ? 我が物顔で本邸に、愛人が出入りしているではないか?」


お祖父様が厳しい目を父様に向ける。

俺もそれについては気になっていたところだ。


「はい。私も当初は、すぐに出そうと思ったのですが……野放しにしてしまう方が逆に危険かと。それなら近くに置いた方が監視もしやすいですし、何かあった時対処出来ると判断しました」


父様が言った事は、俺はとって意外な答えだった。

シュトロベルンの圧力で、離縁が出来ないのだと思っていたから。


「そういう目的があったんですね……」


「あぁ、あれの不貞とリュート、お前が生まれたことでネックだった魔力や跡取りの問題は解決された。これだけ結婚生活が破綻している以上、もう婚姻を無理に続けさせることは出来ないからな。それに前王は数年前に退いたのだから、王命を使うことも出来ない」


「そうだったんですか」


確かにそちらの方が理に叶っているかもしれない。

それに離縁してしまったら、兄様とも離れることになるので今の方がいい。

勿論、現在進行形で好き勝手されているのは気に食わない事だが。


「そうそう、話に聞いた感じだとまだリュート君には専属の従者や侍女はついてないわよね?」


お祖母様が思い出したように、唐突に父様に質問した。


「えぇ、まだ探している段階です」


「なら丁度よかったわ!」


お祖母は手を胸の前で合わせた。


「母上……?」


「私と旦那様でリュート君にピッタリの優秀な子を見つけて来ましたの!」


「え?」


お祖母は得意気にそう宣言した。

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