前編2
殺害プロセスのデモムービーが投影された壁に流れる。
デモ人体で再現されたムービーには、犯人らしき人影がサクナの喉をナイフで切って殺害、その後に予め壁に打ち付けられていた円型の木片に遺体を張り付けていた。
「巷で噂の宗教団体「O(オーズ)」か。続きは局に持ち帰ってからだな」
ホリディは北支局の鑑識管、ゾイ・ブロウに連絡した。
北支局のゾイのデスクにホリディからの通知が届き、小さなモニターがデスクの端から出てきた。作業中でもすぐに確認できるように、そのモニターに視点を合わせるだけでページを開けるシステムになっている。
「ゾイ、これから亡骸をそっちに運ぶ、解剖の準備をしてくれ」
モニターには指示を出すホリディが映っていた。
「分かったわ」
ゾイは腰までで切られた白衣を纏い、解剖室へ向かった。
「こっちも準備するか」
ゾイに用件を伝え、通信を切るホリディ。
鑑識が、大型の車にサクナの遺体を入れた。
車には南支局を示す「South.Police.Depertment」と書かれていた。
現場チームの乗る車が続々と北支局に到着する。
火星警察北支局の建物の形は楕円型で半分は地面に埋まっている。まるで半分に切ったゆで卵のようにも見える。
遺体は、専用の搬入口に運ばれる。
各支局には、入り口とは別に、遺体解剖室に繋がる搬入口がある。カプセル型のエレベーターに遺体を入れ、操作すると自動的に解剖室のエレベーターシャフトに届く。全ての処理を終え、南支局の鑑識たちは去っていった。
「お勤めご苦労さん」
ホリディは局の入り口に向かいつつ鑑識に声を掛けた。
エントランスで三人は立ち止まった。
「手分けをしよう。リーンはサクナの身元をもっと洗ってくれ。キングと俺はそのまま解剖室だ」
ホリディは、二人に指示を出す。
「分かりました、では後程」
リーンは、サクナの身元を更に詳しく調べるため、自分のデスクへ向かった。
ホリディ、キングはゾイのいる解剖室へ向かう。
その途中で、リーンの話をしていた。
「リーン・サンテか…。ルーキーのくせに遺体を前にしても冷静だよな。俺がルーキーだった頃なんて、飛び散った血でさえも吐き気がした」
ホリディはリーンを褒めていたようだ。
「現場の仕事もまだ数回のはずだがな。過去に何かがあったのかもしれない」
キングも認めているようだが、やけに冷静なリーンの過去が気になっていた。
「ま、仲間が増えて嫌な気分じゃないよな?」
ホリディが笑みを浮かべながら話す。
二人が話をしている間に解剖室に到着した。自動ドアが開き、二人はゾイに立ち寄る。
「亡骸の調子は?」
ホリディがいつもの調子でゾイに聞く。
「無口なのは確かね。喉の傷跡を見て」
ゾイが鑑識専用端末でパックリと開いた喉をスキャンし、壁に投影した。
このツールは、遺体の傷跡の形から使われた凶器を瞬時に検索して、鮮明な画像で表示してくれる。局の情報ネットワークとリンクしているため、局内でしかその効果を発揮しない。
「まぁ、ナイフだろうな」
表示された凶器はナイフのようだ。ホリディは投影された情報を見ながら言った。
「持ち手の部分を拡大できるか?」
キングは何かに気付いたようだ。
「さすがキングね。「O」の文字が彫られているわ。これは、宗教団体「O」の信者にのみ持たされる短剣よ」
「「O」の信者である証明のような物だ」
キングがホリディに説明した。
「何百年も前に使われていた十字架のような物か?」
「旧世界ではロザリオと呼んでいたらしい」
ホリディの質問にクールに答えるキング。
「「O」の信者が犯人と見ていいべきか…信者になりすまし、「O」に濡れぎぬを着せているか…」
キングは、腕を組み深刻な表情を浮かべた。
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