本編
プロローグ
ここは
「よし、準備できたな」
授業はとうに終わっていて、生徒はほとんど残っていない。
部活に遊びに
そんな中、教室に
「そのダイスはいったいなんなの? 私たちみたいな、できそこないの落ちこぼれには、
「俺をお前と一緒にすんな。これでも
「あんたが中堅? ないない。この前のテスト、私よりも点数低かったじゃない」
「あのときは、たまたまだ」
「語学も数学も史学も、
「……そうだ」
「ふぅん?」
「なんだその目は。いいか、あのときはだな……」
「盛りあがってるとこ悪いけど、早く始めない?」
「そだね、言い訳はあとでいくらでも聞いてあげるからさ、早く見せてよ」
「……わかったよ。あーってことだから、よろしくな、ええっと……誰だっけ?」
「
女子は、視線を一身に受けるその残りものに、続けて声をかけた。
転人と呼ばれた男子は、その
いつものことだとでもいうように、
「で、あんたはこっち」
そう言われた別の男子は、少し
動きながら、思い出したように口を開く。
「“テントクン”だっけ? 始める前に、君にこれだけは言っておきたい。これから俺が使うダイスは、苦労して苦労して苦労した末に、やっとのことで手に入れた一品なんだ。
「おいおい、なに言ってんだよ。必ず勝てる相手がいいって言うから、こいつに頼んだんだ。こいつはな、誰が相手でも、どんなときでも、絶対に負けるんだ。聞いたことあんだろ、
「その
「まま、やってみりゃわかるって。早く始めよう、ほら、ダイス出して」
転人の対面に立つ男子は、
その箱のふたを開けて、中から
ダイスとは、その名のとおり、サイコロのことだ。
誰もがよく知っている、一から六までの数字がきざまれた
男子が取り出したダイスも、なんの
片手で
一方の転人は、ポケットから
彼の噂の
「やり方はふたりとも知ってると思うけど、急ごしらえの場だから一応説明しとくわね。まず、私が開始の合図をするから、この机の上にダイスを
「だな、めんどくさいし」
「それは、俺がめんどくさいってことか?」
「あら、わかってるじゃない」
「…………」
「そんな見つめないでよ」
「それじゃ、勝ったほうが負けたほうにジュースをおごるってことで」
「それがいいわね、すぐそこの
その言葉は、転人に許可を求めているようでいて、その
「それじゃ、始めましょうか」
女子は、転人と対面する男子の間に立ち、右手をあげる。
それに合わせて、ふたりはダイス持った手をかかげ、机に向かってかまえを取る。
「ダイス……ダウン!」
女子が右手をふりおろす。
その合図で、向かい合うふたりは、机に向けてダイスを降った。
降られた二つのダイスは、それぞれ違った動きを見せる。
男子のダイスは、
「このほうがよく見えるだろ」
ダイスはそのまま目の前で回転を始める。
回転が速くなるとともに、ダイスから、ぼうっと淡い光があふれ出してきた。
目が
その光は
その光景は、まるでダイス自身が、光でできた羽を左右に広げていっているかのように見えた。
限界まで大きく広げられた光の羽は、一度大きく羽ばたかれる。
それに合わせて、ダイスは回転をやめ、頭上へと高く舞いあがる。
なんの変哲もなかったダイスは、わずかの間で、この世のものとは思えない光の羽を持つ
「
「「おおお」」
空飛ぶダイスを見て、男子の仲間ふたりは思わず声をあげていた。
「これが“
「すごい……ほんとにダイスが変化するんだね。映像でしか見たことがなかったから、信じられなかったのよね。……ううん、目の前で見ても……まだ信じられないわ」
男子のダイス『WING』は、羽を二度三度と羽ばたかせて、その体を
淡く白色に発光していて、全身に光をまとっているようだった。
一方の転人のダイスは、
立方体のまま、変化せず、動かず、もの言わず。
見る影もなかった。
ダイスの上面には、一を表す赤色一点。
『
しかし、転人の噂の証明など、光羽ばたくダイスの前では
「これって、あんたの意志で動かせるの?」
「ああ、動かせるぞ」
『WING』は、鳥のように教室中を右に左に飛び回ったあとに、
「もちろん、こういうこともできるぞ」
『WING』が大きく羽を動かすと、その
羽根は
さらに二、三の羽根が発射され、転人のダイスが傷つけられていく。
ひびが入り、ついには赤い点が
かろうじて形は
「とまあ、こんな具合だ」
「これこれ、これだよ、こうでないと! ……まあ本当は、ダイス同士で闘ってるとこが見たかったんだけどね」
「“テントクン”のダイスはただのサイコロだから、それは無理だな」
「そのダイスの
「そうだな」
『WING』は、机に向かって高度を下げる。
自身を回転させ、六の面を上にして、ゆっくりと
「これで俺の勝ちだな」
数字の大きいほうが勝者だ。
このダイスダウンの勝敗は、
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