第64話幕間 舞台の裏側で

 

──意識がどんどん沈んでいくのが、自分でも分かる。


今日は様々な事が1度に起きたから、疲れているのだろう。


そのまま流れに身を任せ、深い眠りにつこうとする。




…………あぁ、イヤだ。


中々沈まない意識に、目を見開く。


すると、自身が何処までも白い空間にいる事に気付いた。


直前まで横になっていた、自身の部屋ではない。


「……また、ここか」


思わず溜め息を溢す。


疲れているのにアレ・・に付き合うのは、本当に面倒だ。


「またって、失礼じゃない? 皆私の姿や見たくて、私の言葉が欲しくて、毎日毎日祈っているのに?」


ふいに声が聞こえた。


声のする方を振り向くと、そこには1人の少女がいた。


この空間と同じ、真っ白な少女。


真っ白な長い髪に真珠の様な白い瞳。


肌もどこまでも白く、人間を超えた美を持つ少女。


その姿はどこか神聖で侵しがたい雰囲気を持つ。


だが──


中身はその真逆。


悪辣にて残酷な一面を持つことを、少年はよく知っていた。


「人の夢に干渉するのは止めてくれないかな? 不愉快だ」


少年は一切の表情を浮かべることなく告げた。


「あら、つれないわねぇ。私と貴方の仲じゃない?」


クスクスと少女は笑う。


その表情はどこまでも純粋で無垢だ。


「ふざけるな。何のようだ? さっさと済ませて消えろ」


だが真実を知る少年がそれに騙される事はない。


「何よ? つまらないわねぇ……折角蒔いたも芽吹かずに終わるし、本当に退屈だわ!」


つれない少年の態度に、少女は不満を溢す。


「……種? ……やはり今回の件はお前が仕組んだのか」


少年は鋭い視線を少女に向けた。


予想はしていた。


「本当に、後少しだったのに。信心深い神官が堕ちて、今まで自分が守りたいと思っていたものを壊す様は実に滑稽だと思わない? ……あぁっ、本当に上手くいっていたのに、つまらないわ!」


少女はまるで楽しみに取っておいたケーキの苺を奪われ台無しにされた子供の様に、拗ねた声を上げる。


「相変わらずの下劣ゲス振りだな」


この少女はある意味で純粋だ。


全てはただの暇潰しの様なもので、悪意があるわけではない。


だが、だからこそ残酷なのだ。


ただの暇潰しに多くの人の運命を弄ぶ。


少年はその事をよく知っていた。


「……まぁ、今回はいいわ! ……まだは残っているのだからっ!」


悲劇の中心になる人間に、思い入れや恨み、執着がある訳ではない。


だからすぐに忘れる。


そして新しい玩具で遊び始めるのだ。


けれど──


「……もうこれまで通り、お前の好きにはいかないんじゃないかな?」


少年は思う。


「……………どういう意味かしら?」


少女は笑みを消して、少年を睨み付ける。


「言葉通りだよ。もうお前の筋書き通りには進まない……あの子がいるからね」


初めて会った瞬間から分かっていた。


……急に空間が揺れ始めた、もうすぐ目が覚めるのだろう。


「あの子はきっと全てを変えてくれる……俺のことも」


少年は微笑む。


「きっとあの子が救って殺してくれる」


そう呟くと、少年は白き空間から完全に姿を消した。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆






「馬鹿な子……」


少年の居なくなった空間で、少女は嘲笑う。


その表情には、先程までの純粋さは欠片もない。


「そう簡単に抜け出せる訳がないでしょうっ!」


少女は声を上げて嗤った。


あの少年はまだ自分が救われたいと願っている。


もうとっくに闇に堕ちきっているのに。


その姿はあまりに滑稽で、


愛おしさすら感じる。


「……貴方は私を飽きさせないでね?」


誰も居なくなった空間に、少女の嗤い声が響いた。

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