第40目 それぞれの闘いへの思い
大会参加者たちは、一ノ目高校に集まってきていた。
ひかえ室となっている各教室やそれらをつなぐ廊下には、それぞれに普段とは違うにぎわいがあふれていた。
◇◆◇◆◇◆
ここは、とある教室。
机と椅子は
「これはこれは、六ノ目学校生徒管理役委員会、通称『
その空きに、ふたりの生徒の姿があった。
「おやおや、いわゆる
笊籬宣と呼ばれた男は、性別
性別不詳なのは、声が中性的なことに加えて、
「本日は、遠いところご足労いただきまして、誠にありがとうございます」
フードの生徒は、
それに対して、笊籬も背筋を伸ばしたまま、ゆっくりと上体をかたむける。
「いえいえ、
白主様直々のご開催に、白主様とのダイスダウンが賞品となると、もうこれ以上のものはないでしょう。そんな記念すべき大会のご準備を一ノ目高校の皆様がご担当されているのですから、感謝の極みにございます。
……いやしかし、本当に感謝すべきはそのような大役をお与えくださった白主様にこそであり、さらにいえば、白主様にダイスをお与えになった神にこそかもしれませんね。これは、ダイスの神へのより深い祈りが必要でしょう」
そう言うや否や、笊籬はつかつかと教卓に向かい、持参したのであろう木製の鞄をその上へと置いた。
木製の箱はガコンガコンと音を立てて変形し、中から
中央にはダイスが
笊籬はその窪みに、自身のものであろうダイスをはめこむ。
そして祭壇に向かい、祈りを捧げ始める。
「……とてもユニークな仕掛けですね」
「ええ。この仕掛けは、
笊籬は、祈りを終えて、フードの生徒に視線を戻す。
「さてさて、あなた様のことはなんとお呼びすればよいか……そうですね、
フードの生徒は、
「フードのかたは、なにか私にご用事がおありになって、ここにおこしになられたのではないでしょうか」
笊籬のうながしに、フードの生徒はおずおずと口を開く。
「不躾な質問で
「今、かの者らは、
「そうですか」
「どうかしましたか?」
「いえ……」
「ぜひにおっしゃってみてください。ご安心ください、どのような言葉であろうとも、心からの言葉であれば
「そうおっしゃっていただけるのでしたら……その、もしお許しいただけるのでしたら、不肖この私めを、あなたのパートナーにしていただけないかと、そう
「ほう、……ということは、あなたも“
フードの生徒は、懐からダイスを取り出す。
そのダイスを見て、笊籬の目の色が変わる。
「……これはこれは、またおもしろいものをお持ちのようですね」
「おわかりになられるのですか?」
「もちろん。“
笊籬は嬉しそうに、フードの生徒を祭壇の前へといざなう。
「さすが一ノ目高校の生徒さんだ。願石さんが首締役員長を担っているだけのことはあります。彼も同じ
フードの生徒は、笊籬になかば強引に、祭壇の窪みへと自身のダイスを入れさせられる。
そして、先ほどの笊籬と同じように、祈りを捧げさせられる。
もちろん、笊籬も一緒に祈っていた。
「あの……」
「ああ、ああ、申し訳ございませんでした。パートナーの件でございますね」
笊籬はいっさい迷いなく、フードの生徒に向かう。
「こちらとしても、ぜひ、あなたにパートナーになっていただきたいと、そう思っておりますが、いかがですか?」
「はい。それは
フードの生徒は、嬉しそうな声をあげた。
フードの下で、どこかで見たことのある嫌な笑みを浮かべながら。
◇◆◇◆◇◆
ここは、とある廊下。
浮梨は、忙しく校内を歩き回っていた。
もちろん、その内情を微塵も表には出さずに。
「誰かにまかせてはダメなの?」
紙芸は、そんな浮梨を見つけて、強引に呼びとめていた。
「それでもいいんだけどね」
浮梨は、観念した様子で紙芸の横に並び、壁にもたれている。
「少しは休むのよ。使えるものは使ったほうがいいわ」
「……ありがとう」
浮梨は、紙芸から手渡された紙コップを見つめている。
その手の中の
「浮梨に倒れてもらっては、優勝できるものもできない」
「……そうね」
行き交う生徒たちにとっては、今の浮梨も、いつもの一ノ目高校生徒会長にしか見えないのだろう。
だが、紙芸にはわかっていた。
「変わってはいないみたいね」
「相も変わらず、いつもどおりよ」
「……そうじゃないわ」
紙芸の言う「変わっていない」のは、「生徒会室で話したときの浮梨と同じ」という意味だった。
あのときと同じく、浮梨は相変わらず、どこか変だった。
そう紙芸は思っていた。
「それじゃ、そろそろ行くね」
「ええ、……またあとで」
去る浮梨は、一度も紙芸と目を合わせることはなかった。
見送る紙芸の目は、
◇◆◇◆◇◆
ここは、
ここにいるのは、転人と三儀のふたりだけだった。
「浮梨会長、忙しそうだったな。できることはしたいんだけど」
「私も、そうは言ったんですけどね」
あなたたちは自分たちのことだけを考えて。
そう言われてしまっていた。
「玉子から見て、最近の会長はどう?」
転人は、視聴覚室から続く浮梨への違和感が、いまだはらいのけられていなかった。
「そうですね、……少し元気がないようでもありますし……それになんと言いますか、その……言葉にするのが難しいですね」
違和感を覚えていたのは三儀も同じようで、力なく笑ったその顔からも、浮梨を心配していることがよくわかった。
「そうか」
ふたりとも、それ以上、言葉をつぐことができなかった。
外から舞いこんでくる華やかでにぎやかな声音が、よりクリアに聞こえてくる。
「玉子は、大丈夫なのか?」
「私は大丈夫です。これは……私が始めたことなんですから」
「だとしても……」
「やっぱり、転人さんは優しいですね」
三儀は、ゆるみそうになったほほを心ごと叩き、決意をこめた顔を作った。
まっすぐ前を見て、小さい両の手をぎゅっと握っている。
「でもだからこそ、私は転人さんとともに父を……喝采白主を倒します。そのためにも、この大会は負けられません」
「……そうだな」
そんな三儀を見て、その言葉を聞いて、転人も決意を新たにする。
俺には、まだ闘う理由がある。
「勝とう、ふたりで」
「はい」
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