第63話30話 再生の光

 

「“ゲート”《接続:ルーベンス》」


俺が詠唱すると、扉に魔法陣が浮かび上がった。

この場所とルーベンスを繋ぐ魔法。

この状況を打開する為の魔法を。


「開けて下さい」


俺は扉を開けて貰うように言った。


「おぉっ! これは!!」


一先ず、魔法が正常に発動したことに歓喜の声が上がる。

だが、問題は何処に繋がっているかだ。

あまり距離があいていては、救助に時間を要してしまう。


「確認、お願いします」


俺は近くに待機していた、ルーベンスを訪れたことのある神官に頼んだ。


「はい!」


神官は扉を通り、繋がった別の地点へ足を踏み入れる。


「間違いありません! 少し町外れになりますが、間違いなくルーベンスですっ!!!」


数分後、確認を終えて戻ってきた神官の声が聖堂内に響いた。


「うおおー!!」


「これで多くの人が助かる!!」


「ぼさっとするな! 行くぞ!」


神官の声の後、歓喜の叫び声が聖堂内をこだました。

そして、待機していた魔術師や食糧や薬を持った神官、兵士が一斉に動き出す。


「……よかった」


俺はその様子にふぅと安堵の溜め息を溢した。

当初の予定とは、少しずれたようだが想定の範囲内で済んだ。


……成功してよかった。


魔力も一気に使ったからか、力が抜けてふらつく。

もし失敗に終わっていても、すぐに2度目の空間魔法とはいかなかっただろう。


「お疲れ、リュー。流石だね!」


床に座り込みそうになった時、俺の肩を兄様が後ろから支えてくれた。


「流石に緊張しました。失敗なんてしたらシャレにならないのに、ぶっつけ本番で使うわけですし」


俺はそのまま兄様にもたれかかった。


「ははっ、全然そんな風に見えなかったけどね。リューらしいな! ……そういえば、この魔法は継続時間ってあるのかな?」


「いえ、ほぼ永続的なものですよ。だからこそ固有魔法並みの魔力を消費してしまいましたし。僕今、魔力空っぽです」


だからなのか、怠さが半端ない。

とにかく眠りたくて仕方がない。

立っているのも、少し辛いくらいだ。

魔力を全て使いきるととこうなるんだな、と頭の片隅で思った。


「やっぱり、リューはすごいな! 魔力使いきったのって初めてだっけ? 使いきると倦怠感が凄いから、後は任せて休んでなよ」


「はい、これはキツイですね。ですがまだ休むつもりはないです。僕も手伝いを……」


俺は自身の力で立つと、扉に向かって歩こうとした。


「まだ無理だよ、少し休まないと」


歩き出そうとしたところで、兄様に止められた。


「ですが……」


緊張しているであろうユーリについててあげた方が良いだろうし、指示くらいなら俺にも出来る。

これでも医療知識については、前世で身に付けている。

行って足手纏いと言うことはない筈だ。


「指示とかなら僕が代わりにするよ。ユーリも固有魔法は1回しか使えないからね。ルーベンスにいる患者の状態を確認するまで、出番はないよ。だから少し休んで?」


「…………分かりました……では簡単な指示だけお願いします。病状を5段階で分けて、対応してください。レベル5は固有魔法でしか治療出来ない方を。レベル別に分けてレベル5の方のみをユーリにやって貰えば、効率的に治療出来ると思います。魔導具は上級魔法を込めているので、レベル3、4の人を優先で。レベル2の方は下級の回復魔法で対応出来る方を。レベル1の方は魔法による治療でなく、薬による治療で対応してください。……それでは30分くらい休みます。ユーリが魔法を使うときは、起こしてください。絶対ですよ?」


「ははっ、分かってるよ。確かに治療は分けた方が、効率的だね。指示として伝えておくよ……それじゃあ、僕は行くから少し休んでね?」


俺は指示をお願いして、少し休むことにした。

俺は近くにあった椅子の上で横になる。

すると、すぐに眠気におそわれ、本日2度目の眠りについた。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆







「リュー、リュー起きて」


肩を揺すられ俺は目を覚ます。


「にぃさま? ……っつう!?」


起き上がると頭が割れるように痛んだ。

眠る前に感じていた倦怠感もあまり取れていない。

やはりほんの少し休んだくらいでは、魔力はあまり回復しないらしい。


「大丈夫?」


痛みに顔をしかめた俺を、兄様は心配そうに覗きこむ。


「大丈夫です。ユーリは?」


「今からだよ。リューの言った通りに、病状で分けたから人数は何とかなりそうだよ。11人いて、ギリギリ可能だって」


「そうですか……よかった」


多くいた場合、命の選択をしなければならない。

ユーリにはその選択は厳しい選択になる。

そうならずに済んでよかった。


「うん、そうだね。じゃあ、行こうか?」


「はい」


俺は兄様に手を引かれ、魔法でルーベンスへと繋がった扉を潜る。

扉を通り見えたのは、慌ただしい光景だった。


「これは……」


「かなり酷いよね……最初、僕達が来たときも飢餓状態がすごくて、ろくに動ける人が居なかったよ」


町の中は酷かった。

井戸の中の水は悪臭を放ち、少しばかりはあったであろう田畑も荒廃している。


「こっちだよリュー」


兄様に連れられてやって来たのは、1つの家屋だった。

室内に入ると、床に布団を敷いて老若男女関係なく寝ている人達が見えた。

ここにいる人達は、レベル5の通常の魔法では手遅れな人達だ。

皆皮膚があちこち爛れ、腐り、餓えのせいで枯れ木のように痩けていた。

生きているのが不思議な状態であった。


「りゅぅと!」


部屋の奥にユーリがおり、俺の姿を見つけて声をかけた。


「ユーリ大丈夫?」


ユーリは緊張のせいか、ただでさえ白かった肌が更に白くなって顔色が悪い。

ユーリにかかる何人もの命への責任。

幼子に簡単に背負える筈がない。


「ん、…りゅぅとが…きてくれた…から、だいじょぅ…ぶ!」


「大丈夫、ユーリなら出来るよ。僕達がついてる」


俺はユーリを安心させるように手を握った。

ユーリの手は冷えて震えていたが、段々と熱を取り戻していった。


「…ん、……やる!」


少しの間そうしていると、ユーリは手を離して病に苦しんでいる人達に向き直った。

手をかざして詠唱を始める。


「“われはしんせいにしてきゅうさいしゃ、すべてをいやすもの”


“われはかみにあいされしせいじゃ、すべてをすくうもの”


“いまこのちにしろきひかりをふりそそがん”



“りじぇねれーしょん”」


その詠唱の直後、床に白き光を放つ魔法陣が浮かんだ。

一瞬にして部屋が光に包まれる。


「……発動したのか?」


俺は目を開けて患者を確認するも、治療された気配はない。

まさか失敗かと思った直後、部屋の中央に何かが浮かんでいるのに気付いた。


「……何だコレ?」


思わず言葉が溢れる。


それは頭に角をはやした白い馬だった。

前世に物語に登場したユニコーンに似ている。

ただし小さい。

ぬいぐるみの様な可愛いユニコーンだった。


「ゆに、おねがぃ!」


俺はユーリに聞こうとしたら、ユーリが先に口を開いた。


「きゅーぅっ!!」


ユニコーンはユーリに応えるように声を上げると、角から白い光を辺りに振り撒いた

その光を浴びた患者は、どんどん傷が癒えていく。

痩けていた体がみるみる健康状態まで戻り、腐敗して爛れた箇所も元通りに癒えていた。


「凄いな……」


その様は神聖なものだった……ぬいぐるみみたいなユニコーンがいなければ。

ユニコーンのせいで神聖と言うよりも、ファンシーな感じが拭えない。


「…ありがと! …ばぃ…ばぃ!」


「きゅーぃ!」


治療が終わったのか、ユーリはユニコーンに手を振るとユニコーンはまた魔法陣の中へ帰っていった。


まだまだやるべきことは多くある。

だがこれで大きな問題は解決したと言ってもいい。

ルーベンスは救われるだろう。


でも……

最後がこれってちょっと締まらないかな。

可愛いんだけどね?

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