第29話19話 父様は偉大

 

あの後、兄様に送られ俺は母様のいる離れにに戻った。

母様は俺が急に居なくなったので心配していたが、本邸に居たとは言わなかった。

決意を固めたものの、俺はどこか鬱々としていた。

いや、焦っているといってもいい。

今この時、あのメイド達は命を落としていたとしても不思議ではないのだ。





その晩のことだ。


「リュート、本邸のメイドの配置替えを行った。リリスに付いていた者をレイアス付きに配置した。リリスには壮年の優秀な者をつけた。これで暫くは大人しくなるだろう」


夕食の席で、父様は俺に唐突に言った。


「!!」


俺は驚きのあまり、父様を凝視する。

本邸に行った事はまだ母様達には話していない。


「レイアスから報告があった。心配していたぞ? ……シュトロベルンの管轄とはいえ、レイアスはその血をひいている。問題は無いだろう。ただ……リリスはその内また癇癪を起こして、新しく付けたものに当たり散らすかもしれないが」


父様は眉間に皺を寄せていた。

父様にとっても頭を悩ませている問題なのだ。


「……これは、私が不甲斐ないばかりに起こっていることだ。お前が気に病む必要はない」


「しかし……」


皆、俺の責任ではないというが、俺は助けたい。

兄様にもそう約束した。


「……私や陛下も、シュトロベルンについては長年動いている。魔眼持ちたるお前の力を借りることも来るかも知れない。その時は手助けを頼んでもいいか?」


父様は俺の為に内密に進めてたであろう事を明かした。


父様は俺に気を使ってくれたのだろう。

俺が気に病まないように。

多分、本当は俺を巻き込む気などないのだ。

その優しさが、少し嬉しく感じる。


「……もちろんです」


俺は必ず誓いを果す。

もう傍観者でいるつもりはない。

力が足りないのなら、力をつければいい。


「ふっ、良かった。少しは元気が出たようで」


父様は俺に笑いかけ、抱き上げた。


「ありがとうございます、父様」


そう言って、俺も抱きしめかえした。


俺は無力だ。

だから、今の俺に出来る事をする。

さしあたっては、魔法の修練と王子の誕生パーティーだ。

いざという時、人脈はあった方がいい。

将来、必ず役に立つ。



そうして俺は1ヶ月勉学に勤しみ、とうとうその日を迎える事になった。

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