第42話09話 魔導具店の主

 

俺は兄様に案内され、人通りの少ない場所にある古ぼけた店に来ていた。


「本当にここに魔導具が売っているんですか?」


俺は疑問に思ったことを口にした。


魔導具は高価だ。

正直、案内された店は古く汚い。

看板らしいものも見当たらない。

とてもじゃないが、そんなものが置いてあるようには見えない。


「まぁ、見た目がこんな感じだから、そう思うのも無理ないね。けれど、店主の腕は確かだよ。何せ魔法学園を首席で卒業しながら、王宮からの勧誘を蹴って職人の道を選ぶ程だからね。……まぁ、相当な変人ではあるけれど」


兄様が俺の態度に同意を示しながらも、俺の疑問を否定した。


変人って……兄様も結構へん(ゲフンゲフンッ)

ではないですよね……はい。(今何か寒気がしたんだけど)


兄様にジロリと冷めた笑みを向けられた。


でも首席合格か、すごいな。

王宮から誘いを蹴ったのは、勿体無い気もするけど。


それほどの人物の作るものなら、きっと素晴らしいものに違いない。

俺は期待を胸に店内に足を踏み入れた。


中は外見通り汚かった。

埃や蜘蛛の巣が酷い。

何年も掃除してないようだった。

少なくとも、人間が生活すべき場所ではない。


「ゴホゴホッ、……埃凄いですね」


「そうだね。……リューは基本綺麗な室内で過ごしてきたから、この埃はキツいか」


咳き込む俺の背を兄様が撫でる。

一応温室育ちの俺には、この環境は厳しかったようだ。

あの田舎町で暮らしていた家も、古くはあったが常に清潔に保たれていた。


「あれ? 客か? 珍しい」


声の方に視線を向けると、赤茶のボサボサの髪を後ろで適当に1つにまとめ瓶底メガネをかけた女性が立っていた。


「お久しぶりです、ジョディー。今日は弟を連れてきました」


「ほぉー? こないだ変身メガネを注文したのは、そいつ用だったのか。あんたといい、王子様といい、身分ある方がすることじゃないよ」


ジョディーと呼ばれた女は、頭をかきながら俺をジロジロ見て兄様に言った。

王子様の件については全面的に同意だ。

この汚い室内を見る限り、王族の来る場所ではないだろう。


「で、その子が例の新しい魔眼持ちか?」


唐突にその質問を女は切り出した。

変装メガネを着けたままなのに、女は俺が魔眼持ちだと知っているようだ。


「もうそこまで広まっているんですね。ええ、そうですよ」


「裏では持ちきりだぞ? 何せこの国で10人目だ。他国でも多くて4~5人しかいないしな。しかもあの・・公爵家の人間だ。他国からも諜報員が大量に入ってきている。誘拐目的の者も大勢居るだろう。まだ子供だし、洗脳可能だからな」


ジョディーは当然とばかりに頷くと、今度は非難の目を兄様に向けた。

狙われているのに、ノコノコ外を歩き回るなと言いたいのだろう。

それは兄様やオズ様にも言って欲しい。

秀でた能力を有しているし、その身に流れる血も高貴だ。


俺の場合は、一応魔法は上級魔法を各属性使えるからね。

それに、いざとなったら空間転移すればいい。

簡単にどうこう出来ないだろう。


「僕も魔法はそれなりに使えますし、その為のこの魔導具でしょう? そう簡単に見破るのは流石に困難だと思いますよ。それとも自信ないですか?」


「むっ、私が作ったものだからな! 当然だ! それでも注意するに越したことはないんだ。早目に切り上げとけよ!」


兄様か煽るように言うと、ジョディーはむっとしながらも俺達が此処にいることを認めた。


「えぇ、分かっていますよ」


飄々としている兄様に、ジョディーは説得を諦めて溜め息をついた。


「放置して悪かったな少年。私はジョディー・マルス。魔導具を専門に作っている。これでも子爵家の出だぞ。最も縁は切れているに等しいがな」


ははっと豪快に笑いながら俺に挨拶をする。

先程から思っていたが、とても貴族の出には見えない。

かなり男勝りで、ずぼらな性格のようだ。


「リュート・ウェルザックです。初めまして」


俺も挨拶を返すといきなりメガネを剥ぎ取られた。

魔導具にかかっていた魔法の効果が切れ、その姿が露になる。


「……ほぉ、噂には聞いていたが美しいな。……これは薄汚い貴族共が食い付くのも分かるな」


ジョディーはぐいっと俺の顔を近くで覗き込むと、まじまじと見つめた。


「貴族? 魔眼目当てではなく、ですか?」


ジョディーの言い回しに違和感を覚えた兄様が尋ねる。


「当たり前だろ。この面だぞ。どこぞの変態貴族共が、こぞって狙ってやがる。だから危険だと言っているんだ。狙ってるのは1人2人じゃないしな」


ジョディーはあっさりと答えた。

俺達は驚愕に染まった。

知りたくなかった事実だ。


気持ち悪っ!!

俺は中身はあれでもまだ6歳児だぞ!?

……よし、元々手心を加えるつもりは無かったが、向かってきた誘拐犯は完膚なきまでに叩き潰そう。

そして裏で糸を引く貴族にも、痛い目を見せてやろう!


「……公爵家に楯突くことになるのに、ですか?」


兄様は俺とは違った意味で驚いていたようで、再度追及した。

確かに兄様がそう思うのは尤もだろう。

家は名門であるし、父様は宰相職を賜っている。


「あぁ、危険を犯しても構わないみたいだな。私も聞いた時どこの馬鹿だとは思ったが、今見て納得したよ。これはそれくらい価値がある」


いやいや、兄様やオズ様達には負けるよ。

俺も顔は整っているとは思うよ?

あの両親から生まれたしね。

でも攻略対象者を見てると、そこまでじゃないと思うんだよね。

というか俺が狙われるんなら、ユーリとかもっと狙われてるんじゃ……今度気を付けるように言っておこう。


俺はジョディーに心の中でつっこみを入れた。


「そうですね……リューは天使の様に愛らしいですし。僕も用心しときます。……変態の糞豚共は皆殺しにしないとね(ボソッ)」


兄様は真剣な顔でそう言った。

何か今恐ろしい事が聞こえた気がする。


「……ま、それはもう置いとくとして、今日は何しに来たんだ? こないだ王子と2人で来たばかりだろ?」


置いといていい問題ではないが、これ以上突っ込んでも薮蛇だろう。

懸命な判断だ。


「リューの気分転換と観光案内ですね。リューは屋敷から出たことがないので。魔導具に興味を持っているようなので、ここに連れてきたんですよ」


「ほぉ、魔導具に興味があるのか。魔導具はいいぞ! 魔力さえあれば、誰でも使用できるからな。値段は……まだまだ高いが、いずれ庶民の間にも広まるだろう。そうしたら、もっとこの国は豊かになる。飢えて死ぬものや貧富の差も縮まるだろう!」


ジョディーは目を輝かせて、語りだした。

心から魔導具が好きなのだろう。

熱意に溢れている。


「……そうだ。前から思っていましたけど、この部屋いくらなんでも汚すぎるのでは? リューが咳き込んでしまってたんですけど」


「あ、あー何というか片づけは苦手でなぁ……」


兄様の指摘に自覚があるのか、ジョディーは苦い顔をした。


「それこそ、そういった魔導具を造ればいいのでは?」


俺は思ったことを口にする。

前世では自動で掃除してくれる掃除機もあったしな。


「うーん、作りたいんだが私の適正ではな……。魔導具を作るにはそれぞれの属性の適正とその魔法の行使が必要なんだ。私は光と水、火のトリプルなんだが、他の属性は使えないからなー。作れる魔導具の幅がどうしても狭くなる」


ジョディーは頭を掻きながら、残念そうに言った。


「そうなんですか……」


ちょっと残念だ。

様々なことが魔導具で、出来ると思っていたから。


「いやいや、トリプルってかなり凄いんだよ? しかも高レベルの魔法も使える。魔導具職人になる人だと魔力が少なかったり、使える魔法のレベルが低い人が多い。やっぱり優秀な人だと、どうしても宮廷魔導士や軍に入る人が多いからね。2つ持っていればいい方さ。魔導具は繊細な魔力操作を求められるから、作るのが難しいんだ」


「凄いんですね」


兄様が俺に説明してくれた。

そういえば適正は1つにあれば、いい方なんだっけ。

周囲にチートな人が多すぎて、すっかり忘れていた。


「うん、トリプルなら組合せもきくから、魔導具の種類も十分多彩なんだよ」


「……僕も作ってみたいな」


俺は思わずそう呟いていた。

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