第4話

「……………暑い」

九月が近づき一時ほどの気温ではないものの

残暑と呼ぶにはあまりにも太陽光線が強く、家でおとなしくしておくべきだったと遅すぎる後悔を抱きながら目的地である本屋に足を進める。

夏休みも終盤になり一般的には新学期が始まる時期とは言え、駅前は人でごった返していた。

ああ、夏休みは学生だけか。

よく見れば仕事に勤しむスーツ姿が何人も確認できる。この灼熱の中、汗水流して働いていると思うと、社会があまりに残酷に見えてくる。

けど、まあ、僕には関係ないが。

なるほど、この身を焦がすような暑さも三十六度のタンパク質に囲まれていたら理の当然か。思えば、三十六度は普通に猛暑日だ。そう考えれば、やはり今日外出したのは愚行だったと言わざるを得ない。そもそも読みたいと思い立った本も遅まきながら考えてもそこまでの必要性があったかすら怪しい。気まぐれと呼ぶにはあまりに愚かな選択だ。

まぐれではなく悪手。

アスファルトに滴り落ちる汗が一瞬で気化してしまいそうなほどの熱気を感じながら周囲を見渡してみても誰も彼もが、暑い暑いの大合唱。そんなに嫌なら外出しなければいいのにと思うがそうもいかないのだろう。厚かましいにもほどがある。

誰もがこの暑さに苦悶の表情を浮かべる中、

一人の人間ーーー女性だろうか?ーーはその中で異質を極めていた。この真夏の炎天下の中には不似合いな、サイズが大きすぎて膝下まで届くヨレヨレなレインコートに身を包み、キャップを逆向きに被り汗一つ見せず涼しげな表情を浮かべている。何か探しているのか、キョロキョロと不自然極まる行動が相まってより不審者感を全身から醸し出していた。不審者というより不信者っぽい。

「…………なんだ、あれ」

無視だ、シカトだ、無関心だ。

あれと関わると碌なことにならない。そう本能が訴えてる。得てしてその本能の警告はよく当たるのだが、その事態を回避できないのが玉に瑕、どころか致命傷だ。

巻き込まれ体質と言えば、アニメの主人公っぽくてカッコ良さげに聞こえるが僕の場合は巻添え体質だからどう転がっても悪い方向にしか話が進まない。巻き込まれることで事件が起きるのではなく、事件が発生して取り返しがつかない、どうしたってバットエンドにしかならない状況で巻き添えを食う。理不尽にも程があるがこれが当事者同士、痛み分けで片が付けばいいが性質タチが悪いことに後々に伏線の如く尾を引く。

バタフライエフェクトじゃあないが、どこかしらで必ず何らかの影響を与える。それがドミノ倒しのように続いていくのだから厄介なことこの上ない。

今の状況にしたって、こんな変な女に絡まれることなど心当たりがありすぎて逆に身動きが取れない。精々出来ることと言ったら、逃げるだけだ。

そう考え、無駄だと半ば諦めつつも本能に従い来た道に引き返すことにしたのだが、時すでに遅し。

後ろを振り返った瞬間、肩を力強く握られた。おそるおそる力のかかる方向を見ると、先程変人認定した彼女が立っていた。

「よーやく見つけました」

不敵な笑みを浮かべた彼女の瞳はどこか挑発的だった。

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