第2話定家少年の恋煩い

 その後ほどなくして、式子内親王しょくしないしんのう賀茂斎院かものさいいんを病により退下たいげされ、

母や姉妹たちのもとにお帰りになられたと定家は人づてに聞いた。

「もう祭で遠巻きにお姿を見ることさえできないのか」

 気分が沈んだ定家少年は和歌の技術を磨くことさえ

億劫おっくうになってしまい、父の俊成はそんな息子を苦々しく思っていた。

 ある日、俊成は定家にこういった。

「おい、いい知らせだ。前斎院さきのさいいんさま(式子内親王のこと)

 から和歌の手ほどきをしてくれとわしに依頼があったぞ。」

  色が黒く、田舎臭くてさえない顔立ちの定家少年の顔はぱっと輝いた。

「わたしも連れて行ってくれませぬか」

「だめじゃ。お前はまだ年端もいかない子供にすぎぬ。

 連れて行っても足手まといになるだけじゃ。」

と言下にはねつけられ、定家少年はがっくりとうなだれた。

「だれやらに恋をしているとは思っていたがこれほど高貴なお方とは。」

と父親は心配するやらあきれるやらだった。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る