episode1前編1

西暦2390年-----

290年前に起きた火星激突により、移住を余儀なくされた地球の生命体。火星移住の為に、チューブ型の100本近くの橋が作られた。それに合わせて、火星の各都市には巨大な入星検問施設が作られ、多くの人類が検問を受けていた。


火星都市 南検問所------

ここもまた多くの地球からの移住者が検問を受けていた。


緑色の肌をしている肥満体型の中年火星人の清掃員がトイレを掃除していた。

鏡には端末が内蔵されていて、天気予報や、新商品のCMなどが流れている。


「新型の掃除機か…」


どうやら、最新式の掃除機のCMが流れているようだ。「手首に専用の赤外線バンドを付けると持つ必要がないんです!」と甲高い声でナレーションされた。


「他に楽しい事はないものかね…」

独り言を呟きながら掃除機をかける。旧式ではあるが、音は殆どしない。

掃除を進めていると、様式トイレのドアの下から緑色の液体が流れてきた。


「ひ!」

その液体を目にした清掃員は、火星人の血であることを悟った。しかし、変わらない日常の中の非現実的な出来事に気持ちが高ぶり、ドアを恐る恐る開く。


そこには、壁に打ち付けられた円形の木材に沿って張り付けられた火星人の遺体があった。


「あぁぁぁあ!」

清掃員は悲鳴と共に腰を抜かしてしまった。火星人の亡骸は白目をむいており苦しそうな表情がより不気味さを演出する。


程なくして現場付近には「M.P.D.」と表示された帯上の電光式非常線が張られ、南支局の警察と鑑識が現場検証を行う。


「火星人ですか」

「そのようだ。北支局には連絡したか?」

「えぇ、そろそろ着く頃かと」

火星警察の中でも、火星人関係の事件を多く担当しているのが北支局だ。


「この亡骸のポーズ…意味でもあるのか…」


「O(オーズ)…火星人を嫌う宗教団体です」

北支局現場チームの新人、火星人のハーフであるリーン・サンテが先に到着した。


「知らないんですか?学校行ってました?」

リーンはルーキーらしからぬ事を稀に言う。


「これはこれは、水色の新星リーン・サンテ捜査官」

「差別用語ですか…幼稚ですね」

「てめぇ!新人のくせに!」

もう一人の若い警察官が野次を飛ばすが、リーンはそれを無視し、亡骸に寄り、宗教団体「O」の説明をする。


「勉強不足の先輩に教えてあげます」

リーンは屈託のない笑顔で二人の先輩警官をあざ笑いながら説明を続ける。


「宗教団体「O(オーズ)」は人間だけが洗礼を受けられる人間限定の団体です。「O」は円形ですよね。つまり数字の「0」と同じ意味を持っています。教祖は

人類以外の祖先を信用していません。神さえも…。つまり、掲げている「0」とは人類の始まりを意味し、人類だけの世界を造るという意味なのです」


「説明どうも。動機はもう分かってるってことか」

「さぁ…ただこの遺体のポーズがそれを意味するだけです」

「先輩、もうこの手の事件は北に任せましょう。なんだか気味が悪い」

「そうだな…ここは大先生もいる北に任せるとしよう」

南支局の先輩警官はリーンを煽りながら後輩と現場を去っていく。

そこに遅れて到着した、ホリディ・ジョンソンとキング・ウォンのコンビが二人とすれ違う。

「よう!今日の現場は見物だぜ」

すれ違いざまに南支局の二人がホリディとキングを煽る。


「失せろ」

キングは冷たくあしらう。

「相手にするなキング」


「おはようございます!」

リーンは、遅れてきた二人に元気よく挨拶する。

「おはよう、あいつらに何か言われたか?」

ホリディがリーンを慰める。


「いえ、気にしないでください。それより遺体の方を」

「身元は?」

キングが近くにいた鑑識に聞く。

鑑識は、火星警察共通で使われている腕に装着された小型の専用端末で壁に情報を投影した。投影された情報を読み上げるホリディ。


「サクナ・マンティス。火星人。30歳。妻は地球人。職業が…」

「検問管のようですね」

リーンは、血だらけになった社員証を見つけて言った。


「南検問所所属…ここの職員のようだな。殺害プロセスは再生できるか?」

鑑識に指示を出すキング。

「殺害プロセス」とは、警察機関独自に開発された捜査システムで、事件現場をスキャンすることで、推測ではあるが殺害当時の現場の状況をムービーとして再現できるのである。


鑑識は「殺害プロセス」を再生した。

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