第30話20話 誕生パーティー ①~幕開け~

 

とうとうパーティー当日の日を迎えた。

マナーや覚えておくべき知識は完璧に身につけた。

何も問題ない。


……まぁ途中色々あったが、女装とか女装とか女装とか。

が、しかし本番では何とかドレスを逃れて、今日は青を基調とした服を着ている(勿論、ズボンだ)


このパーティーで父様は母様のことも俺と一緒に紹介するつもりらしく、今日のパートナーとして母様を連れている。

これでクリスティーナが、来ないかと言えばそうではない。

婚約者リリスの母親として招待が来てるので、別の男と来ているらしい。

これには流石の俺も引いた。

外でやるならまだしも、公式の場でやるのはさすがに醜聞になる。

実際、陰では毒婦と呼ばれているらしい。


シュトロベルン公爵家は何も言わないのか?

クリスティーナの行動が、家に利益をもたらすとは思えない。


しかし、それがシュトロベルンの力の強さを表しているのかもしれない。

貴族は醜聞を嫌う。

そんな中でこれだけの事を、堂々と出来るのだ。

いかに権力ちからを保持しているのかが分かる。


「リュー君、緊張してる?」


母様が俺の顔を覗きこんだ。

そう聞いた母様もどことなく普段より、緊張しているように思える。


「大丈夫ですよ、母様」


俺は笑顔で返す。

俺が気をとられていては、母様まで気を使ってしまう。

それに前世では、幾つも修羅場は潜ってきた。

このくらいわけない。


「入るぞ」


父様の声と共に、扉が開く。

中に入るとともに、注目を浴びる。

此方を見ながら、ひそひそと喋る声が聞こえてきた。


「あれが噂の……」


「後継ぎはどうするのかしら?」


「勿論、シュトロベルン公爵家の血を引くレイアス様でしょう?」


「でもウェルザック公爵家の血を引いてないだろう……」


「王子の誕生パーティーで、妾を連れてくるなんて……」


口々に囁かれた内容は、好奇の目から悪意に満ちたものまで様々だった。

やはり、ある程度自前に情報は回っていたようだ。

俺は悪意ある者の顔はしっかり覚えつつ、素知らぬ顔をして父様達の後ろをついて行った。

父様達の向かう先、大勢の人達が集まる場所の中心には見覚えのある金髪の美丈夫がいた。

先日会った時のまま、王者のオーラを纏っている。


「来たか、ヴィンセント!」


王様が俺達に気付いて、手をあげて俺達を迎えた。

周囲の人達が一歩下がり、王様までの道が開けた。


「陛下……公式の場ですよ」


父様が王様の砕けすぎた態度に眉をしかめる。


「堅いな、ウェルザック公爵は」


ははっと、王様は笑って返した。

注意されても直す気はないらしい。


「お? リュートは今日ドレスじゃないのか?」


王様は俺の姿を見付けると、そんな爆弾発言を投下した。


なっ何て事を言うんだ!!

母様が本気にしたらどうするんだ!?

ただでさえ今日まで散々……


「リュートをからかわないでください。流石に公式の場では着させませんよ」


俺が衝撃を受けている間に父様がキッパリ否定した。

俺は父様の心強い言葉に、ほっと息を吐く。

父様が常識を持っていて、俺は一安心だ。


「フィーリアが残念がるな……」


王様は残念そうに呟いた。

本当に残念そうだから、笑えないところだ。


いやいや、嫌だよ。

息子いるんだから、自分の息子に頼んでよ。


「──これはこれは陛下とウェルザック公爵ではないですか。ご機嫌麗しゅう?」


父様達の会話に唐突に割り込んで来たのは、白髪混じりの金髪に黒い目の壮年の男だった。

王族と公爵の話に割って入るのだ。

かなり身分の高い者だろう。


「シュトロベルン公爵……」


「公爵本人が参加するとは珍しいな?」


男の正体は俺やウェルザックにとっては因縁の相手。

リリスやクリスティーナの祖父であり、父である男。


シュトロベルン……こいつがそうか。


「当然ですよ。我が国の王子の誕生パーティーなのですから……それにウェルザック公爵がお子を迎えたと小耳に挟みましてね。次期公爵となる方ですからね、ご挨拶をと」


シュナイザ・シュトロベルン、こいつが全ての元凶にしてこの国の腐敗の象徴。

シュトロベルンが権力ちからを持つのは、財力や広大な領地を持っている事だけが理由ではない。

シュナイザの黒い濁ったような目には、俺と同じように魔法陣が浮かんでいる。

つまり、この男も魔眼持ちということだ。

魔眼持ちは強力な力を持つと共に、今や希少な存在だ。

だからこそ、国もシュトロベルンの横暴に強く対応出来ない。


「我が娘を置いて妻子に迎えた程だ。皆も先程から気になっておりますよ? ねぇ、皆さま方?」


口角を歪ませ、シュナイザは他の貴族達に目を向け言った。

この行動には悪意がある。

父様はシュナイザの周囲を巻き込むやり方に、更に眉をしかめた。

俺は父様達の背後から、前へ出た。


「初めてまして、シュトロベルン公爵。私はウェルザック公爵家の第3子、リュート・ウェルザックです」


兄様やリリスがいるので、俺はウェルザックにとって3番目の子供だ。

名乗り出た瞬間、周囲からざわめきが起こった。


「美しい……」


「あの銀髪……養子との噂だったが、実子であったか!」


「オッドアイとは……初めて見るな」


「何て綺麗なんだ!!」


周囲からは口々にその様なことが囁かれている。

俺の容姿から父様の血を引いてるのは一目瞭然だ。

先程まで、飄々としていたシュナイザの顔も驚愕に変わった。

隠していた事もあり、俺が魔眼持ちだという情報は掴んでいなかったらしい。


「っ!! 魔眼持ちだとっ!?」


シュナイザの叫び声に周囲のざわめきは更に増し、辺りは騒然とした。


「あぁ、そうだ。リュート・ウェルザックはこの国の新たな魔眼持ちだ」


王様は集まった貴族達にそう宣言した。

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