第49目 送の強烈なパンチが追志を襲う

 二日目の闘いがすべて終わり、転人と三儀はアリーナをあとにしようとしていた。

 そこに、追志と送が声をかけてきた。


「今日の闘いで、あんな不快な質問をしてしまい、申し訳ありませんでした」


 送は、深く頭をさげた。


「本当に、ごめんなさい!」


 追志は、土下座をしていた。


 その頭を、送は踏んでいた。


 ぐいっと。

 ぐりっと。


「そこまでしなくていいですから! そもそも闘いの中での駆け引きですから! 大丈夫ですから! やめないと、追志さんが大変なことに……もうなっていますけれど、より大変なことになりそうです!」


 三儀は、ふたりの行為をなんとかやめさせようとしていた。


「ヨミちゃん……踏むのは、なんかちょっと、違うんじゃないかなと」


「そうね……そうかもね」


 送は、追志の頭を一度強く踏みしめてから、足をどかした。

 追志は、ようやく解放された頭を確かめてから、ゆっくりと身体を起こし立ちあがる。


「じゃあ、いつものこれを」


 そんな追志に、送は強烈なパンチを叩きこんだ。


「○※△□!」


 声にならない声をはき出して、追志は再び地をなめた。


 突然の光景に、転人も三儀も呆気にとられた。

 とられつつも、三儀は追志を気遣おうと近づくが、追志自身が手でことわりを入れていた。


「これは、いのりちゃんのみそぎです」


 送も、三儀の優しさに首をふる。


「しかし、あれは闘いの中でのことですから、しかたないのではないかなと」


「それは違います。たとえルールにのっとっていたとしても、自分への矜持きょうじと相手への尊敬そんけいが失われてしまえば、それはただの暴力です。それでよいという人もいますが、私たちはそれを望みません。

 いのりちゃんの質問は、そのどちらもが欠けていました、だから、こうなります」


 送は、うずくまる追志を手で示す。


「……そう……いう……こ、と。……私たちは、お互いのダメなところを、わからせ合う約束をしてるの。私が考えなさすぎたときはヨミちゃんが、ヨミちゃんが考えすぎなときは私が、こんな感じに、殴る」


 追志は「今日のもきいたぜ」と、苦しみながらも親指を立てている。


「……身体のほうは大丈夫なんですか?」


「これでも鍛えてますからね。殴り方も、運動にしか興味がなさそうなとある熱血漢ねっけつかんに指導してもらってますので」


 本人たちとその指導者たる専門家が大丈夫と言うのであらば、きっと大丈夫なのだろう。

 転人は、そう思いながら、ふたりのそのしきたりに感心していた。


「そのストイックさは、願石を思い出すな」


「確かに、願石ちゃんは頑固だからねー」


「ただ、もし相手が願石さんだったのなら、どんな質問でもかまわずしますけどね。見知った相手になら、それが敵でも味方でも、配慮はしますが容赦はしません。

 だから、いのりちゃんは玉子さんにではなく、廻さんに質問をするべきだったのよ。『廻さんは玉子さんのことが好きなんですか?』と」


「それは……勝負とは関係なく知りたいところだねー」


 追志は、にひひ、と笑いながら、そんなことを言う。


「いえ、それも軽々しく聞くことではありませんよ」


 そう言った三儀は、すました顔をしながらも、本当は答えを聞きたいという目で、横にいる転人を見ていた。


「あーそうだ、願石ちゃんとは違うけど、あいつもなかなかだよね。頑固というかなんというか……。むしろあいつは、誰にでも軽くこういうことを聞く側の人間だから、あいつこそ、私たちみたいな決まりごとが必要なんじゃないかなー」


「ああ、あいつね。あいつは……悪い人間ではないのかもしれないけど、根本的に違う方向から、使命をもって踏みこんでくるからね。だからこそ厄介やっかい


「あいつ?」


 転人は“厄介”であるその人物のことが少し気になって、追志と送にそう聞いた。


「私たちと同じ首脳陣の、六ノ目の笊籬宣のことです」

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