第4章 リュート君誘拐事件!?

第66話01話 事後処理

 

あれから1週間が過ぎ、ルーベンスの件は落ち着きを見せた。

俺も次の日からは魔力が全快になったので、治療や復興部隊に参加した。

水の浄化や町周辺の魔物退治まで、実に慌ただしい1週間であった。


「本当にリュート君には感謝してもしきれないよ! 私の不始末の後始末だけじゃない、ルーベンスの民まで救ってくれるなんて!」


トーリは1週間が過ぎても、毎日のようにこうして俺に感謝を伝えてくる。


「いえ、ユーリの力があってこそですよ。僕にはあそこまでの回復魔法は使えませんから」


俺は毎日のように繰り返されるやり取りに苦笑いを浮かべた。

俺としてはやるべき事をやっただけなので、過剰に感謝されても困る。


「あぁ、勿論ユーリも頑張ってくれた。だが君の魔法がなければ誰1人として、救えなかったのも事実だ……私はあの時何もかもを諦めて、絶望していた。だからこそ藁にもすがる思いで、悪魔に手を出したんだ。君は私の間違いを正してくれた。ユーリも……いつも私の後ろに隠れているだけの子供だったのに、いつのまにか私の方が守られていた……私は他の人に助けを求めるべきだったんだ……悪魔なんかに手を出す前にね。私が勝手に無理だと決めつけて、選択肢を狭めていた。あの時、君達を見ていて教えられたよ」


トーリはそう言うと優しく微笑んだ。


「……そうですね」


俺もユーリがあの時、トーリの前に飛び込んだのは驚いた。

ユーリは年齢通りの幼い性格で、俺やトーリの後ろについていくだけだったのに。


「……そういえば、クレイシスの固有魔法ってすごい可愛い感じなんですね?」


俺はあの殺伐とした状況の中に漂う、ファンシーなぬいぐるみの姿を思い出した。


「いや……それは少し違うよ。我が一族に伝わる固有魔法は、召喚した幻獣を媒介にした奇跡の回復魔法だ。だがその姿は、術者本人の精神に依存する。だからあの姿はユーリの心の在り方といっていい」


トーリは俺にそう教えてくれた。


「だからですか。納得です」


あのぬいぐるみの姿は、ユーリの心が幼いからなのか。

なら将来的には、前世本で見たような神々しい姿で召喚されるのかな?

少し楽しみだ。

きっとこれからユーリは、もっと強くなる。

守られる立場から守る立場に変わるだろう。

それはほんの少し寂しいけれど、ユーリの成長は素直に嬉しい。

俺にとってユーリは、友人でもあるけれど弟のような存在でもあるから。


「とぅさま! りゅぅと!」


ユーリの事を考えていたら丁度本人が、トコトコとこちらに走って来た。


「なん…の、…はなし…し…てた…の?」


ユーリは、首をこてんっと傾げた。

相変わらずの小動物っぷりだ。


「お前のことだよ、ユーリ。こないだ固有魔法を使っただろう? リュート君が召喚された幻獣が、気になっていたみたいでね」


「ゆにっ!」


ユーリは目を輝かせて言った。


「ゆに? あの幻獣の名前? ユニコーンだから?」


ユーリらしいと言えばらしいけれど、中々単純なネーミングだ。

思わずクスリと笑いが溢れた。


「ん! ゆに、ともだち!」


「そうなんだ」


「ん!」


ユーリのあまりの無邪気さに、思わず頭を撫でてしまっていた。

指に絡む髪の毛が柔らかくて気持ちが良い。


「ところで、教会の方はどうなりましたか?」


俺はユーリの髪を弄りながら、トーリに聞いた。

これだけ事が大きくなったのだ。

何らかの改革は必要だろう。


「あぁ、まず教皇は正式に職を辞することになったよ。そして国によって裁判にかけられる。恐らく罪人が閉じ込められる塔で、一生暮らすことになるだろう。犯した罪は大きいが高位の一族だからね……死罪にはならないよ」


トーリは今現在の教会について教えてくれた。

その表情は硬く、悔しそうだ。


「そうですか……、でもそれが妥当なところですね。クレイシスは教会の名門一族ですし。……そういえば次の教皇は誰になるんですか?」


あのカイザークを処刑台送りに出来なかったことは俺も残念だが、クレイシスの一族は代々教皇を輩出するほどの名門なのだ。

それを死刑などにしたら、教会への信用が揺らぐ。

そもそも今回のカイザークによる不祥事は、明るみにされないだろう。

神聖とされていた教会のトップが腐っていたでは、社会に与える混乱が大きすぎる。

裁判も内密に行われる筈だ。


「……陛下や他の司教達は私を指名したよ」


苦々しい顔をして言った。

トーリは未遂に終わったが、自分の犯した罪は分かっている。

悪魔の件は公にされていない。

それでも、罪を犯した自分が教皇職につく事が納得出来ないのだろう。


「僕もそれには賛成ですね。教皇には貴方が最も相応しい」


でもだからこそ、トーリが相応しいと俺は思う。

1度過ちを犯したからこそ、もう2度と間違うことはない。

それに彼は民を何より思っているから、いい主導者になれる。


「ぼく…も、…おもぅ!」


ユーリも俺と同意見のようだ。

何度も首を上下に振り、肯定している。


「しかし……」


「貴方がそれを罪に感じるなら、これからの行動で償えばいいので? もうこのようなことが2度と起きないように、貴方が教会を導けばいい」


トーリがまだ渋い表情を浮かべたので、俺はもう一押しした。

俺としても今後あのようなカイザークを世に送り出さないという意味でも、トーリに引き受けて貰いたい。


「……そうですね、教会は民の信仰の要だ。清廉潔白でなければならない。……決めました。このお話受けようと思います」


「はい、トーリさんなら出来ると思います!」


「ん!」


トーリは教皇職につく決心をしたようだ。

これからは教会に溜まった膿も一掃される。

もうこのような事は2度と起こらない。

貴族や金を持ったものが優先されがちだった回復魔法の治療も、真に民を思うトーリの采配で誰にでも平等に行き渡るようになる筈だ。


俺は穏やかな未来に想いを馳せた。

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