第2話 人形の街

私は……

私には、生まれつき片足がないの、何処へいってしまったのだろうか。

私は皆と違う、仲間外れなの。

私は皆と一緒がいい。


ねぇ、ママ

私のもう一本の足は何処?

ねぇ、ママ

どうして私には一本しかないの?


母は悲しそうだった。

ごめんね……ごめんね、と謝る、私は責めてるわけではない…

ただ何処へ行ったのか聞きたかった、知りたいだけだった。

おもちゃを作るお仕事をしていた両親は私の為にと色んな物を作ってくれた。

まるで、物語に出てくるお姫様のように自分にあった足を探し作る毎日、父はようやくできたと足の代わりになる義足を私の足にベルトで固定する。

自分の力で立ち上がり、ふらつきながらも私は一歩、また一歩と歩き出す、始めに比べれば全然痛くない。

不自然に歩くこともなく、壊れもしない、私にぴったりな素敵な義足。


パパが壊れた私の足を直してくれたのだ。

壊れたり言うことの聞かないおもちゃはしっかりとパパが直してくれる。


私は普通の子のように歩けるようになったんだ。

両親は喜び、私を抱きしめる、苦しいくらい抱きしめられその暖かい両親の腕の中私は二人に感謝した。

嬉しくて嬉しくてしょうがなかった。

家の中に閉じ籠らなくていい、他の子のように歩けるのだから私は何処でも好きなように行ける、ある日の朝、目を覚まし隣に置いていた、よく見ると薔薇の模様が描かれた白い義足を自らはめベルトできつく固定する。

走るのはまだ慣れないが、階段を一人で登り降りできるようになり真っ先に母の腰にすがる。

長い私の髪をブラシで整え可愛く着飾ってくれた、本当に本物のお人形さんのようだ。


ただ届けるだけ……そしたら……そしたら、ね。


お仕事の手伝いをした。

父に頼まれ、3つ近所に届ける、簡単なお使いだった。

一つはお隣のおばあさんの家に、修理の終わった小さな古い時計

二つ目はお花屋さんに音の出る鳥のからくり人形

そして最後は、誕生日を迎える少女におもちゃの入ったプレゼントを届けるだけ……それだけだった。


どれも大変だけれども大好きな両親の為に私は名前の書いてあるメモを握りしめ、一件一件家に荷物を届ける、まず最初はおばあさんの家に届けた、嬉しそうにおばあさんは私の頭を撫でる。

嬉しくて私は笑顔のまま、お花屋さんに荷物を届けると早速音がなるかどうかを確かめていた。


「ありがとう」


感謝の声が聞こえた。

私に向けて両親への感謝の言葉を述べる、私の心は嬉しさでいっぱいになった、急いで家に最後のプレゼントを取りに戻る。


『ママ!お花屋のお兄さんがありがとうって言ってたわ!

すっごく嬉しがっていたの!』


あった出来事をすぐに母に報告した、母は微笑み私の頭を撫で最後までお仕事がんばってね、と言われる、私は大きく頷いてプレゼントを持って外へ駆け出す、帰ってきたらたくさん褒めてもらうんだ。

大好きな両親に褒めて貰って明日もたくさんお手伝いするのだと胸を膨らませ最後の家を訪ねた。


チャイムを鳴らす……だが返事はない。

もう一度、留守なのだろうか、時間通りに来たはずなのに、可笑しいノックをしてみよう。

二度三度してみたがやはり返事はない、ドアノブに手をかけると不用心にも程がある、鍵のかけられていない部屋の中へ入る。

やけに暗くなった部屋から、物音が聞こえる。


『何かしら……』


靴の泥を落とし廊下を歩き誰かいないか呼び掛けるが返事はない、暗いカーテンの閉じたキッチンを覗くが誰もいない、階段を登ろうとすると、奥から人影が見え急に怖くなってその場から逃げ去った。

プレゼントを抱えたまま外に飛び出す、先程まで賑わっていた街がやけに静かに思えた……

荒くなった息を整えながら届けられなかったプレゼントをどうしたらいいだろう、また時間をずらし会いに行こう。

ひとまず、家に戻る、玄関を開き最後までできなかった事に少しため息をついた。

家に流れていたはずのオルゴールは壊れ酷い雑音が響いていた。


『パパ…?ママ?』


両親は何処へ行った。

部屋の中はぐちゃぐちゃに荒らされ作りかけのおもちゃは壊されていた。


あれ……変わっていない、それとも変わってる……


私はわからない恐怖に怯え震えながら歩き出す、私の部屋へと続く階段を覗くとそこには変わり果てた母の姿があった、私は声にならない声で叫ぶ、でも母はもう息をしていなかった。

母の目は、涙がでないように接着剤の白いあとがついている。


前も……見た。

私は見た……確かにこの光景を……この様子を母を……


すると上から大きな音がする、ズルズルと落ちてきたそれは父だった、私と同じ銀色に染まる髪は赤黒く染まり、とっさに父を呼ぶと、父はまだ意識があるようだった。

父の口には糸が縫い付けられているようだ、それはまるでぬいぐるみのように雑に縫い付けられていた。


『……エマッ……なんっ』


途切れ途切れの言葉が消える、赤く染まった冷たい父の手が頬に触れる、何が起きたのか理解できないだってさっきまで二人は笑顔だった、さっきまで幸せだった。

私が出掛けた瞬間に何があったの……

わからないわからないどうしてこんなことに……


……ずっとずっと幸せだったの……うん、ずっと幸せだったの。

ずっとずっと幸せだったの。

もしも、お手伝いを最後までできたら…ね、たくさんたくさんたくさん、ね、褒めてもらうはずだった……の。


震えた声で私の名を呼ぶ父は、階段から私を突き落とす、床に尻餅をつく。

叫ぶがもう返事はない、誰かに助けを求めなければ……でも走れない、私には走れる足など最初っからないのだから……

私は……もう……。

力が抜け床に座り込む、ベルトがきつく締まり痛みがあった、夢から覚めたような感覚に目を擦る。


…どうしてこうなったのだろう…。


幼い私には理解できなかった。

先程まで綺麗に母が着飾ってくれたはずの髪の毛や服は汚れ髪がばらつき無惨に切られた跡がある。

心と体がついていけない、どうなったのか何一つ理解できない、どんなに考えても答えはでない。

唐突に奪われた両親ぐちゃぐちゃにされた最後のお仕事だったプレゼントを眺め私は涙を流すことしかできなかった。


ヒドイ……酷い、悪い子……悪い……

あぁ、壊れちゃってる見たい。

外れた私の足のように、壊れちゃってるね……あぁここにパパがいてくれたらあの人達の悪い所を直してくれるのに……

ママも……私の足みたいに壊れちゃったのかな……


私が直してあげないと……。


誰かが新聞の記事を呼び上げる、ある小さな街が一夜にして焼け焦げたらしい。

真っ黒に焼け焦げた原因不明の火事負傷者多数死人も絶えなかった。

恐ろしく悲しい悲劇。


焼け焦げた家の中で…ママがいつまでもいつまでもいつまでも泣くから無かないように目に接着剤を着けたの。

木のおもちゃをくっつけるように……

パパが辛そうだったから…足を作ってくれたのは嬉しかった、とてもとても嬉しかった。

だけど、私を見ると辛そうに笑うからもう無理して笑わないように口を縫ってあげたの…。

まるで、ぬいぐるみを縫い合わせるように、パパのお人形を直すときや作るときの指が大好きだった……。

苦しくないように……眠れるように枕で顔を覆って動かなくなったからそうやって二人を静かに眠らせてあげたの…。

でも、縫っている途中でパパは起きちゃった、初めて殴られた痛かった殴られた頬がじんじんと痛む、大好きだった手には仕事道具の鋏の刃が私を襲う。


やめて、やめて……!パパ、私!私…!


二人の悪いところを直してあけだの。


私は……私のしたことは、駄目な事?

私……何をしたの……。


ごめんなさい、ごめんなさい、私パパを……ママを……


パパのお気に入りのオルゴールの箱が床に落ちる、酷い音をたてネジのいくつかが床に散らばる、綺麗な音は歪んだ醜い音を奏でる。

逃げ惑う私を父は乱暴に扱う、何度も名を呼び振り向くと怖い目で私を睨んだ手に持っていた鋏は何処……。

怖い怖くて私はオルゴールで父の頭を殴り付ける。

角で何度も何度も……何度も。

倒れた父の手には何も持ってはいなかった……私は勘違いした。



『……エマっ……っ” なん……なんでっ……』


そう……はっきりと父はそう言った……銀色を赤黒く色づけ私は父を……両親を殺したんだ。

私は殺すきなんてなかった……ただ両親を両親の辛いところを取り除きたかった。

直してあげたかった。


それだけなの。


醜いオルゴールの音色が私を包む。

全部思い出した……あの笑顔もこの景色も一体なんど自分の中で繰り返したのだろうか。


ぐちゃぐちゃになったプレゼントを抱え私は玄関まで足を運ぶ緩くなったベルトを止め直す事すら忘れ扉を開く。


『パパ……ママ、私……最後のお手伝い…行ってくるね…。』


私は歩き出す、誰もいない、寂しい昔賑やかだった寂しい寂しい冷たい街を……焼け落ちた惨害を踏み潰しながら……何処かで泣き声が聞こえる……。


夢に囚われた哀れな街……夢を見た私……。

夢であってほしい事件に最愛の物を私は、自ら捨てた。

捨てのではなくただ直してあげたかった、悲しみを取り除いてあげたかった。


それだけ


夢から覚めては何度も同じ夢……そして同じ結末。


ここは何処なのだろう。

もうわからないところで来てしまった。


あぁ、もう帰らなくきゃ


お日さまが沈むあの夢を見ないように家に戻ろう。


私はまた歩き出す、寂しくない。

ぐちゃぐちゃになったプレゼントを抱え私は前に進むと何かに足を取られる、よく見ると赤黒い泥が白い義足に染み付いていた、いくら拭おうが落ちることはない、しゃがみこみ足についた泥を拭っていると誰かが声をかけた。

前を向くと黒い髪なのに一部が白い私よりも年上な男の人が手を差し出してくれた。


『君、ここで何してるの?』


お兄さんは、私を心配してくれているようだ、でもお兄さんの紙の色がやけに気になった、すぐにそれはどうしたのっと聞き返す、壊れているなら私が直してあげると言うとお兄さんは驚いた顔を見せ生まれつきなのだと言う。

壊れていないから問題ないと笑っていた、なんだ……それならよかった、前に会った悪い人達みたいに壊れてないのね、よかった本当に、その必要がないのなら……

彼はまるで私のようだ。

他の子と少し違う……

立ち上がりお兄さんの手を握る。


『私……エマって言うの。

迷子になっちゃったみたい……でもどうしてか覚えてないの…』

『……そうかい、それは困ったね、家…何処かもわからない?』

『えぇ、わからないの。』


真剣に悩んでいるような顔つきに私は握っていた手を繋ぎ直す。


『あ、そうだ、もしよかったら家にくる?

思い出せるまで家にいるといいよ。』


怪我をしているからかそれとも私が汚れてしまっているせいかお兄さんはそう言ってくれた……行き場のない私を引き取ってくれるようだ。

優しい人……。

でも、わたしより怪我が多いように見える、まぁ、それもいい、本人が問題ないのなら……


『ねぇ、お兄さん、お兄さんのお名前は?』

『僕?あぁ、僕の名前はね。』


緩くなって抜け落ち思わず地面に倒れる手を引いていてくれたから、そんなに痛みはない、お兄さんは私の義足を手に取り暖かい手で父の時のようにベルトで足を固定してくれた。

物語の王子さまのように跪き、手を取り言いかけた言葉を私には聞かせる。


『僕は、アベルって言うんだ。』


アベル何処かで聞いたようなフレーズに私は笑って立ち上がる。


『素敵なお名前ね。』


***


死因はなんでしょう。

僕より大人な人達はいくつもの議論を述べる。

こんなもの見ただけで多少は理解できる、大人達の議論中、僕は先陣切って告げる。


『先程まで生きていた形跡あり……

泡を吹き痛みにもがいた跡もある……随分と苦しんだ状態みたいだね。』


生きたまま腕を強引に引き裂かれ、中に綿が詰められている、下手くそに糸で縫われ、足も無惨に同じ事をされている……。

この殺し方には無邪気にも、残忍さが見える。

でも、これは今も続く棺毒殺とはまた違う、人物像を感じる、幼さがある。

これもハズレ……

僕が探しているものはここにもなかった。


『無駄……また違うか。』


警察の若い誰かがあくびをする僕に訪ねてきた。

貴方は何を探しているのか、一体若くしてどうして探偵を続けると……そうだね。

まず、祖父譲りの知りたいものはとことん追求したいタイプなんだ、あとはね……どうしても知りたいんだ。


『…遺体さ、若い女の……

随分と古いからもうきっと白骨しているだろうけどね。』


ゾッと顔を青ざめ青年は僕をその場に残した。

死臭と共に人殺しをする人達……この事件の犯人らはなんの目的があるのだろうか。

まだわからない、見つけようがその人達の事は別にどうだっていい。

だけど、あの遺体は……今何処にあるのだろう。

睡魔に襲われながらも、目を擦りその場をあとにし、教会を目指した。




ーENDー


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