第21話以仁王、成長した安徳天皇と喧嘩
翌朝、例のキツネ顔の女が
説明したところによると、
王が今いる場所は女が所有する邸宅の一室であった。
昨日の2人組も別の棟に住んでいるという。
「いいですか、これから先は今までの人生と
まったく違った生き方をすることになりますよ。
名前も変えて、自分が昔の時代からきたなどと
秘密をもらさないでくださいね。」
と女に言われたが、
「800年以上前の時代からやってきたなんて言っても、
誰も信じるわけないじゃないか。
昨日の悪ガキみたいな奴にいじめられるだけだろうよ。」
と以仁王は心の中でツッコミを入れていた。
女が出て行ってしばらくすると、以仁王は食堂に行った。途端に
「おっはよう。もっちー。」
と甥だという少年に声をかけられた以仁王は仰天した。
「ぶ、無礼な!変なあだ名をつけおって。」
「じゃあ、以仁王さん。」
「まろの本名を気安く呼ぶな!呪われたらどうしてくれるのだ。」
と哀れな以仁王が顔色を変えると、少年は
「ふふふ。大丈夫、怨霊なんて迷信だってば。
今の時代は相手の本当の名前を呼ぶのだって、普通のことだよ。」
とさらりとかわした。平安時代に身分の高い人は
呪詛を避けるため、家族間でも本名で呼ぶことは避けられていたという。
「ではそなたの名を名乗れ。昨日そなたはまろの甥だといわれたが
誰だか見当もつかぬ。」
と以仁王が少年に反撃した。
「俺の忌み名は
と少年が言ったが以仁王はしばしの間思案しても
該当する人物が誰だか思い出せなかった。
「お手上げだ!わからぬ!
大体、まろの方が身分が高いのになぜこのような
無礼な振る舞いをするのじゃ。」
「何言ってるの、俺は一度は即位した身の上だから
俺の方が格上だぜ。ちなみに俺の外祖父は平清盛。」
と少年はにやりと笑った。その答えを聞いた以仁王の
顔から血の気が引いた。
「な、なんだと!そなたが平家の血を引く幼帝だったとは!
しかしまろが都を去ったとき、帝はまだ幼子だった。
でたらめを申すでない!」
と以仁王が叫ぶと、生意気な少年はにやりと笑って
「おれはもっちーよりも10年先に、満6歳でここにきたのだ。
おれの方が年下でも、ここでは先輩なので以後お忘れなきよう。」
と言ったので以仁王は頭が混乱した。
「信じられない!まろがあれほど望んでも手に入れられなかった
帝の位に上った者がなぜ800年も後の時代にやってきたのだ。」
今まで目の前の少年が平家の血を引く異母弟(高倉天皇)の子であることに
思いいたらなかったことを以仁王はのろった。
(以仁王が挙兵した時点で安徳天皇の父、高倉上皇は生存していたので
以仁王は高倉院というおくり名を知る由もない)
後からタイムスリップした者が先に到着しているのは
一見変なように思われるが、
800年もの時の流れを超えるのだから人によって
来る時期に多少のずれが生じるのは致し方ないことである。
「なぜまろは平家方の者ばかりに囲まれているのだ!
これは罠に違いない!」
「まあまあ、落ち着いてください。
この時代に我々がきたいきさつは後で話しますから。
ところで宮様はこれから先、何て名乗ることにしたのですか4。」
といつの間にか入ってきた
「
と以仁王が答えると、維盛と少年は腹を抱えて爆笑した。
「ぎゃははは、うける。もっとましな名前は考え付かなかったの。」
と少年が涙まで流して笑い転げているわきで
「もちまろなんてなんだか、おもちみたいじゃない。」
と維盛もこらえきれず笑い転げていた。
「もういやだ!死んでも元の時代に帰ってやる!」
と叫ぶと、以仁王は部屋を飛び出し、姿を消してしまった。
「反応がおもしろいなあ。いじめてやる甲斐があるわ。」
とかわいらしい顔に邪悪な微笑みを浮かべて安徳天皇はつぶやいた。
「
あの
わが一門を滅ぼされた恨みはぜひとも復讐せねばならん。」
と美しい顔をゆがめて維盛がニヤリと笑った。
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