第7話式子の物思い
うたた寝をしていた式子はさっきまで見ていた夢のことを
思い出して一人赤面していた。
「いやだわ。わたしったら。男の人に背負われて
駆け落ちする夢を見るなんて。
まさか正夢になったりするんじゃないでしょうね。」
とはいいながら、男に熱い思いを寄せられて
まんざらでもない自分が恥ずかしかった。
「今まで文を送ってきた色好みの貴公子たちより
身分が低いようだったけど、どこか心惹かれるところがあったわ。」
と思ったが夢の中とはいえ前斎院でありながら異性に関心をもつ
自分に危機感を覚えていた。しかしそれでも考えることをやめられなかった。
今まで式子は夢をはっきり覚えていることは少なかったのに、今回は男に
かつぎこまれたあばら家の様子や夢に出てきた男の顔まで鮮明に覚えていた。
「あれは誰だったのかしら。今まで見たことも会ったこともない人だわ。
もっともわたしが顔を見たことがあるのは
お父様や叔父様やお兄様くらいしかいないけど。」
式子は琴を弾き始めたが心が乱れて演奏に集中することができず、
何回か音を間違えてしまった。
「それにこのあいだの晩の恐ろしい出来事は何だったのかしら。」
と見知らぬ男が押し入ってきた晩のことを思い出して身震いした。
「助けてくれたなぞの犬は幻のように消えてしまったのに、犬が書いた
手紙はちゃんと残っていた。おそらく犬も魔物の類だろうけど、
善をなす魔物なのね。」
と考えながらも、琴を奏でる手を休めなかった。
ようやく演奏に没頭し始めたころ、取次の女房が現れて、
「姫様(式子)のせうと(女性から見た男兄弟)であらせられる
宮さまがいらっしゃいました。」
と告げたので式子ははっと我に帰った。
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