第41話08話 デートではありません、散策です

 

俺は部屋を訪ねてきた兄様を、部屋に招き入れると椅子に浅く腰掛けた。


「どうかなさったんですか?」


どうかしたのだろうかと、俺は兄様に尋ねた。


「あぁ、リューは王都にいるのに街に出たことがないよね? 一緒に行かないかと思ってね」


「本当ですか!? 僕、今までほとんど外に出たことがないので、行ってみたいです! あっ、でも出られるんですか? 僕は狙われるから、余り外に出ない方がいいと父様が……」


俺は兄様の提案に食い気味に聞き返した。

兄様の申し出は大変有難い。

今すぐにでも飛び付きたい位だが、警護や安全面で考えると余り両親に心配をかけたくない。

この前の本邸への転移の件でも、結局心配をかけてしまった。

実現は難しいだろう。


「リューの容姿は目立つからね」


「はい……」


少ししゅんとしてしまった。

髪色といい、瞳の色といい目立つ要素しかない。


「ふふっ、でも大丈夫。そんなこともあろうかとこんなものを用意してみたよ」


兄様が背後から何か取り出す。

驚かせようとする姿が少し子供っぽく見えた。


「何ですか……それ?」


現れたのはメガネだった。

デザイン自体はごく普通のものだが、魔力を少し感じる。

俺は首をかしげた。


「これはね。魔導具だよ。姿を別人に見せる、ね。ただ常に魔力を使うことになるから、数時間が限度だけどね」


「すごい! こんなものもあるんですね!!」


変装道具だったとは驚きだ。

生活に根差したものなら、屋敷の中では見た事があるがこういった物は見た事がなかった。

それだけに、興味津々だ。


「一部の高位貴族だと持っている人が多いね。ただ魔力が少ないとすぐにガス欠するから、大半の人には無意味なんだよ。それに高価なものだしね」


「へーぇ、そうなんですか」


俺は光に翳してみたり、角度を変えてみたりしながら兄様から貰ったメガネを観察した。


「因みにオズも持っているよ? たまに2人で遊びに街に下りるんだ。リューなら魔力も僕達より多いみたいだし、長時間使用できるよ」


「王太子なのにですかっ!?」


兄様の発言に驚く。

王太子なのにいいのか、オズ様。

オズ様は俺が考えているより、やんちゃなのかも知れない。


「うん、だからリューも少し位なら、外に出ても大丈夫じゃないかな? それにリューの事は、僕が守るしね」


兄様が片目を閉じて、俺に言った。

その姿は頼もしく、また見るものを魅了する笑顔だった。

俺はときめいたりしないが、ここに誕生日パーティーに居た令嬢達が居たなら一目で虜になっていたに違いない。


「はいっ! お願いします‼」


俺は兄様の提案にすぐに頷いた。

この体になってからか、好奇心が人一倍強くなった気がする。



こうして俺は兄様に連れられ、初の王都散策に出掛けたのである。








◆◆◆◆◆◆◆◆◆







「うわー! すごい賑わっていますね!」


王都の街は以前住んでいた田舎町とは比べ物にならない程大きく、また人の数も段違いだった。

街は活気に溢れ、様々な商品が店先に並ぶ。

あの町がいかに田舎だったのかがよく分かる。


俺はキョロキョロと落ちつきなく見ては、目を輝かせる。


「ははっ、気に入ってくれたようだね!」


クスクスと兄様が俺を見て笑う。


「はいっ! 見たことないものがたくさんあって困ります!!」


因みにメガネをかけた俺と兄様は、平民に多い茶髪茶目の平凡な容姿に人からは見られている。

変装時の姿は予め決まっているらしい。

誰も俺達に気にかけることなく、大通りを歩いた。


「ここまで喜んでくれたのなら、誘ったかいがあったな。リューは何が見たい? 僕が案内するよ」


「では魔導具が見たいです!」


兄様の提案に、俺はすぐさま希望を言った。

こんな機会早々ないのだから、是非行ってみたい。


魔導具。

このメガネもそうだか、とても興味深い。

他にはどのような物があるのだろう?


「即答だね。この変装用の魔導具が気に入ったのかな? よしっ、じゃあ腕の良い魔導具店に案内するよ。行くよ?」


兄様のが俺に手を差し出す。

俺はその手を取って、2人で人ごみの中を迷わないよう歩き出す。


その姿は魔導具のせいか、誰がどう見てもとても仲の良い兄弟の姿にしか見えなかった。

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