百合の花が咲く頃に……

雨音

第1話

一人は寂しいなのに死ぬときは絶対一人。

集団でも生きていても死ぬとしても一人生き残ってしまう。


僕には三つ下の弟がいる名前は「アベル」彼とは最初の孤児院の施設で別々に生き別れた、それからはというもの僕はいつだって一人だった。

だって……

弟と別れてからいた孤児院の施設は、誰かが施設に火を放ち放火による事故だった、先生も友人も何もかもを失い、軽い火傷程度でただ一人僕だけが生き残った。

次は、その先の一時保護施設、通り魔により数人刺し殺され一番近くにいたのに僕だけがまた生き残っていた。

その次もその次も僕が死ぬことはありませんでした。

そして、遠くの街の教会に引き取られ何事もなく普通で最高につまらない時間を過ごしました。

一四の頃首吊りをしました、けれど柱が壊れ失敗しました、繰り返し橋から池に飛び降りました、足の骨のヒビ程度で済みました、やはり死ねません。

忘れる程試したが僕が死ぬことはありませんでした……

いつもいつもいつも助かってしまう、未遂に終わり苦しいだけ痛みも感じない……。

あぁ、弟はどうなっただろう……。

死ぬことは許されないのでしょうか、嗚呼会いたい。

僕は毎日教会の神様に訪ね祈りました、どうして僕は死ねないのでしょうか、死ぬこと以外に僕には何かやらなくてはいけない事でもあるのでしょうか。


死ぬために一体何を……


ある日、教会に共に住んでいた知人が泣きながら僕に死にたいとすがり付いた。

理由はわからないが死にたいと思う気持ちは同じだ、醜い手を握り返し喜んで僕は彼女の望むがまま首を締め上げた。

始めは苦しんでいたけれど、彼女は笑って僕を見たその時の表情があまりにも幸せそうに見え、心から涙が流れ落ちる。

神に許された奇跡の産物に自分が立ち会えたことに歓喜に満ちた。

皆にもこの喜びを教えてあげたい……。

頬を濡らした涙が流れ彼女の頬にポタリと落ちる、目を塞ぎ丁重に扱い教会の真ん前にある棺のような箱に埋葬した、この素晴らしい遺体を火葬するなんて僕にはできず、近くに咲く百合の花を敷き詰めた。

我が主の目の前に遺体があるなんてわかるはずもなく誰も彼女の行方を訪ねる者もおらず、その薄情さに人間の穢れを感じる。

僕はそれを眺めるのが日課になり、徐々に変わり果てる彼女の姿にふと一人きりは可哀想だと思った、アベルと離れ僕も寂しい時間を過ごしていた、だから……だから僕は死ぬことが許されていないので、他の誰かを探しに行きました。

けれど、どこにも誰も死を許されてはいないようだった。

だって、手についた血も顔や服に飛び付き染み込んだその色は決して美しいとは言えずただのゴミの固まりとしか思えない……あの時のような美しさは微塵も感じない。


やがて、月日は流れやたら背と髪だけが伸びた切ってもいいが最近厄介な事が増えた。

警察がここ最近徘徊していて彼女の友人を探すことが困難となってきた。

殺し方は誰にでもできる簡単な殺し方だ、でも使っている道具が悪いのか探偵やら共が勝手な想像で推理ショーを披露する、野次馬に混ざりそれを聞いていた。

女性一人ではとても犯行するには難しい、一人で持てるとは大抵思えない程に重い機械、破損が酷いためこれ以上の調べは困難と話す、なんだ、結局警察の用意した書類を我が物顔で披露するだけか。

確かに機械は何度か使用すると壊れてしまう、だからあまり使わないそれよりよく使用するのは棺で対応なのだが毎回機械なんて使っていない。

あんなバレバレのを用意していたらあっさり捕まってしまうではないか。

呆れていると腑に落ちない言葉が聞こえた。

愉快犯快楽殺人いやいやそんなつまらない事で殺人なんかするわけないだろう、探偵も警察も役に立たないどころが僕よりも無駄に生きている、もう聞くに堪えず 野次馬に混ざりその場を立ち去ろうとすると、その空気を壊すような勢いで少年の声が聞こえる。

誰かの付き添いか可愛らしく椅子に座っているだけの少年の口からえげつない罵声が飛び交う。

色素の薄い髪に眠たげな顔から飛び交うその声は周りの大人達に負けず堂々としていた、少年は先程から披露する大人に向かい馬鹿なのかと突拍子もない言葉で次々に大人に論破し黙らせてしまう。


『大体可笑しいよ…女性じゃ無理ってなんで断定できるわけ?

複数って犯行は?男と言える確信は?この薄っぺらい資料を見てる限り毎回機械が使われているわけじゃないよね?

ねぇ、なんで?なんでそう思うの?大人なら教えてくれるよね?』


資料を投げ捨て、少年は次々に僕の思っていた事を口にする、大人達とはまた違う意見だが納得のできる内容だった。

野次馬も皆呆気に取られその場に立ち尽くす。

言いたいことを言い切ったのか少年はまた椅子に座りざわめく会場にあくびをしていた。

彼の言葉は自分に向けられているように正確に伝わる、少年の推理はほとんどといっていい程にピンポイントに当たり、僕が捕まるのも時間の問題じゃないかと汗が頬を伝う。

ちゃんと理解できる子がいるじゃないか、やはり大人より子供の方が純粋で言葉に汚れがない。

少し気が晴れいつか衝突するかもしれないその少年の名を僕はしっかり今も覚えている。

まだまだこの命も捨てたものじゃないな、いつか僕も彼のような理解ある人に……殺されたい。

もしも願いが叶うなら何処かにいる弟に出会えたら僕も殺してもらえるかな……。


大人は絶対に嫌だ。


あんな汚い存在に消されるくらいなら牢に入った方がずっとマシだ。

僕はそのまま教会に向かう、なんとなく推理も真相に近かったこのままでは、本当に捕まるさぁ、どうしようか今更このやり方を変えるのも危険だ……ふと鏡に写った自分を見つめる、あぁそうか。

髪をほどき緩く跡のついた髪の毛を前に置き首元を隠す。


『ふーん、便利なもんだ。』


この容姿はあまり好きではなかったが、自分を偽るには都合がいい僕は誰もいない教会の奥の部屋に生前シスターが使っていた部屋を訪れる、埃を被ってはいたがまだ使える厚手の布でできた服は僕の貧相な体を覆い隠してくれた。

何もしなくてもそこらにいるような女性の一人に見えるだろう、まぁ好んで着るには抵抗もあるがこの際それでもいいだろう、まさか犯人の男が女装してこんな所で住んでいるなんて誰もわからないだろう。


祭壇に立つ我らが主以外は……


祭壇の前に置かれた棺の中白い布と百合に敷き詰められた箱の中今度は誰をこの中に入れよう、年輩のシスターも修道院の子も皆皆、教会のいる人はここにしまってしまった。

次は誰を入れようか。


『ねぇ、今度は誰を入れようか。

僕はまだ皆の所に行けないだから待っててね。』


あぁ、アベル……

早く会いたい、何処かにいる君にまだ生きていると言うなら僕を覚えていると言うなら早く早くおいで……僕も絶対にいつか見つけて見せる、だからだからもしも会えたら……


僕を殺して……愛しい君の手で。


『早く誰か来ないかな?』


ーendー



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